第11話




 お腹が満ちる生き物としての満足感。新しい外食の店を開拓できた喜びと新しい味との出会いから来る知識欲の充足。そういったものを味わいながら僕は店を出た。

 現在の自宅から近く、自転車はもちろん歩いてでも行ける距離にある店だ。昔からある街の食堂といった風情で、ラーメンや焼き餃子、中華丼など和風中華を中心にした街中華とか言われる地域密着型のお店だった。客も地元の常連が多く、店員も家族経営といかにもであり、一見さんには敷居が高い雰囲気だった。ま、僕はそんな雰囲気無視して普通に入って、食って、出てきた訳だが。

 味の感想としては、久々の外食として満足できるものだった。チェーン展開する店には出せない味があり、店にある地域密着型の雰囲気もチェーン店にはないもので新鮮味を覚える。メニューも豊富で値段もリーズナブル、住まいを移した今なら常連になりたいと思える味だった。良い店を見つけた。そう思える満足いく昼食でした。

 そう、僕は社宅扱いだったアパートから住まいを移した。同時に派遣社員という職を辞して、新しい生活を始めた。世間の肩書き的には無職の男になったのだ。


 勤め先の工場、登録していた派遣会社、双方とも僕が辞める意思を伝えると至極あっさりと受け入れて、極めてスムーズに辞職のプロセスが進められて、一週間で僕はそれなりに住み慣れたアパートを出た。人の出入りが激しいのが派遣業だ。派遣側、工場側もいちいち一人の事に構ってはいられない。僕自身が問題ないと言っている以上、余計な口出しも無く仕事を辞めることが出来た。

 普通ならこの前に親兄弟、夫婦、などとの話し合いが挟まるのだろう。けど天涯孤独で身軽な僕には全く関係のない話だった。ビバ、気軽な身の上。引越しする上でも物を多く持っていないので荷物は多くなく、ダンボール数箱で事足りてしまい物理的にも身軽だ。

 レンタカーで借りた軽自動車に荷物を積んで新居へと引っ越したのが先月の終わり、今は月が替わって季節は春になっていた。結構な年数勤めた工場と派遣会社だったけれど、僕には何の未練も思い入れも無い。季節が変わるのと同じく、生活も簡単に切り替えてしまえそうだ。


 店を出て徒歩で15分。大して急ぐことも無く、満腹感に浸りながらのんびり歩いてこのタイムなので普段だったら10分ぐらいだろう。そのぐらいの時間で引っ越したばかりの新居に着いた。

 築20年ほどの5階建て中古マンション。その3階角部屋1号室が我が家だ。次の新居を探してネットで探していたらタイミング良くこんな物件を見つけて、軽く内見して即決で購入した。案内をしてくれた不動産屋の人は余りの即決ぶりに呆気に取られていたのを今でも印象に残っている。ともあれ、27歳にして僕は賃貸生活からオサラバした。

 玄関から入ってダイニングキッチンへ。物が無いため殺風景なくらいに部屋は広々としている。一応ここ数日で洗濯機や冷蔵庫といった必要な家具家電は買って設置まで済ませているけど、どれも独身者用の小型タイプなため空きスペースが多く残ってしまい余計に寒々しく見える結果になっている。物が多くてゴチャついているより何倍もマシだと思うので、当面これでやっていこうと結論は出ているが。


 コンロに水を満たしたヤカンをかけて、すぐにコーヒーを淹れる用意をする。朝食か昼食の後で飲むコーヒーは僕の習慣だ。といっても、豆にこだわったり焙煎にこだわったりするほどではない。僕がやるのは愛用のマグカップにワンドリップタイプの簡易ドリッパーをセットしてお湯を注ぐ程度だ。ああいった物は凝り始めると果てが無く、底なし沼みたいなもので恐ろしい。僕にはこの位でちょうど良いのだ。

 お湯が沸くまでの間、手近のテーブルに置いていたキンドル端末を手にして昨日まで読んでいたところから読書を再開した。書籍を読むときは紙の本が好みだけど、冊数が多くなると場所をとるし今回のような引っ越しの時も不便なため電子書籍を多用している。

 液晶画面に映る文字を追いかけながら、頭の半分は僕自身の今後について考えている。ラノベの主人公が活躍している場面を文字で楽しみつつ、ラノベじみた僕の今後を考えるとは奇妙な気分になってきて変な笑いがこみ上げてくる。気が付けば喉の奥から「くっくっくっ……」なんて押し殺した笑いが湧いて、同時にコンロでヤカンのお湯が沸いて蒸気がヤカンに付いた笛を鳴らした。

 一度キンドルはテーブルに戻し、ヤカンを手にしてお湯をマグカップにセットした簡易ドリッパーに注ぐ。挽かれたコーヒー豆にお湯が注がれた瞬間に広がるコーヒーの香りが鼻をくすぐる。心安らぐ瞬間だ。口から知らず吐息が漏れていた。

 一度お湯を止めて蒸らして再びお湯を注ぐ。マグカップに溜まっていく黒く芳醇な液体に気持ちが安らいでいくのが自覚できる。砂糖はスティックタイプで一本だけ。他には何も入れずにカップに口をつける。コーヒーの最初の一口は何度味わっても良いもので、口から鼻へと抜ける苦味と酸味とコクが脳を程よく刺激する。

 コーヒーの力を借りて僕の思考は本格的に今後について考え始めた。テーブルと一緒に買った椅子に腰掛けてカップ片手に考える姿勢になる。住まいを移し、今の生活を始めて二週間程の時間が経つ。そろそろ今後の方針を固めたいところだ。


 派遣の仕事を辞めて稼ぎを『Angel War』一本にしてみたけど、感触は悪くなかった。結城の話では大型の界獣と遭遇する頻度は低いと聞いていたが、仕事を辞めてから今日まで数頭の大型を仕留めてきた。結城と共同で戦っていた時よりは数は減っているものの、収入面で考えるなら充分な数を狩れており、工場でライン工をしているより遥かに稼げている。

 とはいえ、完全に出来高払いの不安定な収入だ。当たれば大きいが、外れれば損もある辺りどこか博打めいている。

 不安定な収入なのは前もって分かっていた。稼げるときにしっかり稼いで、生活のレベルを上げ過ぎないよう気をつければ問題無いと思われるが、派遣の仕事よりも不安定な点が僕の精神衛生に良くないようで少なからず不安な気持ちが胸の中で燻るようになっていた。

 人間歳を取ると安定を求めるようになると聞いたことがあるが、27の僕にも当てはまるようだ。社会経験を積んでいく中で、色々なリスクを見聞きして思考が安定と守り重視になっていくのだろう。少なくとも10年前の僕だったら今のように多額の金を手にしたら大して考えずに使ってしまうだろうな。そしてリスクに直面して後悔するまでがワンセットだ。

 予想外の不意の支出。あるいはアクシデントによりしばらく稼ぐ当てが無くなる。そもそも『Angel War』というよく分からない代物で生活を支えようというのだ。どんなトラブルがあるかそれこそ分からないと言っていい。

 我ながら酔狂な事をしたと思っている。でも、あのまま派遣社員でいるのも大して変わらない。あの閉塞感から抜け出せる機会があるなら酔狂でも構わない。現に僕は職を辞したことを全く後悔していない。

 それらを踏まえた上でどうするか…………収入源を増やしてみるのが堅実かな、と考えが及んだ。


 いつの間にかマグカップのコーヒーを飲み尽くした。ワンドリップのコーヒーはちょうどこの一杯でおしまい。脳内の買出しメモにコーヒーを加えた。マグカップはキッチンのシンクへ、ついで歯を磨きに洗面台へ向かう。

 健康維持としてやっている歯磨きは昼食後もやっている。キッチンから繋がる脱衣所の洗面台、鏡に映る不景気そうな顔の男を見ながら僕は毎回のルーチンとして歯を磨く。

 頭の中は収入源を増やすことで回っていく。まずは入手したBPについてだが、使い道を三通りに割り振っていくつもりだ。天使体の強化、汎用スキルの取得、武器防具の購入という『Angel War』をやっていく上で必要な強化費用がひとつ。次にBPを換金して食費や光熱費といった生活費でふたつ。最後はいざという時の出費に備える貯蓄と投資による資産運用でみっつ。この三通りを考えている。

 一応株をやって配当金を手にする収入源もあるが、本格的にやるには色々と足りない。収入源を増やすなら、副業だろう。といっても自由な時間を求めて職を辞したのに再び仕事で拘束時間を作るのは本末転倒。自分が何をしなくても勝手にお金が入ってくる形が理想的だ。


「となると、『商品』を作ってみるか……」


 歯磨きを終えて水ですすいだ口から独り言がこぼれ出た。以前の草臥れた男の声ではなく、張りのある男声。生活が変わったお陰で活力が出ているみたいだ。

 何らかの『商品』を作ってその製造権販売権を他者に与えて販売価格の数%を得る権利を貰う。多くの資本家や投資家がやっている手法だ。彼らは金に金を稼がせる他に、寝てても金が転がり込んでくる権利を幾つも確保していると聞く。そりゃあ、金が有り余るようになるのも納得で、住んでいる世界が違うのだろう。

 僕がやろうと考えるのはその真似事。世の資本家達には到底及ばないし、張り合う気もさらさらない。ただ収入の安定化を図るささやかな企みでしかない。

 腹案はすでにある。だから副業という選択肢が出てくるのだから。


「副業にもコイツを活かしてみるか」


 洗面所に持ってきたスマートホンを手に考えをまとめていく。僕の他所にはない活かせるモノといったらこれぐらいだろう。

 『Angel War』を起動すれば、洗面台の鏡に映る自分の姿が瞬きの内に天使体へと変身する。当然視界に入る体も変化して、体格差から着ている衣服がブカブカになった。格好がつかないのでアプリを操作してすぐに装備を呼び出す。

 まとまったBPが手に入ったので着ている防具も初期装備から更新している。こういう防具は値段=命みたいな部分があると考えているので、可能な限り良い物を選んだつもりだ。こういうのでケチると後々になって高い授業料を誰か――この場合は多くのケースで自分自身――の命で支払う事になる。創作物やハウツー本、ネットから仕入れた知識ではそうあったので、必要な経費だと割り切った。

 タイトなスーツの上に上着を羽織るスタイルは初期装備から変えていない。武器を人目から隠す意味でも大きい上着は有効だ。初期装備のライダースジャケットからロングコートになっており、防具としても守備力が増して小型の界獣に噛まれたぐらいでは何とも無いし、大型の界獣相手でも一撃ぐらい直撃しても耐えられる、らしい。『エンジェルブック』とショップの情報から収集した情報なので確実な事ではないし、防具を過信も出来ない。立ち回りはこれまで通り慎重にやっていきたい。

 ロングコートの下のスーツは、これも大きく違って上下一体になっている。作業着のツナギみたいな感じではなく、ロボ物のアニメに出てくるパイロットスーツが近い。つまり割とピッチリしているボディスーツだ。

 防具としての性能だけで選んだものだから最初はかなり後悔した。しかし何回かこれで界獣を狩っていくと、慣れ始めて今では普通に受け入れている。受け入れている事に僕自身がビックリだ。今では有名な対魔な忍のように露出狂なスーツではないだけ救いはあると割り切っている。


 ともあれ、鏡に映る雪代キリンとしての自分の姿を確認して満足する。これが世にいる金持ち達には無い元手だ。要するに『Angel War』を副業に活用しようというのが僕の企みであった。




 □




 雪代キリンと名乗ることになった人物が住んでいる地方都市より私鉄の特急で2時間強、それぐらいで日本の中枢たる東京都に行き着く。

 私鉄から別路線に乗り換えて数駅で行き当たるのが、電気街で有名な秋葉原。昔は家電、電子パーツ、次にコミック、ゲーム、アニメなどのサブカル文化の発信地と時代ごとに様相を変えていく街だ。現在はメイド喫茶などが下火になりサブカル文化の拠点は他所へと移りだし、街全体が次の商機を探っているような空気が漂っている。

 そしてこの街の裏側にも天使と界獣が戦う『フィールド』は存在していた。雪代キリンの住む地方都市よりも界獣の数は多く、それを狙う天使の数もまた多かった。その事情に合わせるかのように『フィールド』もまた広い。

 秋葉原の『フィールド』はJRの駅を中心に電気街、万世橋、昭和通までを範囲に入れて広がっている。表の世界と違い、物音を立てるものが少ない異様な世界の中、現在戦っている天使達がいた。戦いの場は電気街に立ち並ぶビルの中だ。


「みっちゃん、横から来ているっ!」

「うん、分かった」

「エスカレーターからも来ている。二人とも気をつけて」


 ビル一棟が家電量販店になっている建物の五階。三人の天使達が界獣の群れと戦っていた。

 界獣の形態はサルが一番近いだろう。サイズとしてはこの国に生息するニホンザルくらいだが、動きや全体的なシルエットはキツネザルのような形をしている。界獣特有の生き物らしさ皆無でありながら生き物の動きをして三人の天使達を取り囲んでいた。

 サル型の小型界獣は一匹の強さは大したことはない。武器も爪か牙だけで飛び道具はない。しかし数は多くて屋内戦というのがサル型を一気に厄介なものにさせている。

 商品である大型家電の影に隠れながら接近してくる。天井の構造物に掴まって上から襲ってくる。複数匹で連携を仕掛けてくる。などなど、多彩な攻撃方法を見せるサル型界獣を相手に天使達は苦戦を強いられていた。


「ああ……もうっ! 大して強くもないクセに鬱陶しいんですけど、コイツら!」

「さわちゃん、冷静になって。向こうのペースに乗らないで」

「分かっているけどさ、どうするのコレ。私達だけで切り抜けられる?」

「厳しいかな。おサルたち、こっちが疲れるのを待っているみたい」


 天使達を取り囲むサル型界獣達は、包囲を維持する事に力を注いでいるようだった。獲物を取り囲んで少しずつ傷を付けて疲れさせていく。そして疲労が溜まって大きな隙を見せたときが彼女達の最期の時だ。包囲に参加した全員で四方八方から襲い掛かり天使達を殺してしまう。それがこのサル型界獣のよく使う戦法で、経験を積んだ天使からも敬遠されがちな小型界獣だった。

 この三人の天使達は『Angel War』を始めて日も浅く、知識や経験が足りない中で界獣の群れと遭遇したのだ。端的に言うなら不幸な遭遇であった。

 天使達も必死にそれぞれの武器を持って、界獣達の爪や牙を防いだり凌いだりして致命的なケガを回避しつつ、どうにかこの場から抜け出せないかと機を窺っている。だが、サル型界獣の包囲網が崩れる気配は今のところ無かった。吼えたてる事なく、静かに、慌てる事なく、3人を追い詰めていく。


「……あっ」

「みっちゃん! ダメ!」

「うそ!?」


 どうにか守れていた防衛の態勢が一気に崩れた。長時間の戦闘による集中力の途切れか、焦りから来る迂闊な攻めによるものか、何にせよサル達の戦法は型にはまって一人の天使が大きな隙を見せた。

 崩れる体勢。傾く彼女の視界には急接近してくる一匹の界獣の姿が映る。生き物らしさなど微塵も無いはずなのに、ニタリと嗤ったように見える顔と振りかぶった爪が見えて、「まずは一人」と界獣が言ったように錯覚する。

 自分はこれでおしまいなんだ。彼女は不思議と冷めた気持ちで迫ってくる界獣を見ていた。目では捉えても体は間に合わない。不思議と世界がゆっくりに見えて、時間が傾いだように間延びする。

 振りかぶられたサルの爪が迫る。刃物の切っ先を思わせる鋭い爪が彼女の視界に映った。その視界に一筋のラインが引かれた。上から下へ。真っ直ぐに視界を分割した。

 ゆっくりに見えたはずの時間感覚の中でラインは一瞬の内に動く。右から左へ。直線を描き、曲線を描く。その動きで目の前まで迫っていたサルが裁断されていった。鋭く迫っていた爪は輪切りになり、サルの体は幾つものブロックに分割される。


「――なに、これ」


 思わず口から言葉が漏れた瞬間には時間の感覚は元に戻った。幾つものブロックに分割されたサルは瞬く間に塵になって消滅する。さらにラインは三人を取り囲んだ界獣の群れにも斬りかかり、空間に無数の直線と曲線を描いて界獣達をバラバラにしていく。仮に界獣達の肉体が普通の血肉だったらさぞかし凄惨な場面になっていただろうが、天使達の精神衛生上に幸いなことに寸断された先から界獣の群れは塵になって消えていった。

 気が付けば包囲していた数多くのサル型界獣は消滅していた。余りの出来事に他二人の天使も呆然とするしかない。


「何だったの? 今の」

「今のは……糸? ……まさか」

「まさかって、何か心当たりあるの?」


 三人の内一人が呆けた状態から戻って、今起きた出来事に記憶の一部が刺激されて情報を結び付けようとしている。この天使は他の二人よりも慎重派で、『エンジェルブック』での情報収集をやっていた。裏の物までは辿り着けなかったが、一通りの天使関連の情報を仕入れていた。

 その仕入れた情報が今の出来事と結びつこうとしていた。彼女は早速仲の良い二人にそれを説明する。


「『Angel War』のトップ層の人にさ、糸が主武装の人がいるんだって。何百メートルも離れた位置からでも糸で界獣を斬る事が出来るみたいなの。それでさ、今のサルがやられた時に見えたのも糸っぽかったし、もしかしたらって」

「糸? そんなんで界獣をやっつけ……られるんだろうね、今のを見ると。何? それらしい姿は見ないんだけど、その人の固有スキル?」

「みたいだけど、詳しくは分からない。ほら、固有スキルって大っぴらに話す人そう居ないし」

「そう。まあ、助かって良かったよ。ほらみっちゃん、立てる?」

「ごめん。足に力入らない、助けて」

「はいはい、腰が抜けたのね」


 話に出てくるトップ層の天使。しかし、あくまで当て推量であるし、もし本当だったとしても三人の天使達にとってはお礼を言う相手ぐらいの認識だった。色々と疑うにも経験と知識が彼女達には足りなかったのだ。

 それよりも三人無事に『フィールド』から出ることを考える方が先決だと、天使の一人が決めて他の二人もその方針に従った。腰が抜けて立てなくなった一人を面倒見のよい一人が背負い、量販店の建物から出ようと移動を始める。


 運良く命拾いした天使達の様子を確認した人影が一つ。三人がいる建物から離れ、メインストリートの上を横断する総武線の鉄橋の上に『彼女』はいた。普通なら三人の姿は肉眼はもちろん、建物の中にいる上に幾つも建物で遮られて双眼鏡があっても確認しようがない場所だ。でも彼女は確かに三人の無事を確認して、次なる行動に移った。

 両手をおもむろに上げて、虚空を引っ掻くように動かす。次にしなやかな動きで虚空をかき回す。さらに虚空を引っ張るように手を体に引き寄せる。まるでそれは何かのパントマイムをしているか、あるいは見えないマリオネットを動かす人形遣いの様だ。

 この一見すると奇妙な動きが彼女の攻撃動作だった。この秋葉原の『フィールド』全体に張り巡らされた『糸』が彼女の動きで界獣の群れを切り刻んでいく。屋外屋内を問わず、数を問わず、射程内ならば問答無用に界獣達を寸断していく。

 先程の天使達の一人が言った推測は当たっていた。彼女は『Angel War』におけるトップ層、位階:熾天使セラフの天使であり、名前を【伊吹六花】いぶきりっかという。




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天使戦線 言乃葉 @cotonoha

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