三十一 岩沼②
「
ヒミコンはシップから命じられた。
露見の泉の水中を覗くヒミコンはつくづくと呆れていた。
岩沼という男は教育者として
授業中。何かにつけて誇張し過ぎの自慢話を繰り返す。他の教師の悪口を吹き込む。
成績が振るわない生徒に対しては「学校のクズは社会のクズ。クズに存在価値があるとすれば。勝ち組人間の引き立て役になれること」そう言って
生徒の容姿に対するコンプレックスを公衆の面前で指摘して
生徒を馬鹿にして。笑いものにして。のけ者にして。ときにはイジメに発展するように助長する。
出世街道まっしぐらのビッグマウス男は最悪だ。今日もイキイキと
三者面談では。太郎の母親を
「いやはや。優秀な太郎君のご両親がまさか高卒だったとは! 驚きました。三流高校卒の親御さんでは最難関のキャピタル大学を目指している太郎君の進路の助言など不可能ですよねえ? 何もかもが難しくて、さっぱりと分からないでしょう?
お任せください! 担任の私の指導に従えば間違いありません。
ご安心ください! 親御さんが無知であることを恥じなくていいのです。国立カッスル大学卒の優秀教師である私が! 徹底してサポートします。
大丈夫ですよ! 世の中の大半が低学歴のご両親を
私は! 学園長お墨付きの聡明な人物です。国立カッスル出身の有能教師です。
良かったですね! 太郎君の担任が私であることが何よりも幸運でしたよ。
それにしても! 優秀な息子さんで……。トンビが
ああっ? もしかして病院での取り違えだったとか? そうだったとしたら! この上なくラッキーでしたね!」
岩沼は一方的にまくしたてる。日ごろから思い通りにならない太郎への
しかし。太郎の母親の表情に変化はない。
……なんだ? この母親は! 終始とぼけた顔をして! 素っ気ない態度に
この俺に! ゴマを擦らない。媚びを売らない。愛想を振りまかない。ペコペコしない。
子も子だが、親も親だ! 野暮ったくて世渡り下手の泥臭い田舎者め! 頭が悪くて冴えなくて。挙げ句に貧乏とくれば。俺だったら死にたくなるね!
ことさらに不愉快になった岩沼は心の中で悪態をつき続けていた。
とは言え。出世の駒である太郎のことは特別に気に掛けなければならない。
「太郎! 俺の言うことだけを聞いていればいい。そうすれば第一志望のキャピタル大学に合格できる。担任の俺だけが太郎の味方だぞ。
「……。はい」
しかし太郎は一度たりとも進路指導室に来ないのだ。相談してこない。歩み寄ってこない。
……あの生意気なクソガキッ! 勉強しか取り柄のない田舎者のくせに。優等生の仮面を被った不良の出来損ないのくせに!
岩沼は日に日に太郎への不満を募らせていた。そして強い怨念のこもる
ヒミコンは鼻息荒くワナワナと震えていた。
ゲイルが現れた。
「岩沼に怒り
「こいつ!
「クク。ラストオイル噴射というのは、ある意味『死刑宣告』のようなものだ。
三十年設定となれば。生きながら
「何だか。処罰執行が楽しみになってきました」
「処罰の執行によって対象者の運命は大きく暗転する。だから
早口でそう言い残すと。ゲイルはスッと立ち去った。
ヒミコンは首を
私に迷いなどないはず。だって岩沼はゴミ虫以下の糞野郎だ。
裏陰のピストルオイラーのトリガーを思いっきり引いて、ラストオイルを喰らわせてやる!
この時はまだ。そう思えていた。
未來王のジャッジメント 碓氷來叶 @raika_usui
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