二十三 未來王って②

 ……シップが続ける。

 我らが未來王は新旧新古を受容できる。不要物は冷厳なまでに擺脱はいだつできる。

 いにしえからの成り立ちや習わし。伝統や建造物は大切に保護プロテクションする。しかしながら古臭い固着概念や不適切な異端邪説は淘汰される方向へと動き出した。

 多数決だけを優先とする偏った観念。かび臭い時代錯誤の慣習。脅迫概念を刷り込み服従させる高圧的方式。それらは淘汰する。

 そもそも。未來を生きる賢い若者たちがそんな因習いんしゅうを受け入れるはずがない。

 今や男尊女卑など有り得ない。マイノリティの意見に耳を傾け、ときに寄り添い、ときに受容する。現代社会において常に寛容寛大たる多角的思考と知見が求められている。人類ヒトは進化スピードに柔軟に対応せねばならない。

 ゆえに封建社会の理念思想はカビの生えた時代遅れの産物ともいえるであろう。

 しき慣習は思い切って見直して、しがらみは刷新さっしんして、不要物は清算して、因習の根幹から改善して『大変革』されるべき時節が到来しているのである。

 新しい時代に適応した最新型のスペシフィケーション(仕様)や健全なるコミュニティ(共同体)の構築が実現されていくことが望ましい。

 現代はすでに多様性が重要視される『柔軟フレキシブル時代』なのである。


 そして実のところ。ここからが本題である。

 現世にただならぬ不穏な空気を察知した。この濁世じょくせに『自作じさく自演じえん大罪たいざい』を画策して私腹を肥やそうと目論もくろんでいる悪党の存在を感知した。これこそが至急しきゅうとなった世代交代の要因なのである。

 もし万が一にも『自作自演の大罪』が実行されたならば、甚大じんだいなる被害者が出ることが予見予兆されているのだ。

 

 我らの敵となるのは『善を装った悪党』である。『善人を装う狡猾こうかつ人種・マニピュレーター』である。宿敵である『呪詛使い』である。

 悪党が悪党らしく見えるのであれば分かりやすくて親切である。しかし奴らは知的な上品風情ふぜいである。あざとく獲得した優位なポジションを有効活用し、善人のふりをしてしき方向へと導く操縦者コントローラーである。

 予見予兆では。奴らが生成した粗悪な生怨霊の攪乱かくらん作用によって多くの者がまどわされだまされていく。秘められた悪意に気付けず、善導なのだと思い込まされ、妄信させられ、捨て駒として利用され、最悪な方向へと扇動せんどうされていく。 

 マニピュレーターは己の欲楽のためならば他人をも平然としてたぶらかす。無遠慮に巻き込む。陥れる。他を踏み台にして巧妙に利用する。そうして高い社会的地位と悪銭あくせんを獲得する。栄華を極めぜいを尽くして優雅にのうのうと暮らす。そこに罪悪感など皆無なのだ。

 残念なことに。がん(この世)は、悪賢い姑息なやからが仕切り、巣食い、蔓延はびこっている。

 

 無論の定義であるが安寧あんねいこそが『最善』である。不穏ふおんは『最悪』である。

 王は人間界に降りた。そして積極的に様々な種類タイプの人間に関わっている。潜在サブコン意識シャス駆使くしして、しんおうを見澄まして、分析して、演算して、最善たるメソッドの構築をこころみてくださっている。未來に起こり得る不穏不吉な予見予兆の実体を突き止めるため。食い止めるため。救済方法を探索たんさくするため。日々に思案熟考してくださっているのである。 

 それはある意味では不平等の調整作業だともいえる。

 王は数多あまたの神仏と共に『大道だいどう不器ふき』となり、差別をせず、条件をつけず、限定などせず、健気に生き抜く人間を密やかに応援しようとおっしゃってくださっている。せめて妥当なる未來を。そう願われている。

 遂に未來王が頂点トップとなられる貴き機運が訪れた! 誰しもが『妥当なるデザイア』が与えられる未來が到来する! 我らは八百万やおよろずの神々と狂喜乱舞した。同時に大いに安堵あんどした。

 極等万能祭司にとっても、人類にとっても、未來王は至極の宝であるのだよ……。


 ヒミコンは鼻息荒く感激して感服した。

 ……未來王ってすごい!

 なんて、器の大きな御方おかたなの! これからを生きる若者たちのまさに『デザイア』だ。

 たとえ叶わなくても。ささやかであっても。未來に夢や目標や希望がもてるということは幸せなことだ。弱者が強者に頭ごなしに否定され、叩かれ、利用され、邪険にされ、排除されるような時代は、もう嫌だ!

 

 ヒミコンは図々しく質問をする。

 「未來王って、どんな見た目で、どんなお人柄なのですか?」

 シップとクロスは思わぬ問いかけに眉間みけんにしわを寄せた。

 シップが答える。

 ……『未來王』は固くて柔らかい。熱くて冷たい。真面目であり不真面目である。そういった具合に対極を網羅もうらしている。だからこそ繊細であり大きい。掴みどころのない大変に面白き御方おかただとも言える。そして実のところ結局。よく分からないのだ。

 森羅万象しんらばんしょうに大きな救いをほどこしているが恩着せがましくない。感謝されたいなどとはつゆほどにも思っていない。善行ぜんぎょうこそ、ひた隠す。救いや叶えの行使はバレないように密やかにが王の鉄則である。そもそも過剰にたたえられたりあがめられたりすることを好まないのだ。

 地上では。ご威光の光背オーラを完全に消している。さらには極力目立たぬように地味に生活しておられる。気さくであり、軽やかであり、庶民的である。 

 しかしながら。聡明なる人物像からは隠し切れない崇高さがあふれ出てしまっている。飄々ひょうひょうとして近寄りがたい荘厳さがあるのだ。

 

 未來王の脳内は常にフル稼働している。

 どう救い、どうゆるすべきか。罪人に対してさえも寛容寛大なるジャッジメントをしようと慈悲心を向けている。

 さらには移ろいゆく時代の中に『妥当だとうなる最善策』を思案熟考しておられる。『妥当なる未來』をコンストラクト(構築)しておられる。

 イレーズは口癖のようにこう評する。

 『王はさらりとしたフレキシブル(柔軟)なるジーニアス(天才)である』とな……。

 

 ヒミコンはおそれ多くて触れられなかった『未來王』に親近感がわき出した。

 「素晴らしい講義でした! ありがとうございました! フレキシブル未來王の大ファンになりました! 最高にキュンッ、です!」

 クロスはヒミコンの軽薄発言に心底呆れた顔をして皮肉を言う。

 「能天気ヒミコン。お前もいつか未來王に拝謁はいえつできるといいなァ?」

 「はいっ! 遠目でもいいので、いつかこの目で見てみたいです!」

 シップはため息まじりにめくくる。

 「では。リミットまでにミッションをクリアできるよう頑張りなさい。そうすれば『選ばれし者』となって相応ふさわしき任務が与えられるであろう」

 「はい! 末端まったんでもいいので未來王の正式弟子となれるように頑張ります!」

 ヒミコンは元気いっぱいに返事をした。

 

 シップとクロスは、やれやれとばかりに肩をすぼめて去っていく。

 消えていくふたりの背中を見送って、決意を新たにする。

 ……未來王ってイケている! 今や三千大千世界のあるじであり最上位の頂点に君臨する途轍とてつもなく偉い御方なのに。たたあがめられるのを嫌うなんて……。ヤバい……。なんて謙虚! なんてカッコいいのかしら! 一度でいいからこの目で拝んでみたい! 

 そうとなれば! うじうじと悩んでいられない。落ち込んでいる場合などではない。

 目指せ! 未來王の末端弟子っ!

 よおおし、やるぞぉ!

 瞳を爛々らんらんと輝かせて気合を入れ直した。

 そして再び張り切って! トレジャンの泉を覗き込んだヒミコンなのであった。

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