二十二 未來王って①
ひと通りの雑用を終えて。トレジャンの泉を覗き込むヒミコンの背中には隠し切れない悲壮感と哀愁が漂っていた。
シップが現れた。
「やあ、ヒミコン。精が出るね。
ああそうか。相棒ライアンはイレーズの特別訓練だったな。ひとりは寂しいかい?」
「いいえ、寂しくは……。ただ、ライアンの日々の成長は目を見張るものがあります。それに比べて私は
「ほう……」
「極等万能祭司四人衆のような『比類なきカリスマ』と称される完璧な方々には、きっと天性の才能がおありなのでしょうね。
凡夫の私は藻掻き続けて。それでも出口が見えずに抜け出せず。苦しいばかりです」
シップはうんうんと頷いた。
「ああ、なるほど。煩悩を超越した
確かに。我ら極等万能祭司には突出した
「やはり……」ヒミコンは
「しかし我々にも葛藤はある。その
幸運なことに我ら四人衆は『未來王』から直接見出され、導かれ、育てていただけた。天賦の才を殺すことなく、穢すことなく、
言うなれば我らは選ばれし者であり、比類なき果報者であり、幸運体質の持ち主なのだよ」
ヒミコンは納得して、そして問う。
「不幸な不運体質は幸運体質に変えられるものですか?」
「ヒミコンは自らが『不運』だと思うのかい?」
「少なくとも『幸運』ではないように思います」
クロスが現れた。
「アーアァッ! 嫌だねえェ! やはりヒミコンは正真正銘の愚か者のようだなァ?
「……どういう意味でしょうか?」
「お前は今の今まで『未來王』のことを知らぬ存ぜぬままに過ごしている。『未來王』について質問をしてこない。それどころか知ろうともしていない。なぜだァ?」
ヒミコンは困惑顔をして。そして重い口を開く。
「怖いのです。雲の上の存在であらせられる『未來王』について、私のような低劣な愚か者が言及するなんて……。おこがましくて
いつものウッカリを
「へえェ? お前にも少しは謙虚さがあるのかァ? だが要は、興味ないってことだろォ?」
「いえいえっ! 本音は未來王について、少し。いや、かなり。いや、ものすごーく! 興味津々です。未來王について質問しても八つ裂きにされたりしませんか?」
シップは思わず、くすりと笑う。
「八つ裂きも何も。もうとっくに死んでいるではないか」
クロスはふうんと意味深に口角を上げた。
「なあ、ヒミコン。シップに『未來王』についてのレクチャーをしてもらおうぜ? なんせシップは未來王の極等級祭司一番弟子だからなァ」
「ははは。それだけ古株だということだな。どうだい? 講義を受けてみるかい?」
「わあっ! 本当ですか! 私如きが
「良い」
「ありがとうございます! よっしゃあ! やったあ! 是非にお願いいたします!」
「ククッ、俺も聞かせてもらうぜ?」
クロスは愉快そうにニヤリとした。豪華な専用アームチェアにどさりと腰掛けた。
「良し。では、始めようか」
シップは手に握る扇子を己の
シップの講義が始まる。
……近過去において。三千大千世界の
指名したのは煩悩を超越し
しかし正直に言えば。未來王は断りたかった。実のところ未來王は自由気ままな風来坊のような性質のお人柄なのだ。
ゆえに頂点に立つことにも、天界を統治することにも、
しかし
想像以上に最悪の状況が加速していたからこそ。未來王は渋々ながらも世代交代を引き受けた。
こうして我らが敬愛敬慕する未來王が三千大千世界の主として君臨することが決定したのだ。
革新的情報化社会となった近現代の変革スピードは想像以上に速かった。
この急激なる時代の
さらに未來王直属の四大弟子である『極等万能祭司』はネオヒューマン仕様に構成構築されている。常に最新状態にアップデートされているということだ。
我らは当然、
極等万能祭司四人衆は
人智を超越した四大弟子を従える未來王であるならば革新的現代社会の変遷にも迅速対応できる。そう判断されたからこそ。聡明崇高なるタターガタ(如来)、菩薩、明王、阿羅漢、神々、善神霊の集う
遂に! 唯一無二なる『未來王』が新たなる時代の
こうして大宇宙において
クロスが確認する。
「お馬鹿のヒミコン、ここまでは理解できたかァ?」
「はっ、はい! なんとかどうにか!」
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