十九 十八歳になるまでに①
トレジャンの泉のほとり。
ヒミコンはライアンとともに、暇さえあればトレジャンの泉の水中を覗き込んでいた。
そうして分かったことがある。
ライアンがどれほどトレジャンを慕っているのか。恋しがっているのか……。
最近はライアンの顔を見ずとも、言葉を交わさずとも、伝わってくる。テレパシーのようなもので脳内が共鳴して、
藍方星に身を置いて。ラピスラズリの床を磨いて。精神が
……もしかしたら以前よりも精神感応が磨かれている? 透視能力が高まってきているのかもしれない。
さらに、トレジャンの泉を覗き込む日々の中に思い知らされたことがある。
極等万能祭司四人衆の無二の宝であるトレジャンの人間性が出来過ぎているのだ。
トレジャンは決して無口というわけではないけれど余計なことを喋らない。相手の心情を
駄々をこねない、自己主張をしない、意地を張らない、嘘をつかない、汚い言葉を使わない。思わず感服してしまうほどだ。
身体が弱いから運動には制限があるようだ。学校生活は体力的にきつそうだが何とか頑張っている。自宅ではゲームもするし漫画も読む。子供らしい一面もありながら、率先して勉強や読書に励んでいる。人格も頭脳も出来過ぎていて人並みから外れている。
当然飛びぬけて成績優秀なのだが。あまりに控えめすぎて周囲がトレジャンの優秀さに気づいていない。普通と違うと気づいた一部の大人たちからは『変わり者』『頭のおかしい子供』だと陰口を
とは言え。まだ十歳の小学生だ。もっとワガママを言ってもいいのではないだろうか。まるで人生を達観している仙人だ。
トレジャンを見つめる極等万能祭司四人衆の瞳は深い慈愛に満ち満ちている。
助けたい。大事にしたい。決して傷つけさせない。邪悪なすべてから徹底的にトレジャンを護り切るのだ! 彼らの
トレジャンの病は治癒の呪術の効験によって着実に快方に向かっている。
トレジャンに対する彼らの
ヒミコンは軽率軽薄な自分を恥じる。トレジャンを他の子供と混同していた。挙げ句に普通の子供と何が違うのかと悪態をついた過去がある。もはや黒歴史と言ってもいい。
『護る』とは簡単なことではなかった。
護られる側となる対象者を心から愛し、信頼し、尊敬しているからこそ。護る
今ならわかる。
トレジャンが可愛くて、愛おしくて堪らない。極等万能祭司四人衆やライアンと同様に、彼を護るためならば捨て身になれる。全身全霊を注ぐことができる。何をも惜しまない。
ようやくそんな思いに包まれて。確実に思慕の情が芽生えていることを自覚する。
そして今日もトレジャンの寝顔を見つめる。
……ああ! なんて、なんて、可愛いのかしら!
『トレジャンのフェイトギアは
四人衆は口をそろえて同じことを言う。
だけど。未だにトレジャンのフェイトギアは見えていない。どうしようもなく見たいのだけれども。どうしても見えない。一体どうすれば透視することができるのだろうか。
イレーズが現れた。
「ライアン、おいで」
イレーズがいざなうと、ライアンは耳をピンと立てて脇目も振らずに駆け寄った。そして無邪気に飛びついて
じゃれつく巨体のライアンにイレーズは目を細める。柔らかな微笑みを浮かべて、首元に頬ずりをして、穏やかに
まるで美しい
ヒミコンの位置付けでは、イレーズは或る意味、『王者』だ。
イレーズはライアンを撫でて
「フェイトギア。トレジャンが十八歳の誕生日までに見えるようにして。そのリミットまでに見えなかったら、あんたなんか不要だよ? いらないものは容赦なく
ヒミコンは動揺して焦る。
「えっ? リミットって何ですか? そんなことは聞いていません!」
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