十七 ライアン
ヒミコンはふと
気がつけば、
それなのに! 未だに、一度も、フェイトギアを透視できていないという
……あの小さかったトレジャンは大きくなっただろうな。十歳くらいになったのかな。
トレジャン専属シャーマンだというのに。その姿を覗き見ることさえも許されていない。
そんな私は、藍方星の役立たずの雑用係です! トレジャンを想って! せめて床だけはピカピカに磨きます!
ヒミコンは腰を低く屈めた。モップを持つ手に一層の力を込めた。ゴシゴシと
ゲイルが現れた。
「落ち込んでいるようだな。
「進歩? そうでしょうか? 少しの
ヒミコンはしょんぼりとして深いため息を漏らした。
突然シップの叫び声が響いた。
「おお! トレジャンが泣いているぞ!」
ゲイルはトレジャンの泉に慌てて駆け寄った。
「ああ、そうか。トレジャン、可哀そうに……」
「仕方ないことだが、寂しいだろうなあ……」
シップとゲイルは水中を見つめて嘆いている。それどころか、
「あのぅ……、」
ヒミコンは恐る恐るふたりに声を掛けた。そしてダメもとで懇願を
「トレジャンに何かあったのですか? さすがに心配で
「十秒」
ゲイルが許可を下した。
ヒミコンは慌てて水中を覗き込んだ。
……わあ、トレジャン! 箱根元宮で見たときよりも随分と背が伸びたのね。頬の肉が落ちて。少し大人びた顔立ちになっている。
だけどその顔は悲しみに
……そうか。愛犬が死んでしまったのか!
「終了」
ヒミコンはゲイルに首元をつままれて、泉のほとりからポイっと引き離された。
ヒミコンの存在を無視してふたりは会話を続けている。
「ああ……。トレジャンの悲しみは我が悲しみのようだ!」シップが嘆く。
「できるか?」ゲイルがシップに問う。
「もちろんだ。だがイレーズの許可が必要だなあ」
音もなくイレーズが現れた。
「いいよ」イレーズが簡潔に承諾した。
シップは右手の人差し指をピンと立てて鳳凰柄の扇子を広げた。数秒間、小刻みに扇いで。それから大きく振り扇いだ。
すると桜の花びらは渦を巻いてトンネルのような円環状の筒を形成してトレジャンの泉の中へと勢いよく吸い込まれて降り注いでいった。
続いてイレーズが左手の人差し指をピンと立てた。ふうっと強く息を吹きかけると一匹の金色蝶がひらりとひらりと宙を舞った。そして桜のトンネルに潜り込んで、トレジャンの泉の水中へとしゅうっと吸い込まれていった。
ゲイルは右手の人差し指をピンと立てた。指先に青蓮華の花を咲かせその青蓮華から一筋の強い光線を放った。光芒は桜のトンネルの中をくぐって地上に向かって照射された。
「さん、にい、いち……」
イレーズが小声でカウントダウンする。すると桜の花びらのトンネルが逆流しはじめた。トレジャンの泉の水面上に竜巻が起こって桜が渦を巻いた。
ボンッ! と大きな音を立てて竜巻が爆発した。
視界を
小型犬は大きな耳をピンと立てて尻尾を振っている。茶色い毛並みと茶色い垂れ目が何ともいえず愛らしい。
極等万能祭司四人衆はクリクリしたつぶらな瞳の小型犬の周りを取り囲んだ。おもむろに地べたに座り込むと四人衆が
イレーズが手の甲で首元を撫でながら
「ライアン、でいいかァ?」クロスが問う。
シップとゲイルが目を細める。
「良いな。ライアンか。ぴったりの名だ」
「ライアン、お前は賢いな。そうか、ライアンもトレジャンを護りたいのか。今日からは私たちの仲間だぞ」
イレーズはライアンの鼻先に顔を近づけて。そっと頬ずりをした。
「神霊獣、増やしちゃったけど。ま、いいか」
クロスはライアンの背にガバっと覆いかぶさって抱きついた。
「かっわいいなァ! ライアン、これからよろしくな!」
シップが厳粛に指令を下す。
「ヒミコンよ。本日よりライアンの世話を頼むぞ。我々の宝であるトレジャンの愛犬である。くれぐれも大事にするように」
「はいっ!」
藍方星に新しい仲間、『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます