三 藍方星

 未來王がおわす大宇宙の優美ゆうび典麗てんれいなるその場所は『兜率とそつ内天ないてん院』と呼称こしょうされている。

 内天院をぐるりと囲む数多あまたの星を総称して『外天がいてん院』と呼ぶ。

 ここ兜率とそつの天は欲界よっかいに属す。欲界・色界・無色界のうちで最も人間界の感覚に近い。ゆえに煩悩多き場所であるともいえる。

 しかしながらろく欲天よってんのひとつではあるものの食欲と淫欲いんよくの二欲が極めて薄いため色界しきかいに近い。

 

 外天院の小惑星のひとつに透明な光を放つ深いあお色の『藍方らんぽうせい』が輝いている。

 この星には、未來王の四大弟子である『極等万能祭司四人衆』がそれぞれの居城を構えて暮らしている。

 地球には有象無象うぞうむぞうの生命体が生息しているが、藍方星の住人は一桁ひとけたしかいない。

 せい金石きんせきを主成分とするラピスラズリから成る藍方星の住人は人間を激しく嫌忌けんきしていて徹底的に拒絶している。

 だからなのか。

 氷点下で底冷えするような寒々しい空気が漂っている。しかしその一方に。けがれ無き透明感があった。

 

 藍方星には四つの豪壮なる城が建ち並ぶ。

 大金持ちに成り上がりたい願望を抱く者にとって。宝石でできた絢爛けんらん豪華ごうかな屋敷に住まうことは憧れであり叶えたい夢でもあるのかも知れない。

 ぜいを尽くした建造物がいかに機能性が劣っているとしても。コスパが悪くても。他者に対する優越感という観点を重要視するのであれば、最上の優良物件だといえるのだろうか。

 しかし実のところ。あまりに希少な岩石からできた建造物はどこか冷たくて死相をただよわせている。

 

 ここに住まう極等万能祭司四人衆は未來王から直々じきじきに選ばれた聡明そうめい叡智えいちなる精鋭である。彼らは王からの信頼を勝ち得て重要案件任務を与えられたスペシャリストなのだ。

 地球上の生命体の願いを叶え、濁りを取り除き、人間界に安寧あんねいを与えている。同時に苛烈極まりない処罰をらわせ、制裁をくだしている。それが極等万能祭司四人衆のひょうよういんの役割であり聖業である。

 つまり近状きんじょうでは。『六道ろくどう輪廻りんね』の根幹を担っているのは未來王の四大弟子である『彼ら』なのである。

 

 完全無欠なる極等級を有した祭司(呪術師シャーマン)は、現段階では四人しか存在していない。

 彼らはシャーマンとしての知識と技能を極限値まで磨き上げており、あらゆる僥倖ぎょうこうと厄災の予兆を感知する。

 各々おのおのが突出したアビリティ(才能)を有したエキスパートであり、突き抜けたジーニアス(天才)である。人智をゆうに超越した能力は指先ひとつに呪術を操る。

 次なる極等級祭司が現出するのは二百数十年後だといわれている。それほどまでに稀少価値の彼らの存在は『比類なきカリスマ』と表現しても過言ではないだろう。

 

 シャーマンと一口に言っても、極等万能祭司たちの可視域は世間でいうところの陰陽師おんみょうじや祭司や呪術師じゅじゅつしなどとは大きく懸隔けんかくしている。

 むしろ想像力豊かな幼子おさなごが思い浮かべるような魔法使いやスーパーマンに近しい。あまりに人類を超越した素因材なのである。

 彼らの呪術には大袈裟な身振り手振りなど不要である。彼らはヘビーな任務でさえも指先ひとつにさらりと貫徹する。星のひとつやふたつなど瞬く間に微塵みじんにするだけのエネルギーを各々おのおのが有している。

 十二鬼神や神霊獣たちは彼らの傍らに控え、心酔しんすいして仕えている。吉祥天や功徳天、日天や月天、生あるものに宿るぜん神霊しんれいや、亡くなった者たちのぜん御霊みたまを自在に操ることができる。八百万やおよろずの神々までもが極等万能祭司四人衆のとりことなって魅了され、敬服して仕えている。

 

 極等万能祭司たちの底知れぬ魅力とは一体何であろうか。

 非の打ちどころのない眉目秀麗なる彼らの長所であり欠点なのは、極端な二面性であると言える。そのラディカル(過激)なる二面性に、巨多きょた数多あまたはなはだしく魅了されてしまうのだ。

 彼らは『未來王』にのみ畏敬いけい跪拝きはいする。ひれ伏すのはただひとりだけ。首尾一貫して王の下命かめいにしか従わない。

 親愛なる王に永遠の忠誠を誓い無条件に遵従じゅんじゅうしている。全宇宙に於いて唯一無二なる存在こそが未來王なのだ。

 そして、『その他』に対しては侮蔑ぶべつして辛辣しんらつだ。極等万能祭司四人衆の大脳作用は徹底的に冷淡無情であり、身の毛がよだつほどに冷厳れいげん極まりない。

 

 極等万能祭司四人衆が潜在サブコン意識シャスで会話する。

 

 ……世で起こるむごたらしい事象には原因がある。起源を辿ってみれば、惨事のほとんどは人間が起点となって派生しているのではないのか。

 

 ときに天変地異でさえも人間が発端ほったんとなっている。人類が愚かしさを積み重ねて傲慢ごうまん強欲ごうよくに犯してきた所業しょぎょうへの応報刑おうほうけいなのではないのか。

 

 『ばち』などと言いがかりをつけて、神仏に罪をなすり付けるとははなはだ厚かましい。

 

 空恐ろしいほどに無知であり、身の程をわきまえない低能ていのう愚人ぐじんという呼称こそ、人間という生命体にふさわしいのではないのか。

 

 人間はきゅうすれば態度をひるがえし、神や仏に手を合わせ、頭を下げる。

 

 犯したあやまちや罪をゆるしてもらおう。欲を満たしてもらおう。願いを叶えてもらおう。

 都合よく神仏に頼り、すがる。

 

 ずるくてあざとい。卑屈で傲慢。そして己の悲劇に酔いしれる。

 どうすれば、そのような人間たちに好感を抱くことができるのであろうか……。

 

 潜在意識の最奥さいおうまでを見通せる極等万能祭司四人衆に『虚偽』や『虚飾』や『虚構』など、空々そらぞらしいものは通用しない。

 しかし、冷々れいれい無情むじょうなる彼らであっても、未來王から求められれば、慈悲と慈愛を地上へともたらす。彼らはとにかく未來王には弱い。ひとえに未來王の喜ぶ顔が見たい。それだけが原動力なのだ。

 ゆえに不本意ではあるものの骨のずいまで嫌忌している人間たちに対しても叶えや救いや癒しの呪術を行使している。結果として彼らは地上に喜びや安寧あんねいを与え続けている。

 一方に。よこしまに対しては一切受容しない非情さをそなえる。残酷苛烈な制裁任務に躊躇ちゅうちょなどない。彼らは地上に妥当な処罰を喰らわせている。

 

 華麗奔放なる極等万能祭司四人衆に神々たちはせられる。

 指先ひとつに呪術を操るきわ立つスペシャリティに感嘆かんたんする。

 眉目秀麗びもくしゅうれいなるパーフェクトな容貌にきつけられてとりことなる。

 感情を宿さない冷淡な瞳に恐れおののいてひれす。

 そして未來王へのじんじんたるリスペクト(敬愛敬慕)の心に共感して親近感を覚えるのだ。

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