二 極等万能祭司四人衆

 未來王から発せられた凄烈せいれつ光芒こうぼう一閃いっせんは、地上から夜空を突き抜けて、透明な光を放つラピスラズリの星『藍方らんぽうせい』へと転瞬に辿り着く。

王の切なる嘆きを受動受信していたのは未來王の四大弟子『ごくとう万能ばんのう祭司さいし四人衆』だった。せい金石きんせき(ラピスラズリ)を主成分とした藍方らんぽうせいの住人である。

 四人衆は潜在サブコン意識シャスの中で会話を始めた。


 ……夜空には無数の星があるように彼方かなたには大宇宙がある。大宇宙は地上から遥か遠い存在のように思えるが、実はとても近い。

 

 人類が宇宙に近づくのは命懸けである。

 しかし、月にも太陽にも数多あまたの惑星にも、地球のような文明ぶんめいはない。それなのに心は惹かれ、魅せられる。誰もが空や宇宙や天国というとらがたいイメージに憧れを抱いているのだろうか。


 確証がないのだからなんとでもいえる。

 宇宙の遥か彼方かなたには天国という桃源郷とうげんきょうが存在していて夢のような楽園パラダイスが広がっている。

 死没後はもれなく楽園天国の住人となって、色とりどりに咲きこぼれる花畑の中に美酒に酔いしれて。過分なまでの暖衣だんい飽食ほうしょくの栄華を極めて。歌い踊って満ち足りる。

 そうとでも思い込めれば、三界さんがい無安むあん苦悶くもんから幾らか心はなぐさめられるということなのか?

 

 愚鈍ぐどんだなァ。


 では。上方じょうほうにあるという幻影げんえいの楽園の対極には何があるのか。地上や海上の遥か下方かほうには魑魅ちみ魍魎もうりょうが渦巻く阿鼻叫喚あびきょうかん八万はちまん奈落ならくの世界が広がっているのではないのか。

 

 死没後。亡者の誰もが天上界に迎えられるのだと思い込める能天気頭ならば大層おめでたい。例えば。ピラミッドのように三角形の組織図は先はとがっていて狭く、下は広い。となれば死した人類のほとんどが下方に行くものだと考えるのがコモンセンス(常識)なのではないのか。


 ちるんだよ。


 地上から堕ちて、堕ちて、堕ちて。堕ち切った先も。突き抜けてしまえば宇宙空間に他ならない。

 惑星は巨多きょた数多あまたある。何処いずこおのれの死没後の行き先があるかなど、誰ひとり知るよしなどないはずだ。


 それでも我は高き上方じょうほうに行けるのだ。などと言い切れる人間は、一体どれほどの善を重ねたというのか。


 生きていれば万人にけがれが生じるのが当たり前とされる世の中にあって、一切の悪事をしていないとでも言うのか。


 我は清廉潔白せいれんけっぱくであり濁りなき無色透明の聖人君子である。そうとでも開き直ってごとをほざくのか。


 大嘘つきめ。


 血肉を喰らい。酒を浴び。暴言を吐き。淫らな欲を吐き出して。日常がえとかわきに支配されているのではないのか。

 

 ときに嫉妬心をき出しにして。ときに誰かを見下して。卑屈ひくつ傲慢ごうまんに。自分勝手に。日々を生きてきたのではないのか。

 

 厚かましい。


 高々、一世紀ひゃくねん程度の人生に於いて神をも超越したとでもいうのか。同類人間の死後を裁く権利を有する際立った人間が現れたとでもいうのか。

 

 死没後、何処いずこへ行けるかの審判を下すのは当事者ではない。そんな資格を持つ者が欲にまみれた人間界に存在しているはずなどない。

 

 見極めよ。

 

 重ねてきたあやまちや犯した罪を。ゆるすも赦さぬも。ジャッジメントできるのは『未來王』ただひとりなのだ。そしてその審判ジャッジは寛大であり辛辣しんらつである。

 

 未來王がもっとも嫌忌けんきする類型タイプの人間がいる。

 『善人に成り済ました悪党』だ。

 『潜在的受動攻撃性パーソナリティ・マニピュレーター』だ。

 『呪詛じゅそ口伝くでんする破廉恥はれんち』だ。

 

 該当者は覚悟せよ。卑俗ひぞくへのジャッジは冷厳であり容赦はしない。

 

 苛烈かれつ凄惨せいさんだぜ。

 

 嫌忌類型の奴らは過剰なまでの上昇志向を隠しきれていない。承認欲求を抑えきれずに称賛と過大評価を常に欲しがる。

 

 自己保身のためならば姑息な言い訳を繰り返す。平然と嘘を吐く。周囲を無遠慮に巻き込む。

 

 悪意を悟られぬように精神的苦痛を与え続ける。気づかれないよう姑息で陰湿な嫌がらせを繰り返す。

 

 幼稚な欠落人間め。

 

 得意なのは半分程度の事実を織り交ぜた幻惑の攪乱かくらん嘘だ。そして嘘こそが現実だと己の脳内の記憶をりかえる。

 

 己の罪過は消し去って無かったことにする。挙げ句、どこかの誰かのせいにする。公然と他者に罪をなすり付け素知らぬふりを決め込む。

 

 加害者のでありながら被害者を装う。己の犯した罪は棚に上げる。脳内を都合よく変換させて捏造ねつぞう後に上書き保存を確定エンターする。

 

 トリッキーだな。


 心にもない綺語と。白々しい微笑みと。嘘の涙に。誰もがたぶらかされ、騙されていく。

 周囲を共感させて誘導する。

 

 嫌忌類型は善人風情の知的上品を装っている。陳腐な演技派だ。

 高慢不遜に虚飾の優雅さをひけらかす。

 

 薄らみっともねえ。

 

 権威にはびてへつらって。ごまをって。したたかに取り入って。優位な立ち(ポジ)位置ションを定める。

 弱者には尊大高飛車に振舞って虚勢を張って服従させる。しくは。親切者を装って姑息に距離を縮めて捨て駒として利用する。


 善意や良心。もろさやトラウマ。不安や孤独。漠然とした悲哀ひあいにつけこんで。ターゲットを洗脳して支配する。

 そうして共犯者を増やし、だまし、あざむき、おとしいれ、たぶらかす。陰険いんけん破廉恥はれんちなる操縦者コントローラーだ。

 

 性根しょうねが腐っている。

  

 ほら、すぐそこに。善人の仮面を被って。薄気味悪い笑みを浮かべて。もろい心理をもてあそんで。意のままに操縦コントロールしようとしているぞ。

 

 ほら、そこにも。謙虚なふりをして擦り寄って。綺語を並べて。いやらしく弱点ウイークポイントを探り当て。利用しようと目論もくろんでいるぞ。


 餌食えじきになるな。

 

 悪賢い支配操縦者である奴らは、陰湿な受動的攻撃パッシブアグレッシブを繰り返す。巧妙に悪意を隠して心理戦を立ち回る低劣狡猾こうかつ人種『マニピュレーター』。

 

 そんなあくどいやからを知らないか? 

 近くにいないか?

 まさか身に覚えはないだろうなァ?

 気をつけろ!

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