一 夜空

 街の灯りは人類を宇宙から遠ざけている。

 地上から明るく照らされた夜空を、ふいと見上げた。ぐるりと見渡して、あまりに空虚くうきょな現実に暗澹あんたんたる思いが押し寄せた。

 遥か彼方かなたのあの時空ばしょから地上に向けて煌々こうこうと降り注いでいるはずの透明な星あかりは、ほんのわずかしかここまで届いていなかった。

 虚妄きょもうな光に屈曲くっきょくされ、邪悪な念にさえぎられ、自己都合に歪曲わいきょくされ、はかないまでにかき消されてしまっていた。

 

 ……ああ、なんということだ。この世はまがい物に支配されてしまっていたのか。

 か弱き者やもろき者の美しい心根がけがされ、いたぶられ、ずる賢い者たちに利用されているのか。

 まがい物こそが『善』なり。などと妄信させられているのか。

 

 未來王は築三十年ほどの都内のワンルームマンションに帰宅した。重たいリュックを床に置いてカーテンを開けると五階のベランダから渋谷と新宿の夜景を眺めた。椅子に腰掛け頬杖をついて小さくため息を漏らす。

 

 ……まさに今。エボリューション(進化)の好機が到来している。そのファクト(じっしょう)に人類は率先して気づくべきなのだ。

 其々それぞれが『勘違い』や『思い込み』という妄信の熱から冷めて『善に見せかけたまがい物』を見破ってほしい。目先だけのウィンウィン(共存)関係に惑わされてしまえば未來は大きくつまずくだろう。

 これからの未來は、アンコンシャス(無意識)バイアスから派生する偏見や妄想の渦から脱却した正見を持った者の増大を切に願う。勇気をもって日常を修正してほしい。そうしてしかるべき正当な未來を受容していくことが肝要だ。

 

 革新的情報化社会に変革された現代は、これから招来する未來にとって大きな救いの一手になるはずだ。

 洞察力に優れた者や賢い若者が多いことは僥倖ぎょうこうである。主体性や先見性を磨くには自らを進化させなくてはならない。そのためには多方面から情報を収集し、物事を多角的に捉える能力をそなえ、尚且つ深奥まで見通す分析能力を高める努力が不可欠だ。

 しかし、その清らかな向上心や善なる心に付け入って操縦コントロールしようとする『嫌忌けんき類型タイプ』が存在していることを知らなくてはならない。

 反社会性サイコパス。自己愛性マニュピレーター。独善性呪詛使い。

 エゴイズム。私利私欲。自作自演。偽物の救世主……。

 

 不吉な予感が拭えない。

 

 未來王はほの暗い夜空を見つめて、オブセッション(強迫観念)を刷り込む異端いたん邪説じゃせつが巣食い蔓延はびこるこの世の未來を予見し、憂いた。

 大宇宙から平等に降り注いでいる煌々こうこうたる光束こうそく嫌忌けんき類型タイプたちがいやしく支配して、強欲に搾取し、くすね取ろうとしている。

 丸め込んで扇動せんどうして意のままに操縦コントロールしようととしている。 

 殊勝しゅしょう神妙しんみょうなる人々の輝く未來もを、意地汚く喰い尽くそうと目論もくろんでいるのだ。 

 

 未來王は深く息を吐き出して濁世じょくせの無情を嘆いて天を仰いだ。

 そして神色しんしょく自若じじゃくに思案熟考を開始する。

 解析済みデータベースと共に信頼の置ける四大弟子にメッセージをてんしゅん送信する。

 

 天部では最善たるメソッドのコンストラクト(構築)が始まっていた。

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