第2話
要塞都市を出発して10日ほど。途中の開拓村や河川で水を補給しつつ、進んできた俺たち第4隊。予想された魔王軍の襲撃は一度もなく、予定より速いペースで進んできた。
予定通り、勇者さま方が戦っている砦まであと1日強というところでキャンプをすると、先頭から来た騎馬兵に告げられた。
魔王軍は人類領を上空から監視していると言われている。それは、これまでも幾度となく輜重隊を狙った襲撃が相次いだからである。街道ルートを進んでいる俺たちは、真っ先に襲撃されるはずだ。しかし、襲撃がないということは、考えられることは2つ。勇者サラさまを中心とした前線部隊に魔王軍の戦力を集中させているか、他の隊が襲撃されているか。どちらにせよ、最後の道程は熾烈を極めるため、人馬ともに休息を取ることにしたのだそうだ。
前の馬車に続いてキャンプ地に入り、指定された場所で停車する。牽引してきた予備車から護衛役の兵士たちが降りていく。
俺も、水樽のそばに置いておいた桶に水を注いでから、御者台を降りる。
「アリア、お疲れ様」
「ヒヒン(あたしはまだまだ行けるわよ)」
「わかってるよ。けど、今日はここでキャンプするからさ。ゆっくり休んでくれ」
水を入れた桶をアリアに差し出すと、仕方なさそうに首を振ってから水を飲み始める。
ある程度飲んだところで満足したのか、アリアが顔を上げる。
「ヒヒン?ヒヒヒン?(鎧はどうするの?外してもらえるのかしら?)」
「出発前の予定だと、ここでは鎧を外していいことになっているんだけど、どうなんだろう」
アリアの言葉に、他の馬車はどうしているのかを確かめようとキョロキョロし始めたとき、急に声をかけられる。
「ギーツ?ギーツだよな?ちょっとこっち来てくれ!」
「え?……うわっ!い、行くよ。行くから」
声をかけられたほうを向いた途端、護衛兵士の鎧を着た男に腕を掴まれて引っ張られた。俺は桶を持ったまま、引っ張られるままに男の後をついていく。一瞬しか顔が見えなかったが、この第4隊の副隊長の1人だった気がする。
「おい、ギーツを連れてきたぞ!」
護衛兵士の鎧を着た男に連れて行かれた先には、御者兵士の鎧を着た男たちが集まっていた。
「おお、助かった!ギーツ、こいつを診てくれないか?鎧を外したんだが、まったく動こうとしないんだ。全身を触ったんだが、熱を持っている場所はないと思う。足をあげてくれないから蹄は見れてない」
「それを早く言え!ちょっと待ってろ」
馬の前に立ち、馬の首を撫でている御者兵士の鎧の男に頼まれる。それを聞いた俺は、護衛兵士の鎧の男の手を振り払い、自分が身につけていた分厚い手袋を急いで外す。
「きみは……アクト、だったな。アクト、どうしたんだい?今までで一番の距離だもんな。疲れたか?」
御者兵士の鎧を着た男と場所を変わってもらい、目をみつめる。馬の名前はアクト。彼は1年前に騎士団に納品されてきた馬だ。今までは片道5日程度の物資運搬に割り当てられていたが、御者の言うことをよく聞く馬ということで、今回初めて10日超えの物資運搬であるこの任務に割り当てられたのだ。
「ブヒヒン。ブルブル(あ、ギーツの旦那。いやぁ、疲れますね。こんなに長い期間鎧をつけることなかったんで、全身バキバキなんす。あと、足がだるいですね。あ、飯はまだっすか?)」
「あー、飯はちょっとまて。まずは触るから」
アクトの言葉に頷きを返すと、声をかけてから全身を触り始める。首や足周りの大きな筋肉を軽くマッサージするように触ると、アクトが気持ちよさそうに唸る。
「筋肉痛っていうか、こってる感じだな。足も触るぞ。蹴らないでくれよ」
「ヒヒン!(そんなことしません!ギーツの旦那を蹴ったら、アリアの姉御に殺されちまう!)」
怯えた声をあげるアクトに苦笑しながら、横からアクトの足を触っていく。すると、
「足がだるい感じがするのは、むくんでるからだな。これまでがんばってきた証だ。明日にはよくなっているよ」
「ブルブル(安心したら腹減ったっす)」
「現金なやつめ……お待たせ。アクトは初めての長距離運搬で全身バキバキだと。あとで軽めの回復魔法を打ってやってくれ。足がむくんでいるけど、固くなってないから気にしなくていい。明日には良くなってるよ」
「おお、そうか!いやー、助かった。ありがとう、ギーツ……がんばってくれたもんな。あとで回復魔法を打ってやるから、今はあっちで休憩だ」
首を撫でていた御者兵士の鎧の男の言葉を聞き、アクトはゆっくりと動き出した。アクトが動き出したのを見届けると、集まっていた御者兵士の鎧を着た男たちも担当する馬車へ散っていく。
俺もアリアのところに戻ろうと思ったところで、先ほど俺を引っ張ってきた護衛兵士の鎧を着た男が近づいてくる。
「さすがだな、馬と会話する男ギーツ」
「馬と会話しちゃ悪いか」
「ん?いや、揶揄するつもりじゃなかったんだ。気を悪くしたならすまない」
入団当初にからかい混じりにつけられたあだ名を持ち出され、つい睨みつけてしまう。護衛兵士の鎧を着た男は一瞬止まると、こちらに向かって頭を下げてきた。
「隊長から聞いていたんだ。今回の第4隊には、戦闘は人並みだが馬の扱いは誰よりも長けた兵士がいると。まるで会話しているんじゃないかと思うくらい馬と意思疎通をする姿に、同期からやっかみ混じりにつけられたあだ名が馬と会話する男って言われてな。つい呼んでしまった。すまない」
申し訳なさそうにする護衛兵士の鎧を着た男。俺はそこでようやくその男の肩当てに施された副隊長の印に気づく。やっぱり副隊長の1人だったか。
「いえ、副隊長どのに失礼いたしました」
俺は兜を外して左腕で抱え、右手を握って左胸の前に添える例をする。
「まさかとは思うが気づいてなかったのか?」
「はい。いえ、気づいておりました」
つい正直に答えてしまうが、慌てて否定する。
「くっくっくっ、本当に人には興味が薄いようだな。改めて自己紹介しておこう、第4隊副隊長のクレイドだ」
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