第66話 応答
破壊された避難所を後にして真っ直ぐに向かったスーパーマーケット。
道中は特に障害物はなく、集団で動いても問題なくたどり着ける道のりだった。
それだけに生き残った人たちが避難先として選らんだ可能性がぐっと高くなる。
スーパーマーケットの敷地内、乗り捨てられた自動車で疎らに埋まった駐車場に、高機動車が侵入する。
車内から駐車場を見渡して見たが、ゾンビや魔物の姿はない。
「いるなら中だ。いつもと同じ手順でいく。犀川さんはすぐに出せるように車内で待機、俺たちで生き残りを探しにいこう」
「はい」
ここが空振りだったら次はどこへ向かうべきか。
そんなことを頭の片隅で考えつつ、放置された自動車の隙間を縫う。
「待った。呻き声がする」
岸辺さんの言葉で緊張感が増す。
ゾンビ化の心配がないとボイスによって明かされ、ゾンビの脅威度は以前と比べてかなり低くなった。
けど、それでも脅威は脅威だ。組み付かれれば身動きは取れなくなるし、噛み付かれれば負傷する。
噛みどころが悪ければ、例えば動脈を噛み切られたら、死の危険は常に付きまとう。
用心に越したことはない。
「姿は見えませんね。声はするのに」
「んん?」
自動車だらけで視界が悪いにしても、姿が確認できないのは可笑しい。
警戒より疑問のほうが大きくなり、慎重に周囲を調べて見る。
すると自動車の影にゾンビがいるのを確認できた。
けど。
「縛られてる?」
そのゾンビはロープで縛られ、地面に転がされていた。
「岸辺さん」
「これは……そうか、血を出さずに無力化するために」
「あぁ、なるほど」
今日まで生き延びた人たちだ。
情報共有もしていたはずだし、ゾンビの知識はあったはず。
血の臭いでゾンビが寄ってくると知っていたから、血を流さない方法を使った。
「ということは」
「あぁ、生き残りがいる」
やっぱりこのスーパーマーケットに逃げ込んでいた。
急いで自動車の隙間を縫って出入り口へ。
自動ドアは機能していないので電流を流そうとしたが、大量のバリケードが部外者の侵入を阻んでいた。
「そうか。そりゃ当然、塞いでるよな」
「こりゃ他のところも塞がれちゃってるよ」
「俺が無理矢理どかしましょうか?」
「いや、押し入ってゾンビか魔物だと思われたら不味い。キミ達も発砲されたくないだろ?」
「たしかに」
「では、声を掛けるしかないですねー」
「向こうの無線機が生きてるといいんだが」
岸辺さんが無線機を操作し、中にいるであろう自衛官と通信を試みる。
応答はすぐにあった。
「だ、誰ですか!? 誰でもいいです! 助けてください!」
女性の声。
慌てようといい、言葉遣いといい、彼女はたぶん一般人。
自衛官の無線機に一般人が出ている。
「まずは落ち着いて。貴女の名前は?」
「し、
「白隈さん。その無線機は自衛隊のもののはずです。ちかくに自衛官は?」
「い、います。でも酷い怪我で。熱も下がらなくて、このままじゃ」
「わかりました」
目配せされて、岸部さんの意図を察した。
頷いて返してまずは稲妻を纏って自動ドアを開き、そして。
「少々、音がしますが落ち着いてください」
「え、あ、はい」
磁界を発生させ、バリケードを店内に押し込んだ。
「今から向かいます」
全員で駆け込むとすぐに何人かの生き残りを発見できた。
彼らは精肉コーナーから一番離れた位置にいて、その中には血塗れの自衛官が横たわっている。
酷い傷だ。巻かれた包帯が赤を通り越して黒くなっている。死んでいると言われても驚かないくらいの重傷だ。
「詩穂!」
「えぇ」
すぐに詩穂がスキルを使って治療を施す。
ただ詩穂のスキルも万能じゃない。
治癒力を高めてくれるが、傷がすぐに治る訳ではないし、その間に手遅れになる可能性だってある。
ここまで逃げて来られたんだ、どうにか助かって欲しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます