第62話 希望

 世界が終末を迎えた原因や、スキルの仕組みよりも、一番聞きたかったこと。

 この世界からゾンビや魔物を根絶することは出来るのか?


「まず間違いなくできるはずだ」

「……はず?」

「すでに過去の陰陽師たちが成し遂げている。だが、その方法は突き止められなかった。地道に一体一体排除して回ったのか、もっと他の解決方法があるのか。わからないのが正直なところだ」

「そう、か……」


 ボイスでもわからないのか。


「ただ僕の友人は一つの仮説を立てていた」

「仮説?」

「ゾンビや魔物たちはこの世界に取っては異物だ。本来、存在するべきではない。だから世界の免疫機能のようなものが作用して、いずれすべてを排除してくれるのではないか? というものさ」

「……ゾンビや魔物はバイ菌で、いずれ白血球が来てくれるって?」

「白血球はキミたちかも知れない。大いなる地球に選ばれし者という奴さ」

「嫌な役回りだな。だとしたら」

「あぁ、まったくだ」


 本当に冗談じゃない。


「なんにせよ、いつかは終わりがくるはずだ。それが何日、何年、何十年先かはわからないけどね。キミ達が求めているような答えを出せなくてすまない」

「いや、終わりがあると信じられただけでも大きな収穫だよ」

「そうですね。そのいつかにたどり着けるように頑張りましょう」


 質問の嵐はこれを持って静けさを取り戻す。ゾンビウイルスの資料は奥の部屋にある机の上に散らばっていた。

 纏めて保管する暇もなく、どこかへと逃げたのか。

 もしくは戻ってくるつもりで、それが叶わなかったのか。

 事の詳細をボイスに聞くのは酷かも知れなかったので、黙々と資料を拾い集めて束ねることにした。


「写真も撮っておこう。蒼空」

「はい」


 携帯端末のカメラで展示されている屏風や刀剣、その他もろもろを一つずつ写真に収めていく。それが終わるともうこの場所に用はなくなった。


「長いし過ぎた。時峯たちが首を長くして待ってる。地上に戻ろう」


 再びエレベーターを動かして地上へ。


「あー、やっと戻って来たわ。私、待ちくたびれちゃった」

「待った甲斐のある話をしてくれるんだろうな?」

「あぁ。でも、話はここを出てからだ。車内で話そう」

「よーし。じゃあ早いところ乗ってくれ。もう話が効きたくでうずうずしてる」


 ボイスはいつの間に何にも応答しなくなっていた。

 ひょっとしたらいずれかの携帯端末にひっそり潜んでいるのかも知れないが、質問攻めにして疲れてしまったのかも知れない。

 遠隔操作には神経を使うと言っていたし、起き抜けとも。

 今は二度寝をしているかも知れなかった。


「なるほど……にわかには信じがたい話だ」

「でも、それが本当なら凄い進歩じゃない? 昨日までとは大違いよ」

「異なる世界ねぇ。まぁ、なんにせよ希望の数が増えたってことだろ? 長いこと待ってた甲斐があったってことにしとく」

「そりゃどうも」


 話しているうちに高機動車は避難所に無事到着した。


「お疲れ様です、犀川さん。流石は安全運転の申し子」

「いえ。実は話に聞き入ってしまって車体を何度かぶつけそうになりました。事故にならなくてよかったですよ。大事な物資も詰んでいることですしね」

「おおっと、すました顔して結構なことが」


 とはいえ、物資は無事に届けられ、被害もなかったので今回の作戦は文句なしの大成功に終わった。

 予想外の収穫を持って岸部さんはすぐに大杉さんの元へと向かい、俺たちは物資を運び出すのを手伝いに。

 これで俺たちはまだ持ち堪えられる。

 いつまで続くかわからない過酷な環境だけど、いつか必ず終わりはくる。

 あるいはそれは俺たちが死んだ後かも知れないけれど、きっとと信じて耐えよう。

 希望はまだある。

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