第61話 魔物
「ほかに質問は? この際だ、気が済むまでキミ達の答えるよ」
「はいはい! 魔物は? あっちの世界の動物ってことでいいの? あと人型」
「オーケー。魔物はキミの予想通りあちらの世界の動物さ。魔術的な法則によって姿形が異なる形に進化したのさ。それでも人間の姿に差違がないのは不思議だよね」
「人間の姿も変わっているのなら、人型の存在にも説得力が出るのだけど」
「あぁ、それについては正解だよ。人型は元人間だ」
「おー、そうだったんですねー」
「どういうこと? 人間はゾンビになるはずじゃ」
「あぁ、でもスキルが悪さをするんだ」
スキルが悪さを。
「感染したゾンビウイルスとスキルが干渉し合って突然変異を起こし、魔物のような異形が形成される。キミたちも常々思っていたんじゃないかい? 人型操る能力がスキルと似ていることに」
ボイスの言ったことはその通り過ぎて言葉も出なかった。
人に近い姿をしていて、スキルと似た力を持っている。
関連性を疑わないわけにはいかなかった。
「まぁ、でも、それならよかったよ」
「咲希?」
「あたしスキルを使い過ぎると人型みたいな化け物になっちゃうかも? ってちょっと思ってたし」
「咲希、あなたそんなこと考えてたの?」
「うん」
「不安なら話してくれてもよかったのに」
「ごめんごめん。でも、凜々たちを不安にしたくなかったんだよ。案の定、杞憂だったしさ。なにせあたしらには抗体があるんだし」
「そうだ。キミ達が人型になることはない」
ほっと息を吐いた。
咲希ではないけれど、でも遠くない未来に十分にありえる可能性として、自分が死んだ後にゾンビになるのではないか? という想像はあった。
それが払拭されたことはかなり大きい。
これで今はどこにいるかもわからない両親の、少なくともゾンビになった哀れな姿は見なくて済む。
それはとても嬉しいことだった。
「ほかには?」
「じゃあ俺から二つほど」
「あぁ」
「一つ目。ボイスは何者なのか」
「そう来たか」
「いい加減、教えてくれてもいいだろ? ここまで話したなら」
「……そうだね。だが、勿体ぶった手前申し訳ないが、僕の正体なんて何者でもないんだ。僕はただのしがない大学生だった男さ」
大学生。
「思ったより若い」
「はっはー。キミ達から見たら僕なんてもうおじさんだよ」
「おっと、そいつは聞き捨てならないな。百歩譲って三十まではお兄さんだ」
「これは失礼」
話が逸れた。
「しがない大学生がどうやって俺たちの動向を把握していたんだ?」
「前にも言ったがスキルのお陰だよ。蒼空、僕はキミと同じ雷のスキルを持っている」
「俺と同じ……」
「でも、出来ることはかなり違う。僕はキミのように神経伝達の速度を早めたり、雷撃を放ったり、磁力を操作したりすることはできない。けど、その代わり僕はキミには出来ないことができる」
「たとえば?」
「機材の遠隔操作だよ。キミにも出来るって? いやいや、僕のスキルの効果範囲は街全体に及ぶ。電線を伝い、電波に乗り、あらゆる機材に侵入して電源の有無に関わらず起動できる。この空間の角に監視カメラがあるだろう? 今はそこにいるよ」
「そういう……理屈だったのか」
だからいつどこにいてもボイスは俺たちの動向を知ることができた。
今時、監視カメラなんてどこにでもあるし、持ち歩いている携帯端末に入り込めばカメラから居場所を特定できる。俺たちの会話も筒抜けって訳だ。
「まるでスーパーハッカーだな」
「その響きに憧れてた時期もあった。夢が叶ったよ、理想的ではないにしろね」
「今度から大事な話をする時は携帯端末を遠ざけないといけなくなったわね」
「あたしらの着替えとかも覗いてたかもってこと?」
「写真にとって保存しているかも知れませんねー」
「やだ、もしそうだったらどうしよう!?」
「不安にさせたところ申し訳ないが断じてそんなことはしていないから安心してくれ。こう見えて常識はあるし、遠隔起動は神経を使うんだ。天地神明に誓って盗撮はやってない。盗聴はしたけど」
「ま、まぁ、世界がこうなってから携帯端末ってほとんどポケットの中だろ? カメラから覗くにしたって服の布くらいしか映ってないんじゃないか?」
「そう! その通りだ! いや、盗撮はしてないから実際どうかは知らないけど! きっとそう!」
珍しくボイスが焦っている。
女性陣の反応は未だ厳しいものだけど。
「まぁ……たしかに着替え中に携帯端末を触った記憶がないわね」
「昔は手放せませんでしたけど。今では時計代わりにしかなりませんからねー」
「あたしもめっきり触らなくなったっけ」
「むぅ……たしかに蒼空くんの言う通りかも。ふぅ……よかった」
納得してくれたようで、俺まで安堵の息が漏れた。
「じゃ、じゃあ二つ目だ」
「お、おう。なんでも来てくれ」
話題が蒸し返されないうちに次に行こう。
「世界は元に戻るのか?」
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