第59話 光


「……俺たちに宿ったこの力は陰陽術だって言うのか?」

「そうさ。僕が現代風に言い換えただけで、かつての陰陽師たちが振るっていた力と同質のものだと思われる。ちなみに妖怪を魔物に、亡者をゾンビにって感じさ」


 かつてそう呼ばれていた力。

 稲妻を起こし、水を生み出し、ナイフと繋がり、魔物の能力を吸収し、血を操作し、蝶々に化ける。

 俺たちが今日まで生き延びるため絶対に必要だった力の正体がたったいま判明した。


「でも、陰陽術って陰陽師が編み出したもんじゃないの? なんであたしらが?」

「そうね。なぜ私たちのような、特別な血筋でもない普遍的な高校生が陰陽術を?」

「まず第一に陰陽術は陰陽師が生み出したものじゃない。言ったはずだよ、術が先で陰陽師があとだって。彼らは便宜上その力を陰陽術と呼んだだけで、キミ達と同じように授かったに過ぎないんだ」


 授かった。

 あの日のように。


「では、スキルとは一体なんなのでしょう?」

「スキルを一言で言い表すなら、それは人類が獲得し得たかも知れない可能性だよ」

「なにを言って――」

「残念ながらこの世界の人類はそれを獲得できなかった。その代わりに武器が発達し、剣や銃が開発された訳だけど」

「……はっきりしないな、ボイス。それじゃまるで世界がもう一つあるような言い草だ」

「それであってる。あるんだよ、もう一つの世界が」

「もう一つの世界……」


 その可能性はすでにあらゆる国の人々が示唆してきた。

 けど、まさか本当に別の世界が、パラレルワールドがあるなんて。


「あちらの世界の人類は我々が獲得し得なかった能力を得た。つまりスキルだ。あぁ、わかってる。その能力をなぜこちらの世界の住人であるキミ達に宿ったのか? だろ。これはまだはっきりと断言は出来ないが、恐らくは光の爆発の影響だ」

「あの日の爆発か」


 あれからすべてが始まった。


「あの光の爆発はあちらの世界に存在している法則だと思ってくれ」

「法則?」

「世界が違うんだ。似ているが決定的に違っている。僕たちが物理的な法則に従っているように、あちらの世界では魔術的な法則が基盤にあるんだ。それがどんな法則かは話が長くなるから割愛するけど、とにかく二つの異なる世界――法則が混じり合った衝撃が光の爆発の正体と言っていい」

「……俺たちはそんなものに」

「光の爆発に飲み込まれたキミ達はあちらとこちらの世界、二重の法則の影響下にある。その状態になった者のみがスキルを扱う資格を得るんだ。かつての陰陽師のようにね」


 それがスキルの、あの日の真実。

 とんでもない話だ。到底、信じられない。

 そう思う反面、それを否定しきれない自分もいた。

 あり得ないことのほうが多い日々を生き抜いてきた以上、どんな荒唐無稽な話でも嘘だと断定することが出来ない。


「ボイスの言うことが事実だったとして」

「事実だ」

「……どうして二つの世界が繋がりを持ったんだ?」

「その原因の一つとされているのが地震だ」

「地震……」

「考えても見てくれ。大地を揺るがすほどの莫大なエネルギーが二つの世界で同じ位置、同じ時に生じたらどうなるか。それは世界の隔たりを壊すのに十分だとは思わないか?」

「わかるかよ、そんなの」


 重力が時間と空間を歪ませていると習ったことはある。

 莫大なエネルギーの発露によって似たような現象が起こるのなら、それも双方向からなら、あるいは世界の隔たりを壊すことも可能なのかも知れない。

 けど、あまりにもスケールが大きすぎる話だ。想像が追い付かない。


「……おかしいとは、思っていたのよ」

「詩穂ちゃん?」

「日本は火葬文化でしょう? 亡くなった人のほとんどは火葬場で骨になる。生きている人たちだけがゾンビになったにしては数が多すぎるのよ。でも別の世界からやってきたと言うのなら説明はつくわ」


 それに、と詩穂は続ける。


「私たちは未だに人がゾンビになった決定的な瞬間を見たことがない」

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