第57話 施設

「一つ見付けましたよ」

「お、早かったですね。一番乗りですよ」


 高機動車に物資を積み込んでいると凜々たちも物資を持って戻ってきた。

 それに続いて岸辺さんたちも戻り、続々と物資が運ばれてくる。

 高機動車に積み込んだ物資の数をみんなで数えて見ると、案の定と言うべきか一つ足りなかった。


「もう全部探したぞ、建物の中以外はな」

「ってことは、悪い予想が当たっちゃったみたいね。残念なことに」

「ここからじゃ屋根が破損しているようには見えないが、ないなら中だろうな」

「しようがない。時峯、百道、片山はここで犀川さんと待機、物資を見ていてくれ。残りで探しに行こう」

「はい」


 岸辺さんを先頭にして何らかの施設に足を踏み入れることに。

 自動ドアに稲妻を流して起動し、建物の中へ踏み込む。

 内部は白を基調としたデザインになっていて、インテリアも色の薄いものが選ばれている。

 こうして中に入って内装を目にしてみても、いまいちこの建物が何を目的として作られたのか見えてこない。

 玄関口から入ってすぐのところなんて、ここがどんな場所であるかの主張が一番激しいところなはずなのに。

 無味無臭。用途がまるで見えて来ない。

 その癖、ただの民家や富豪の別荘ではない、何らかの施設であることはわかってしまう妙なところだった。


「あ、あった!」

「以外とあっさりね」

「ゾンビの姿も見えませんねー」

「じゃあ直ぐに運び出せちゃうね」


 しばらく進んだ後、日に照らされた物資を発見した。

 周囲には細かなガラスの破片が散らばっていて、頭上を見上げると天窓が派手に割れているのが見える。

 着地地点が天窓じゃなかったら探すのが手間だったかも。

 運がいいんだか悪いんだか。

 なんにせよ、目的は達成できた。


「よし、こいつを運んでさっさと帰ろ――」


 岸辺さんの無線機がノイズを響かせる。


「これは驚いた」


 ボイスだ。


「なぜキミたちがそこに? あぁいや待った。そうか、物料投下か。物資が風に流されたんだ。なるほど……にしてもまさかそこに落ちるなんてね」

「随分と含みのある言い方をしているが、なんの用だ?」


 代表して岸部さんが応対する。


「いや、起き抜けにキミたちがそこにいることに驚いてしまってね。反射的に連絡を取ってしまったのだが……」


 ボイスも寝るんだ。

 当たり前か。


「これもなにかの運命かも知れない。キミ達は知りたくないかい? なぜ世界がこうなってしまったのか」


 瞬間、この場にいる全員が息を呑んだ。


「……あるのか? 答えが」

「ある。僕に対する信用も以前よりは稼げた頃だ。話してもいいだろう」


 全員が目を合わせた。

 知りたい。知りたいに決まっている。

 なぜこんなことになってしまったのか。

 なぜ死体が歩いているのか。

 なぜ魔物が存在しているのか。

 なぜ多くの人が死ななければならなかったのか。

 その答えがあるなら知りたい。


「案内しよう、その施設の地下へ。だが、まずはその物資を外へ運んではどうかな?」

「……それもそうだな。俺たちの最優先事項は物資を避難所に持ち帰ることだ。なにがあってもすぐに出られるように物資は運んで置こう」

「わかりました……」


 逸る気持ちを抑えて物資を施設の外へと運び出す。


「お、見付かったか。案外早かったな」

「あら、どうしたの? みんな神妙な顔つきになっちゃって」

「まさか落下の衝撃で……と思ったけど、壊れてはなさそうだな」

「実は……」


 岸辺さんから時峯さんたちに事情が話されると、三人とも俺たちを同じようなリアクションを取る。

 犀川さんも運転席で目を丸くしていた。


「世界がこうなっちまった理由が……」

「あるのね? 私たちの足下に答えが」

「そいつはヤバいな。絶対に確かめないと」

「あぁ、それもそう考えてる。だが、何度も言うが最優先事項は物資を避難所に持ち帰ることだ。全員ではいけない。だから三人と犀川さんにはには引き続き待機してもらう。悪いな」

「……まぁ、任務は任務だからな。あとでちゃんと聞かせろよ」

「知るのがちょっと遅れちまうのがもどかしいけどな」

「物資は私たちが見てるから行って来て」

「頼んだぞ」


 物資と時峯さんたちを置いて、俺たちは再び施設の中に足を踏み入れる。

 待ち望んだ答えがすぐそこに。そう思うと自然と俺たちの足は早くなった。

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