第55話 物資
先日の作戦によってこの辺りの空を支配していた鳥の魔物は一掃された。
まだどこかに生き残りはいるかも知れないが、最近ではめっきり姿を見なくなったことから、数は激減していると見做されている。
また見掛けるようになるまでは相当な時間が掛かるはず。
これにより空の脅威は排除され、航空機がこの空を飛んでも問題ないと判断が下される。
そして物料投下の日時が決定した。
「物料投下の予定地点はここだ」
会議室のテーブルに広げられた地図。
以前のものから取り替えられていてまだ新品だった。
つるつるとした質感の上を指先が滑り、避難所からそう遠くない位置で止まる。
「公園」
落ちた物資の回収のことを考えると、広く空けた場所が選ばれるのは当然。
道路には乗り捨てられた車があり、大きな建物には瓦礫が散らばり、魔物やゾンビが潜んでいる。
その点、見晴らしのいい公園は打って付け。
「状況が状況だから落下地点に多少の誤差が出るだろうが、問題なく回収可能なはずだ」
「行って、拾って、持って帰るだけだ。俺たち自衛隊だけでも事足りると思うが、大事な物資の運搬だ、万が一に備えてついてきてほしい」
「はい。もちろん」
「頼りにしてる」
ここ最近は岸辺さんや大杉さんから、申し訳なさだけでなく信頼も感じられるようになった。
俺たちがまだ子供だということも差し引いても立派な戦力として数えてくれている。
平時ならとんでもないことだな、とつくづく思う。
「物資が無事に回収できればしばらくは安心ですねー」
「そうね。変わらず物資調達には行かなければならないでしょうけれど、かなり負担が軽減されるはずよ」
会議室を後にして廊下を歩く。
「装備に食糧に医薬品。不足してるものは全部補充出来るね」
「あたし、出来るなら食事にバリエーションが欲しいなぁ」
「しようがないことだけど、最近は献立も似たり寄ったりだしな」
避難所周りのコンビニやスーパーなどはほぼ商品を取り尽くし、物資調達は回を増すごとに遠出を余儀なくされている。
今はまだ日帰りでどうにかなっているが、日を跨ぐようになるのも時間の問題だ。
物資調達が遅れれば、それだけ毎日の食事が魔物の肉になる。
そのあたりを物料投下で解消してくれるとありがたい。
「この前の作戦で駐屯地から持って帰ってきた弾薬もかなり消費したし、なにがあっても物資を持って帰らないと」
ほかの人たちにも物料投下の話はされていて、誰もが事態がすこしでも良くなることを期待している。
避難所の雰囲気も今までにないくらい明るい。この期待を裏切る訳にはいかなかった。
来たる日に備えること数日、物料投下の予定日がやって来た。
朝早くから出発するにも関わらず、何人か人が起きてきて避難所の外まで出て来ていた。
バリケードに囲まれているとはいえ、その内側が絶対に安全というわけでもないのに。
それだけ物料投下に期待している証。
責任重大だ。
「よし、行こう」
「はい」
いつも通り犀川さんが運転する高機動車に乗り込み、避難所を後にする。
最初は居心地が悪かった高機動車にも慣れたもの。顔見知りの自衛官も増えたし、名前を憶えた人たちも一人二人じゃない。
「今回も頼んだぞ、蒼空」
「あーら、初対面の時とは対応が大違いね」
「はっはー、さしもの時峯も子供たちを認めたか」
「うるせぇ。改めるべき態度は改めんだよ、俺は」
時峯さんも百道さんも片山さんも、受け入れてくれている。
まるで俺たちも仲間の一員になったみたいだ。
「ただ頼り切りじゃ情けねぇ。気合い入れてけよ」
「わかってるわよ。私もこの子たち以上に頑張らないとね」
「大人の威厳って奴を見せつける時が来たな」
大人の威厳は十分に自衛隊の皆さんから感じているけれど。
とにかくみんなと一緒に物資を持ち帰ろう。避難所に希望を届けるんだ。
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