第52話 刀
「たしかに謎だらけの刀だけど」
咲希の親戚に当たる刀鍛冶の職人が打った傑作。
目玉が飛び出るような値段が付けられた価値のある一振り。
でも、これは刀の情報であって、宿ったスキルについては今も多くはわかっていない。
スキルを吸って刀身が帯電し、俺以外の人にはその能力を発揮しない。
「この刀で俺はなにをすればいい?」
「僕の予想が正しければ、その刀はキミのスキル、つまり雷を刀身に貯蔵している。言ってしまえば電池のようなものだ」
「電池……」
なにやら刀から一気にグレードが下がった気がするが、今は頭の片隅のほうへ追いやっておこう。
「いまキミから吸い上げたスキルは帯電状態の維持に使われている。貯蔵と消費が釣り合っている状態だ。その均衡を崩してやろう。キミがスキルの出力を上げて雷を刀身に流し込めば、消費量を超えて貯蔵された分だけ斬撃の威力が上がるはずだ」
「なるほど。それが本当なら攻撃が通じそうだな」
巨鳥が有している雷への耐性を上回る威力を出せそうな気がする。
「ただ、だとしてもその一撃をどうあいつに叩き込むかが問題だな」
「相手に制空権を握られた戦いほど不利な状況はない。なんとかして叩き落としてくれ」
「そっちのアドバイスはなし?」
「生憎、戦闘に関しては門外漢なもので」
「じゃあ、なんとかしてみるしかないか」
突破口は見付かった。あとはどう潜るか。
ワイヤーロープの鞭を利用しての移動法を続けながら刀に充電を開始。
打開策を思案していると、痺れを切らしたのか巨鳥が進路先に割って入ってきた。
すぐに進路を変更しようとしたが、巨鳥はその前に行動を起こす。
その巨大な翼を大きく羽ばたいて風を地面に叩き付け、絨毯を捲るように無数の瓦礫を舞い上げた。
体当たりがダメなら数で攻めようって腹か。かなり大雑把な攻撃だけど、今はそれがなによりも痛い。
「磁力でなんとか!」
これだけ瓦礫があるなら幾つか磁力で掴めるはず。
空から降り注ぐ瓦礫の雨、掠め続ける磁力の手が雨粒を掴む。
すぐにそれを傘にして身を守るも、次々に叩き付けられる大量の質量に傘も耐えきれずに砕けてしまう。
「くそッ! だったらやるしかない!」
充電した刀の破壊力に賭けるしかない。
俺を目掛けて落ちてくる瓦礫に向かって握り締めた刀で一閃を描く。
雷鳴を伴い走る剣の先が対象を捉えた刹那、目も眩むような雷光が瓦礫を破壊する。
それだけじゃない。瓦礫を破壊してもなお勢いが衰えず、他の瓦礫も纏めて破壊して天へと昇る。
まるで遡る落雷みたいに。
「今のは……」
「はっはー! いいね、予想以上だ。雷を伴う衝撃波の斬撃! これなら雷耐性を突破できる。最高だ! この技を遡る雷光、
勝手に技名を命名されたけれど、それはともかくとして。
「これなら――」
突然、足に力が入らなくなり膝をついてしまう。
なんだ? どうして足が言うことを聞かない? 痛みはない。今も過去にもそれらしい前兆もなかった。なのにどうして。
と、困惑しているうちに足に力が入るようになり立ち上がれた。
「なん、だ? 今の」
「突然の脱力……スキルを一気に放出したからか? 雷の出力が大きすぎて、キミの神経伝達に一時的なエラーが起こった、ということかも知れない」
「……つまり、連発は出来ないってことか」
無闇に放てば自らの動きを封じ、致命的な隙が生じることになる。
今回は足だったが次は腕かも知れないし、視神経かも知れない。
心臓は脳からの指令を受けずに動いているから、対象外か? それとも。
破壊力の代償。メリットとデメリットが表裏一体の諸刃の剣。
それでも巨鳥を斃すには、尚人の仇を討つには、それを振るうしかない。
「一撃で決めるんだ。外したらキミは最悪一歩も動けなくなる。そうなったら終わりだと思え」
「わかってる」
チャンスは一度切りだ。
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