第53話 一振り
天に遡った雷の衝撃波――ボイスが命名するには遡光を目にして、巨鳥は瓦礫を巻き上げるのを止めた。
意味がないと判断したんだろう。
実際は続けられるとかなりキツい攻撃だったから好都合。だけど、先の一撃で遡光が警戒されてしまった。
こちらが刀に稲妻を貯蔵している様子をしっかりと観察されている。
先ほどまでの苛烈な攻撃から一変して、巨鳥は俺から距離を取って旋回に移った。巨体に見合わず動きが速くて機敏だ。
このまま遡光を撃っても回避されるのがオチになる。
次に体のどの部分が反動で動かなくなるかわからない以上、無駄打ちはできない。
ここぞと言う時に、確実に当てるにはどうするべきか。
「そら、来るぞ」
思案している間に様子見を止めた巨鳥が攻めに転じ、翼を折り畳んで急降下。
稲妻を纏って螺旋を描き、弾丸のようにダイブしてくる。
回転することで威力を上げ、稲妻を纏うことで雷耐性を底上げする。
それで遡光の威力を耐性以下まで削るつもりか。
迎え撃つか? いま撃てば必ず当たる。
でも、どの程度威力を削られ、どの程度ダメージを与えられるのかは未知数だ。
たった今、出来た必殺技で撃つのはこれが二度目。反動があることはわかっているが、具体的にどのくらいの威力があるのかはまだわかってない。
そんな状況下で一発勝負の攻撃を仕掛けるのは分が悪い。
ここで勝負に出れば、負けた時取り返しが付かなくなる。
だけど、躱したところでどうなる? また同じことの繰り返しになるだけじゃ。
「撃つなら撃て。撃たないなら逃げろ。二者択一だ、今すぐ決めまきゃ間に合わない。すぐそこまで来てる」
「――わかった」
ワイヤーロープを左腕に巻き付けて磁界を生成。跳ねるようにこの身を高く打ち上げた。
「両方だ!」
たった今、上下関係が入れ替わり巨鳥が真下を通過する。
嘴で地面を抉り、稲妻で瓦礫を焼く。その様を上空から見下ろし、充電し切った刀を振るう。
解き放たれた稲妻が衝撃波となって降り注ぎ、巨鳥の背中を直撃する。
雷への耐性など最初からなかったかのように、それは巨鳥を斬り裂いた。
肉と骨を断ち、存在を二つに分ける。今度は上から下へと本来の起動をなぞって落ちた雷が巨鳥を死に至らしめた。
「終わった……」
仇を討った瞬間、尚人との記憶が蘇る。
一緒に馬鹿をやった休み時間、買い食いをして歩いた放課後、叫び合ったカラオケ。
今はもう決して叶うことのない日常が今はただ懐かしくて、恋しくて、堪らなかった。
「仇は討ったぞ、尚人」
地面に下り立ち、磁界を解除すると、左腕がだらりと垂れる。遡光の反動が左腕に来た。指一本動かせない。けど、それも少しすると間隔が戻って来た。
その手で巨鳥の鉤爪に巻き付いていた学生服の切れ端を握り、鉤爪を刀で断つ。解けた切れ端を握り締めて、俺はようやく決意を固めた。
尚人の両親に真実を言う。そして、この形見を渡そう。
それが尚人の友達だった者として出来る最後のことだ。
「ありがとう、ボイス。色々と助言をしてくれて」
「すこしは信用して貰えたかな?」
そう言えば今のボイスの目的はそれなんだっけ。
俺たちや自衛隊の人たちの信用を得る。
病気の魔物の時は重要な情報を渡してくれたし、今回は巨鳥の攻略法を教えてもらった。どちらもボイスなしでは成り立たなかったことだ。
「……すこしだけな」
「ははー、それはよかった。なによりだ」
ボイスの真の目的がなんなのかがわからないうちは全幅の信頼を置くことはできない。
けど、すこしくらいなら信用してもいい、かも知れない。
最終的なボイスの扱いは大人たちが決めることだけど、俺の考えはそんなところだ。
「じゃあ、僕はこの辺でお暇しよう。なにかあればまた連絡するよ」
「こっちからの連絡手段は?」
「それとなく察してこっちから連絡するさ。それじゃ」
派手なノイズを響かせて、それ以降無線機は沈黙した。
「凜々たちには心配かけたな。急いで戻らないと」
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