第51話 稲妻
最初に鳥の巣を爆撃したため、この当たりの瓦礫は高温に晒されている。
たぶんこの場にある瓦礫はすべて磁力による操作を受け付けない。
残された武器は雷と刀とワイヤーロープ。
睨み合いの中、先手を打つ。
ワイヤーロープを磁力で編み、鞭として近くの瓦礫に巻き付けた。
力の限りに振るい、磁力の力を合わせて瓦礫を巨体へと投げつける。
対する巨鳥は躱そうともしなかった。
鋭い嘴で瓦礫を打ち砕き、そのままこちらに突進してくる。
その前進を止めるために刀を向けて雷撃を見舞ったが勢いが止まらない。
それどころか軽い火傷程度で済んでしまっている。
「効いてない!?」
その事実に驚きつつも頭の中では次に取るべき行動を思考していた。
あの巨体の突進を今から動き出して躱し切ることはできない。だけど、ワイヤーロープを使えば突進の軌道上から離脱できるはず。
鞭を振るい、遠くの瓦礫を絡め取る。同時に磁力でワイヤーロープの編み方を変えて縮ませ、引き寄せられるようにしてその場から緊急離脱。突進を躱し切った瞬間に、巨鳥が側を通り過ぎていく。
「危なかった。けど、なんでスキルが――」
無線機から鳴り響く、ノイズ。
「どうやらその魔物は耐性を得てしまったようだね」
まだ聞き慣れない声。
「ボイスか」
「おや、驚かないんだね」
「もう慣れた」
どうやって無線機を介して会話しているのか、この場の光景をどうやって把握しているのか。
すべてが謎だがボイスが言っていた通り、スキルのお陰だということにしておこう。
考えても無駄だし、今はそんな余裕もない。
「それより耐性ってなんの話だ?」
「これは僕の仮説に過ぎないが、恐らく人型の魔物を喰ったんだろう。その能力がいまキミの目の前にいる魔物に引き継がれている」
「なにかしらの能力が俺の稲妻を防いでるってことか」
「能力はなんだろうね。雷が効かないってことはゴムかな? あるいはキミと同じかも知れない」
「雷……」
同じ雷の能力を有しているから耐性を持っている。
理屈は通っていた。
いま滑るように突進を終えた巨鳥が立ち上がり、翼を振るって焼けた土を払う。
そしてボイスの仮説を証明するかのように、巨鳥は全身に稲妻を纏った。
「マジかよッ」
雷撃で火傷を負ったのが気にくわなかったのか、今度は完全に防御する気だ。
こちらの武器を奪われ、残されたのは刀とワイヤーロープ。
だが、気を付けなければならない。
同じ能力を持っているなら、奴も使えるんだ。磁力を。
「あれを破る方法は二つ。一つ戦場を変えて瓦礫の打ち合いに持ち込むこと。同じ能力を持っていても人間であるキミのほうが精度は上だ。絶対に勝てる」
稲妻を纏った巨鳥が翼を広げて地面に風を叩き付けながら飛翔。
ダイブするように急降下してくる。
このままでは磨り潰される前に先ほどと同じようにワイヤーロープの鞭を駆使して戦場を駆け回る。だが、これも巨鳥は想定済みなのかすぐに方向転換して追い掛けてくる。
「二つ。強力な一撃を以て耐性の上から攻撃を通す。絶縁体でも過剰な電流によって絶縁破壊が起こるように、耐性にも上限があるはずだ。それをキミが越えられれば斃せるよ」
「一つ目は却下」
「なぜ?」
「奴が俺を追ってくるとは限らない」
もしターゲットを俺から凜々たちや自衛隊の人たちに向かったら、きっと壊滅的な被害を被ってしまう。
奴がただの巨鳥ならまだしも雷の能力持ちと判明した以上、ここで斃すしかない。
「なら二つ目の案で行こう」
「簡単に言う」
空を覆う巨大な翼から、雷鳴を伴った落雷が落ちる。
あたかも空爆を受けているような感覚に陥りながらもなんとか躱し、隙を見て鞭で絡め取った瓦礫を投げつける。
だが、これはあっさりと交わされ、舞い散る羽根がゆっくりと散った。
「心配ないさ。キミはもうその手段を持っている」
「手段を?」
そう言われて一番に思い浮かんだものがある。視線を手元に落とし、刀に映る自分と目が合った。
「刀か」
この刀にはスキルが宿っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます