第20話 氷雷の魔術

不思議だ…ジークさんに聞かなくても魔術が頭に浮かんでくる。

いや、元から知っている感覚に近い。


僕は地上へ視線を落とす。

凍らせたはずのアクローマの足元が黒い沼に変質している。

向こうも対抗手段は持ち合わせているようだ。

炎の壁を僕らの周囲に展開し、退路を断つ。


「巨人の炎をなぜ…」


「これは友達から貰ったんだ。それより、あなたはこれを見ても殺意が沸いたりしないの?」


「ドレイクほど重症ではない。あの巨人は私らが狙う赤い魔力とは違う。」


「それがイフリートを襲った勇者の名前?」


「あぁ、勇者3人のうちの1人。帝国の勇者ドレイクだ。あいつはもうダメだな、火精霊にすら激情するんじゃないか?」


イフリートが言っていたことを思い出す。


"彼には救いが要る"


まともな精神状態でないことは確かだ。

一度会ってみないと。


「お前を狙っている訳ではないんだ。私はこの辺で失礼するよ。」


「行かせないよ。」


アクローマの周囲に拳1つ分の大きさの火球を20個ほど生成する。


「はっ、退路を塞ぐならさっきみたいに壁でも作るべきなんじゃないか?」


足元の黒い沼から無数の腕が伸び火球を掴むが、どれも触れた傍から蒸発していく。


それぞれの火球を限界まで圧縮する。

もっと…もっとだ…

今の僕が出せる最高密度、最高温度。

するとこの場に小さな太陽が顕現する。

次に氷の霧で空間を満たす。


その瞬間…


ドォーーーーーーーーン


周りの木々は根元から折れ、爆発の余波は数百メートル離れた街の入口まで届いていた。

警備兵がこちらに向かって来ている。


「水蒸気爆発…っていうのか。ジークさん、とんでもない研究をしてたんだな。あ、トヨヒサさんのことすっかり忘れてた。」


地上には割れた鏡を持った無傷のトヨヒサと、着ていたローブが一片も残さず焼失し呪いで腐敗した肌に大火傷を負ったアクローマの姿があった。


「トヨヒサさん鏡壊しちゃってごめんなさい!で、あっちはローブに加護がかけられていたのかな。」


でなければ、即死せず生きている説明がつかない。


「くっ…覚えたぞメラルダの兄弟。即死させなかったことを後悔するんだな。」


アクローマの体が白い輝きを放ち始める。

その光にトヨヒサは見覚えがあった。


「ゴーシュ、あれは召喚術だ!転移のようなものだと思っていい!逃げられるぞ!」


地面とアクローマの足を氷漬けにする。

しかし、こんな物理的な固定で転移の邪魔ができるとは思っていない。


「師匠の技の再現ってことになるのかな。」


あの時、廃遺跡でアイビィさんが落とした雷を思い出す…


爆発で発生した上昇気流は疑似的な雲を作り、内部に小さな氷塊を生成し衝突させる。

氷が衝突する度、バチバチと音を立て帯電していく。


これが"氷雷"のジークの魔術なんだ。


「ありがとう。あなたの魔術を、人生を見せてくれて。」


雷鳴は、僕と兄さんの敵目掛けて月下を駆け抜け炸裂する。


アクローマがいた場所には彼の左足だけが形を保って残っていた。

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