第18話 悪寒
教会の勇者アクローマは、ブルーノから受けた呪詛返しの影響で実力の半分も出せない程弱っている。
魔王アイビィ・サタナキアにとって自らの仇討ちを成す絶好の機会であるはずなのだが…
「勇者をこの手で…と思っていたのじゃが、師が弟子の成長を邪魔する訳にはいかんからな。」
ゴーシュは殻を破った。
魔王の私怨が霞む程の成長を遂げようとしている。
「しかしここまで早いとはのぅ。サクめ、肝心な時にいないのは相変わらずじゃな。」
杖を託した少年の覚醒に立ち会えなかった友人を気の毒に思いながら勇者の方へ視線を移す。
トヨヒサが訝しげに目の前の敵を睨んでいる。
呪詛返しを受け虫の息であり、戦況を鑑みても自身が優勢なことは明白である。
にも関わらず、なぜか相対している男は平然と立っている。
「ガキを始末するだけのつもりが、お前のような強者を相手することになるとは。」
言葉に反してアクローマの表情からは余裕が伺える。
シャーラット魔術学園 呪術学 教授トヨヒサ・シホウイン。
帝国最高峰である教育機関の教授に歴代最年少で就任した稀代の傑物。
そんな男が手加減せず、呪術を行使しているがまるで効いていない。
「"魔術阻害"や"呪詛返し"はされていない。だったら何故…」
迎撃も回避もしていない。
呪詛返しで重症を負っていることから呪術が効かない訳ではなさそうだが。
「呪詛返し…不治の呪いか!」
ゴルゴーンには2種類の呪いがかけられていた。
1つは、腐敗の呪い。
そしてもう1つが、不治の呪い。これをかけられるとあらゆる祝福や治癒魔術の効果が無効化され治療ができなくなる。
しかし"停滞の呪い"をかければ腐敗の進行を止めることはできる。
それを警戒したアクローマは術式に手を加えた。
そうして改変された"不治の呪い"は…
「呪いも無効化する。」
アクローマは口の端を吊り上げ歪んだ笑みを作る。
「正解。皮肉なことにこんな体になった甲斐があるみたいだな。」
形勢逆転と言わんばかりに魔力を熾す。
その瞬間、気温が下がったと錯覚する程の寒気がトヨヒサの全身に走る。
「腐っても勇者ということですか…」
宙に魔法陣が現れる。
術式自体は呪術的な要素が多いが、教会の祝福も組み込まれているため解読も分解も出来ない。
トヨヒサはアーティファクトを取り出す。
"八咫鏡-やたのかがみ-"
魔術を反射することができる鏡。
今日に至るまでこの鏡に反射できない魔術は無かった。
相手が勇者だとしても例外ではない。
しかし、悪寒が止まらない。
頬を伝う冷や汗が異常に冷たい。
「まさか、既に精神魔術を…いや、違う。これは…!」
パリィィィィィン
魔法陣が、宙で薄氷が割れるかの如く砕け散る。
「なっ!なんだと!?」
予期せぬ事態にアクローマの表情から先程までの余裕が消える。
「本当に気温が下がってる。一体何が…」
トヨヒサは自身が感じていた寒気が物理的な気温低下だったことに底知れぬ恐怖を覚える。
上空に大きな気配を感じた2人は一斉に上を見上げる。
そこには、身の丈程の杖を持った少年が宙に浮いていた。
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