第14話 偽りの神託

イフリートと別れ飛行魔術で帰ってきた僕とアイビィさん。


家の前に馬車が止まっている。

母さんもちょうど帰って来たみたいだ。


母さんはサンサーラ教の信徒で、不定期だが教会の見習いたちに治癒魔術を教えに行き今回のように数日家を空けることがある。


「おかえりなさい!」


あれ?母さんの様子がおかしい。

顎が外れたみたいに口を開けて、目をぱちくりさせ何度もまばたきしている。


「ゴ、ゴーシュが…空飛んでお嫁さん連れて来たわーー!!!」


あ…母さんが気絶した。


その後、僕が研究塔へ兄さんを呼びに行ってる間に父さんがゴルゴーンと魔王について上手く説明してくれたようだ。


「フィアナ、実はこういうことが…」


ステノ、リュア、メディは兄さんのメイド。

アイビィさんは僕の護衛。

このような設定だ。


「あなた説明ありがとう。ゴーシュもブルーノも私がいない間に何か良いことがあったみたいね。表情を見ればわかるわ。」


うん、本当に色々あった。

久しぶりのメラルダ家全員集合。

加えてメイド3人と護衛1人と母さんの隣に…


「その女の子は誰?」


歳は僕と同じくらい。

胸の辺りまである桃色の髪、やや垂れ気味なとろんとした目元。

しかし、その表情は暗い。

緊張してるのかな。


「メラルダ家の皆様。初めまして教会の巫女レイアと申します。この度帰郷するフィアナ様に無理を行って同行させて頂き…教会から逃げてきました。」


これを聞いた途端、父さんから怒気が発せられる。

子供も置いておけないような場所に母さんを行かせてしまったことを悔いている様子だ。

しかし、事情を聞いたところ意地悪をされたとか何か事件があったわけでは無いようだ。


「神託がおかしいのです。あれはサンサーラ様の御声じゃありません。」


確かにそれはおかしい。

転生神サンサーラを唯一神としているから他の神の声が聞こえるはずが無い。

でもそれだけで逃げ出すとは思えない。

内容が気になるな。


「神託の内容を聞いてもいい?」


レイアは不安そうに母さんの方を見る。


「言って大丈夫よ。信用できる家族だから。」


それを聞いた当代の巫女は神託を口にする。


「赤い魔力が厄災を招く。」


僕の事情を知ってる兄さんと父さんの表情が険しくなる。

勇者に続いて教会も"赤い魔力"を…


「これはグリス大司教にしか伝えていません。教会が神託を公表していないので内密にしてくれていると思います。」


公になっていないのはありがたい。

僕は杖で魔力を隠せるから狙われることは無いだろうが、イフリートが心配だ。


「あと、これはグリス大司教にも言っていないのですが神託を授かる直前に必ずある言葉が聞こえるのです。」


「どんな言葉なの?」


なんだろう?

"迷える子羊よ"くらいしか思いつかないな


「パルラーム・イタ」


母さんとレイアを除くこの場の全員に衝撃が走る。


これは…確定だ。


勇者や教会が狙ってるのはイフリートではない。


もっと言えば、赤い魔力でもない。


…僕だ。


僕しか知らないはずの言葉。

いや、他に1人だけいる…サクさん。

だとしたらサクさんが教会と勇者に僕を狙わせてる?

それが真実なら僕の事情を知りながら杖をくれた理由に説明がつかない。

ダメだ、考えがまとまらない。

近いうちにサクさんに聞きに行かないと。



その後、父さんと母さんで話し合った結果


レイアは領内の宿屋でしばらく過ごしてもらうことになった。

教会が捜索に来た際、領主邸でレイアが発見されるとメラルダ家を危険に晒してしまうと判断したのだろう。


皆も納得したようでこの場は解散となった。

教会と勇者に関してはまだ、赤い魔力が僕だと特定されたわけでは無いので今のところは問題ないだろう。


それよりも気がかりなことは…


「兄さん、今日ずっと顔色が優れないけどどうかしたの?」


もしかして僕のことを心配してくれていたりして。


「あぁ、実は来週の魔術学会で発表の時間を貰えるよう申請したんだが…」


そっちか…学会は3か月に1度、開催地を毎回変更して行われる。

今回は見送ると思ってたけど、さすがは兄さんだ。


「…ホムンクルスが壊れてしまったんだ。」


…え?

ロアには先日アイビィさんたちの分を送って貰った際に


"共同戦線に使用するからこれ以上は送れない"って言われたし…


どうしたもんか…


「「「主様、是非私を使ってください。」」」


ウチのメイド達がとんでもないことを言いだした。

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