第13話 彼岸の太陽
「アイビィさんは温泉の巨人と知り合いなの?」
というかあの巨人に名前があったのか。
いつ見ても動いてないから生きてることすら知らなかった。
「帝国の勇者に襲われているところを助けたのじゃ。その時勇者の腕を切り落として皇帝に送り付けてやったら討伐隊を組まれてしまったがな。ガハハハッ」
僕はとんでもない魂を呼び起こしてしまったのかもしれない。
そんな話をしているうちに巨人温泉に到着した。
「おーい、イフリート。プレゼントじゃ。」
間近で炎の巨人を見るのは初めてだが、大きい。あまりにも大きい
1つの巨大な山を囲むように温泉がいくつも湧いており、山頂付近は円錐状にくり抜かれたような大きなくぼみがある。
そのくぼみに、手足を山の外へ放り出し、まるで風呂にでも浸かるかの如く深く腰かけ天を仰いでいるのが炎の巨人イフリート。
体表には赤い炎が揺らめいている。
厳密に言えば、赤い炎の形をした魔力が絶えず噴出している。
サクさんから預かった水晶の片方を、メラルダ家の庭が10個分以上もありそうな巨人の手のひらに置く。
「アイビィ…久しぶり…」
巨人は口を開きゆっくりと喋り始めた。
「次に帝国の勇者が来やがったらそれを握り潰せ。我がすぐに駆けつける。」
サクさんから預かった2つの水晶は遠距離の連絡手段のようだ。
「あ…りがとう。勇者…昨日も来た。」
それを聞いたアイビィさんは怒気を発する。
イフリートは勇者に何をされても戦闘行為をしなかったらしい。
自分が暴れれば麓の温泉街がどうなるか分かっている。
イフリートは、優しいんだ。
「魔術を…途中で止めて謝罪を…してきた。彼には…救いが要る。」
謝罪?アイビィさんに腕を切り落とされたにも関わらず再び襲いに来たのも違和感があるが…
攻撃を中断して謝罪?
「あやつらに何かが混ざってるのはサクも気づいておったが…
であれば、くれてやろう。とびっきりの救いを!」
慈悲を語りながらも殺気を放つアイビィさん。
さすが魔王、死は救済だと思ってらっしゃる。
「イフリート、こやつにお主の火を少し分けてやってくれないか?如何せん貧弱でな。」
火を分ける。
僕も体に炎が纏えるようになったりして。
イフリートのようになった自分の姿を想像する…うん、丸焦げだ。
手に余る力は身を滅ぼすと言うし、ここは丁重にお断りを…
「いいよ…あげる…」
「え!あ、いや遠慮し…あれ?」
サクさんから貰った杖にイフリートから出る炎の一部が吸い込まれる。
「あの世でも温泉が湧くかもしれないのう。」
ガハハハッと大口を開けて笑うアイビィさん。
そういえば飛行魔術を使ってから彼岸と繋がったままだった。
イフリートの炎は向こうに送られたってことか。
僕は心象風景を覗く。
太陽も月も無い。魂が発する微かな光だけが紅の花弁を照らしている。
そこへ現れた小さな太陽。
爛々と輝くイフリートの炎のもとへ彼岸の住人たちが集まってくる。
温度の概念など無いはずの彼岸が、暖かな空気に包まれる。
「ありがとうイフリート、僕はゴーシュ。彼岸の住人たちに代わってあなたに感謝を伝えたい。本当にありがとう。」
迷える魂を導く暖かな灯。
これを授けてくれた大きな友に、心からの感謝を述べる。
「ゴーシュ…小さき友…」
メラルダの外でできた初めての友達。
今度カインに紹介しよう。
僕とアイビィさんはイフリートと別れ、メラルダへの帰路につく。
「ゴーシュ、魔術は好きか?」
魔術…か。
魂を向こうへ送る時に使う彼岸の魔力、術式も魔法陣も無いあれは恐らく魔術とは別の力。
だからそういう意味では今日、初めて自分で魔術を学んで習得した。
僕を心配して魔術から遠ざけてた父さんを憎んではいない。
ただ、正直なことを言うと…
「うん。もっと色んな魔術を見て、触れたい。」
魂を冒涜するようなものは嫌だけど…
「遠からず叶う。魔王たる我がこの世の全てを見せてやろう。じゃが、その前に…さっきの炎、尻から出してくれぬか?放屁で飛んでるように見えて面白そうじゃろ?ガハハハッ」
大きな友よ。君の炎でこの魔王を丸焦げにするのをどうか許してくれ。
「お、おい我を燃やすでない!冗談!冗談じゃー!」
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