第11話 弟子入り

勇者が僕を…

いや、赤い魔力が扱える者を狙ってる。


「まぁ、そう警戒しなくてもよい。お主が今のまま、ぐーたら引きこもっておれば勇者共と鉢合わせることなどないじゃろ。」


確かに、そうだ。

今も昔もメラルダに勇者が来たことなど1度もない。

今まで通り引きこもっていればいいだけのこと。


「それに勇者3人のうち1人はお主の兄に呪詛返しを食らって虫の息じゃろうな。」


ゴルゴーンに呪詛を施したのは勇者だったのか。


「ゴーシュ様。ガナン様が自室に来るようにと仰っておりました。」


ステノが父さんからの伝言を伝えに来てくれた。

ステノ、リュア、メディは兄さんが研究に没頭している間メイドとして働いてくれている。


「ありがとう。すぐ向かうよ。」


部屋に入ると父さんがどこか機嫌良さそうにしている。


「ブルーノの憑き物を取ってくれたのか?」


確かに、遺跡の1件を経て兄さんは変わった。

研究塔へ向かう顔つきにはもう一切の迷いがなかった。


「僕はなにも。」


うん、兄さんが自分で変わったんだ。


「本人はそう思ってはいないみたいだがな。」


"父様がゴーシュのことを想って魔術から遠ざけているのは存じております。ただ、私の身に何かあった時のために弟にも次期当主が務まるよう指導を再開して頂けませんか?"


「ブルーノがまさかこんなことを言うようになるとはな。」


あぁ、どうしよう…


嬉しい。

泣きそう。

口角が上がりすぎて頬が痛い。

顔は火が出そうな程熱い。

あれ程僕を遠ざけようとしていた兄さんが…


「ブルーノがルセイブルに入学してしまえば退屈だろう?やることがないなら家庭教師をもう一度つけるか?」


ん?家庭教師…


1年前、始めて彼岸と繋がった日以前の生活を思い出す。

メラルダ家の書庫。

この地で研究してきた先人たちの歴史そのもの。

1日中、魔導書と歴史書とにらめっこ。

入れ替わり立ち替わり別の本を持ってくる家庭教師たち。

いくら読んでも終わりが見えない書物の山。


「じ、実は来年やろうと思ってることが…」


兄さんの気遣いは嬉しいが、書庫で本と心中する未来に怖気づき言葉を濁す。

その後父さんから、兄さんが僕と同じ歳だった頃どのように学んで過ごしてたのか教えて貰った。


【兄さんの華麗なる1日!】

6時:魔力量の底上げ。怠さを感じるまで魔力を使い切る。

(おぉ)


8時:術式について座学。

(うん)


10時:領地経営について座学。

(え…)


13時:メラルダ家書庫の魔導書を読む。

(…)

~以下省略~


「兄さんはこれを毎日?」


まずい、非常に。嫌な予感がする。

この1年引きこもってきた落ちこぼれゴーシュ・メラルダの平穏が脅かされる予感。


「あぁ、毎日だ。お前は始めるのが遅いからもう少し忙しくなるかもな。」


「 ・ ・ ・ 。」





-----数時間後、ゴーシュ自室-----


「…というわけで、カイン。このままだと僕は遠くない未来、勉強という暴力に蹂躙され廃人になってしまう。」


今の僕にとっては勇者が殺しにくるよりよっぽど恐ろしい未来だ。


「要は、他にやることがあって勉強に時間を割けない口実が必要ってことだね」


さすが親友。察しが良い。


カイン曰く。

この前のジャイアントボアを傷つけず無力化した噂が本当ならカインの父親が所属するギルドに行けば仕事はいくらでも貰えるとのことだ。

メラルダにあるギルドは依頼窓口を2種類設けている。

対人関係の依頼:主に人探しや失くし物、護衛。あとは大きな声では言えないが暗殺。

魔物関係の依頼:主に駆除や素材調達、捕獲。


アンデッドの駆除とかであれば僕でもできそうだ。

早速カインは、父親がいるギルドへ僕に仕事の斡旋をしても良いか相談しに行ってくれた。


「お主、彼岸の魔力使うつもりじゃろ。」


ギクっ!

赤い魔力を狙う勇者…

アイビィさんが、じと目で睨んでくる。


「弟子になれ、護身くらいはできるようにしてやる。」


魔王の弟子…

でも、僕自身は魔力が無いから結局は彼岸の魔力を使うことになるのでは。


「僕魔力無いよ?」


「そんなことはわかっておる。出かけるぞ、お主に必要な物を取りに行く。」


たった今師匠となったアイビィさんと出掛ける準備をして庭に出てきた。


「あ、馬車の手配忘れてた。ここから遠いの?」


アイビィさんは徐に僕を抱きかかえる。


「え!ちょ、どうしたの!?」


「近くはないが馬車など使わん。舌を噛むなよ。」


「え…ええええええ!!!!」


現在、僕に必要な物とやらを求めてお出掛けをしている。

お姫様抱っこされ空を飛びながら。

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