第10話 一難去って

「ふぅ、呪詛が予想より多くて魔力が足りないかと思ったが…ゴーシュだろ?上空に滞留してた魔力ごっそり落としてくれたの」


どうしよう。兄さんに魔王さんのこと説明しないと。


「あんなことまでできるとはな。あと、魔王とか言ってたか?お年頃ってやつだろ?誰にも言わないから安心しな。」


まずい。とんでもない勘違いをされてる気がする。


「ち、違うんだ!ほら魔王さん!あなたからも…って、今は喋れないのか。」


(ん?喋ればよいのか?ほれ貸してみ)


え、ちょ!?何を!


「我は魔王アイビィ・サタナキア。お主の弟の体を拝借しておる。ゴルゴーンを呪詛から解放してくれたこと心より感謝する。」


この後兄さんに事情を理解してもらうまで十数分かかったが、なんとか誤解なく伝わり現在はゴルゴーンをどうするかについて話している。

魂の方は呪詛から解放され感謝の念で満ちているが、肉体は不死性があるとはいえ呪詛の腐敗と魔王の雷で酷い有り様だ。


「俺が極東から持って来た魔導書に爺さんの魂が憑りついてたの覚えてるか?あの原理でホムンクルスに魂って入れらんねえのか?」


できる。生者の魂を引き剥がして別のものに入れるなんて悍ましくて考えたくもないが、今回に限ってはこれ以上ない正解だ。


「できる!兄さんよく気がついたね。」


「お前ならそれくらいできて当たり前だと思っただけだ。」


え?兄さん今僕のこと褒めた?もう僕このまま昇天してもいい。




1週間が過ぎ、後処理に関しては父さんが協力してくれたおかげで無事解決した。

ソーマ様に話を通してくれたようで後日グレイス家から5体のホムンクルスが届いた。

ゴルゴーンの中には3つの魂があったので3体。

アイビィさんに毎回体を貸すわけにもいかないので1体。

元々ロアに頼んでた1体。


「なぁ、ホムンクルスって魂ぶち込むと体型変わんのか?」


目の前の光景が信じられないのか兄さんが僕とロアに尋ねる。


「そんな話聞いたことありませんわ」


「うん、魂にそこまでの干渉力は無いね」


アイビィさんをホムンクルスに入れた途端、容姿が劇的に変化した。

腰まである漆黒の髪、ホムンクルスの設計とはかけ離れたグラマーなボディ。

もちろん変身魔術も幻影魔術も使ってない。


「ま、これが魔王の格というものじゃ。」


ゴルゴーンさん達は変身魔法を使用した。

薄紫色の髪を肩の辺りで切り揃えた20歳くらいの女性の外見でメラルダ家のメイドと同じ服を着ている。

ぱっと見、3人の区別がつかないため頭文字が彫られたネックレスをしてもらっている。

名前はそれぞれステノ、リュア、メディ。兄さんが名前をつけてあげたらしい。


「主様、名前ありがとう。」


呪詛返しの件で兄さんに忠誠を誓ったようであれ以来"主様"と呼ぶようになっている。

これにはアイビィさんが怒るかと思ったが"恩には報いろ"とのことで特に気にしていないようだ。


そんなアイビィさんにいつまで滞在するのか尋ねたところ…


「ずっといるつもりじゃが?お主がいなければこの世に魂を留めておけないではないか。」


とのことで、メラルダ家にメイド3人と魔王1人が加わることになった。

母さんが帰って来た時は説明するのに苦労しそうだ。


「俺はしばらく研究塔に籠る。母様が帰ってきたら呼びに来てくれると助かる。」


ホムンクルスと呪術の研究…兄さんが君主になるまであと少しだ。

まぁ、今回の件で大分仲良くなれたし君主にこだわらなくても良い気はするけど。


「わかった!その時は今回のこと一緒に説明してね。」


カインに事の顛末を話したあとは母さんが帰ってくるのを待つ平和な日が続いた。



「そういえば、お主今後は彼岸の魔力は使うなよ?」


急にどうしたんだろう。父さんと同じ理由?

僕は首を傾げる。


「奴らは我を殺す瞬間言っておったぞ。」


「魔王でもダメなのか。結局は、赤い魔力を殺さないと。ってな!」


予想外の答えに全身が強張る。


「奴らっていうのは?」


なんでこんなこと聞いたんだろう。

正体を知ったところで恐らく意味はない。

アイビィさんを殺せるような連中に殺意を向けられたらどうなるかくらいわかる。


「勇者じゃよ。」

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