第5話 君主

君主とは、他の誰にも再現できない固有魔術を扱う者に対して"学会"から送られる称号である。


学会で固有魔術を発表し、その後1年以内に再現できる魔術師が現れない場合に学会から君主として認定される。


認定後に再現された場合はその時点から君主ではなくなる。


学会には全ての国が参加しているため、この称号を得れば世界中から認められたことになる。


しかし最近の学会は、軍事利用や生活向上のため魔術師達がそれぞれの研究を発表する場であり、術者の力量に依存せず再現性が高い内容が評価される傾向にある。


「ブ、ブルーノを君主ぅ!?」


僕の親友は本当に良い反応をしてくれる。


「うん、入学までちょうど1年あるし。発表さえしてしまえば、あとは兄さんが在学中に君主になって劣等感から解放されるはず。」


まぁ、簡単に言ったけど魔術の開拓と研究が進みすぎた今の時代に前例の無いオリジナルの魔術を開発するなど至難の業だ。

でも抜け穴は存在する。


「何か策はあるの?」


カインのこの顔は僕が思いつきの無策で口走ってると思っているな。


「うん、とびっきりのがあるよ!ホムンクルス!」


僕の答えを聞いてもカインはぴんと来ていないようだ。


「ブルーノが呪術に長けているのは知ってるけど、グレイス家の人形でなにかできるとは思えないな…」


兄さんはここ最近アンデッドの軍事利用について研究しているが成果は得られていないといった状況だ。

原因は主に2つ。


1つは、魂を知覚する才能が無い。


もう1つは、死体と兄さんが扱う呪術の相性が極端に悪い。


魂の知覚に関しては、僕と父さんが異常なだけでさほど問題ではない。


問題はもう1つのほう。

兄さんの扱う呪術は極東のもの、それもかなり古い術式がベースになっている。


極東の国で学会が開催された際に、父さんに同行した兄さんが帰ってきて早々、大昔の言語で書かれたボロボロの魔導書を僕に自慢していたからよく覚えている。


骨董市で買ったというその魔導書には何故か魂が憑いていたので僕がその魂に内容を教えてもらい兄さんと一緒に解読したのは良い思い出。


(あの頃は仲良くしてくれてたのになぁ)


その内容は、"付喪神-つくもがみ-"という概念を呪術として改良したものだった。


端的に言えば、物に呪いを込める。


そこで錬金術で生み出される"物"であるホムンクルスに白羽の矢が立ったというわけだ。


これらのことをカインに伝えたところ…


「理にかなってはいる。けど、長年呪術を研究してきた極東の連中にも再現できちゃうんじゃない?」


これを聞いてすぐその疑問が出るとは親友の洞察力はやっぱりさすがだ。

でも…


「極東の人達にはできないよ。だって、

ホムンクルスの製造法はグレイス家が完全に秘匿してる。」


どうやらカインも僕の意図に気づいたみたい。


「運が良いことに錬金術の名門グレイス侯爵家の領地はメラルダのすぐ隣だし、ここの研究塔から素材の提供もしてる。

それにロアに頼めば作り方の1つや2つ教えてくれそうだからね!」


ロア・グレイス。錬金術の研究塔を持つグレイス領の領主ソーマの娘。領主の付き添いでメラルダに来る際は僕とカインと3人でよく遊ぶような仲だ。


「ゴーシュまさか…」


「うん、そう。再現できる連中がいるなら、再現する手段を取り上げてしまおう!」


これで兄さんが君主になることは約束されたも同然。我ながら素晴らしい作戦だ。


「ず、ずるじゃないかー!!!」


カインがなにやら叫んでいるが今後のことで頭がいっぱいであったため、僕は聞こえないフリをした。

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