第4話 兄

「おい、ゴーシュ!引きこもりのお前が父様と何を話していた!答えろ!」


父さんの自室から出た途端、長男のブルーノが切羽詰まった様子で問い詰めてきた。


「研究塔に忍びこんだから怒られていたんだよ。死霊術も使用は控えろって念を押されたし」


「そ、そうか。」


僕の答えにブルーノ兄さんは安心したのか。足早にこの場を後にする。


「な、なんて奴だ!あれが守るべき弟に対する態度なのか!」


どこから現れたのか。ムキー!!と親友のカインが僕の代わりに憤慨している。


「ねぇ、カイン。怒ってくれるのは嬉しいんだけどさ、客間で待ってることはできないの?」


「うっ、ごめん…」


侯爵家の当主と息子の機密事項が遊びに来ている友達に筒抜けなんて間抜けな話はここでしか聞いたことがない。

まぁ、先程の父さんとの会話を聞かれたところで目の前の彼が情報を誰かに渡すようなマネをするとは思えないからいいのだが。


「でもここ"1年"のブルーノのゴーシュに対する態度は見てられないよ!」


1年…そこに気が付くとは我が友の洞察力は大したものだ。

そう、紅の花弁が初めて開いたあの日。兄さんは僕がしたことを見ていたのだろう。

確かに"死霊の君主"の息子に生まれて自分の弟があのようなことをやってのけたら嫉妬の1つもするだろう。

それに兄さんには…


死霊術の才能が無い。

僕のように魔術全般がからっきしというわけではない。

呪術やその他の黒魔術では稀代の天才と言われており、12歳という若さでありながら学会でいくつも論文を出し世間から大きな評価を得ている。


そんな兄さんでも得手不得手はある。


偶然にもその不得手の部分が自分の父が得意とする分野だっただけのこと。


偶然にもその不得手の部分が自分の弟に才能がある分野だっただけのこと。


たったそれだけ。それだけだが、12歳の子供が嫉妬をするにはそれだけで十分だった。


「なんとか来年までには仲直りしたいな。ルセイブル学院に行って長い間離れてしまったらこの亀裂は一生修復できそうにないし。」


「えぇっ!ブルーノの奴、王都のルセイブルに入学が決まってるの!?」


カインが目をまん丸にして仰天している。そうだ兄さんはすごいんだ。

実力も才能も十分なんだからあとは自信を持ってくれれば仲直りできそうなんだけど…


「領主の長男を"奴"呼ばわりするのは君くらいだよ…それはひとまず置いといて。

うん、父さんがね。研究塔に入る前に色々な魔術に触れて黒魔術の解釈を広げてこいって兄さんに言ってた。」


父さんはたぶん、死霊術にこだわって欲しくないんだと思う。


「だからカイン、僕はあの計画を実行に移すことにした…」


急に空気が変わる。

ゴーシュが放つ真剣な雰囲気は、2人がいるメラルダ領主邸の廊下を飲み込み視界が暗くなったと錯覚してしまうほどだった。

カインは親友の初めて見せる雰囲気に体をこわばらせる。


(ま、まさか…、君はブルーノを…実の兄を…暗さ)


「ブルーノ兄さんを君主にして自信満々!弟とも仲直り作戦~!!」


「 ・ ・ ・ 。」


我が友が奇人変人を見るような目で僕を見てくる。


「よ、要はブルーノの劣等感をとっ払って自分の得意な分野にもっと誇りを持たせたいってこと?」


正解。あれほどの才能があって尚、劣等感を抱く原因。そんなのは1つしかない。

僕たちが、死霊の"君主"の息子ってことだ。


だったら答えは決まってる。兄さんにも別の分野で君主になってもらえばいい。

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