第3話 心象風景
「はぁ…」
僕は今、父さんの自室にいる。
さっきの研究塔の件で呼び出しを食らったわけだ。
たった今大きなため息をついたのは僕ではなく父さんだ。
「バレてしまったか…ゴーシュよ」
おかしい。研究失敗の原因である僕を怒るとか失望するとかそういった対応をされると思っていたがそうではないようだ。
「は、はい父さん。」
「今回の件でお前の非凡な才が衆目に晒されたわけだ。今後お前を担ぐ輩が現れるだろう、そうなったら…」
そうか、父さんは…
「僕なら大丈夫だよ。境界は超えない。」
僕の答えを聞き驚いたように目を見開いた。
「わかっているならいい。私の背を追う必要はない。」
父さんはたぶん、僕の中で生き死にの概念が曖昧になることを危惧しているんだ。
それは1年前のあの日からなんとなくわかっていた。
魔力が無いと判明した後でさえも、僕の"眼"があればメラルダ家の未来を任せられると言い死霊術を含む様々な黒魔術の教育を施そうとしていた。
そんな父さんがあの日以来僕に死霊術を教えなくなった。家庭教師の授業も全て中止し、メラルダ家次男でありながら黒魔術に触れることはなくなった。
もしもあの日以降、父さんが僕の才能だけに目を付けて死霊術を使わせ続け霊魂との同調を繰り返していたら待っているのは破滅だったと思う。
間違いなくあの世とこの世の堺目がわからなくなり精神が崩壊していた。そうなることを父さんはあの瞬間に理解したんだ。
自分の息子が落ちこぼれという噂を聞いても皺1つ作らずむしろ安心した表情をしていたのもそういうことだろう。死霊術から遠ざけられるなら何でもいい。
「ありがとう父さん」
「よい、礼など言うな。私の後釜ならブルーノで十分だ。」
うん、ブルーノ兄さんならメラルダ家を益々繁栄させるはず。
「それより先程の研究塔での件、心象は見たのか。」
心象風景。君主となり固有魔術を習得した魔術師が己の魔力の根源に向き合った時にのみ知覚できる。これを事象と呼ぶ者、あるいは物質や空間と呼ぶ者もいるがそうではない。
うん断言できる。誰に習ったわけでもない。
ただ…
わかる
知っている
覚えている
それを僕は
------ 魂 ------
そう呼んでいる。
「うん、せっかくだから見てきた。僕が心象風景を見られるのはあの魔力を使ってる時だけだもん。」
僕はあっけらかんと答える。
「ゴーシュよ、心象の中で知覚できる魂は1人につき1つだ。転生や重魂は別だがそれでも2つが限度だ。だが、あの日のお前の言葉が本当なら…」
父さんがゴクリと唾を飲みこむ。あの日、僕が言ったことが嘘であってほしい。そんな気持ちが8歳の僕にも伝わってくる。
父さんは優しい。家の繁栄よりも、魔術の進歩よりも息子の人生を優先してくれている。
でも。だからこそ。
嘘はつけない。
「僕の心象はね、たくさんの魂であふれてる。」
それは本来、有り得ないこと。心象風景の中にあるのは自分の魂だ。だから2つ以上なんてあるわけない。僕は転生を重ねた先祖返りでもないし重魂のキメラでもない。
まぁ、つまり…
「1年前に言ったことは本当だよ。
あの赤い魔力を使ってる時、僕は…
…彼岸と繋がってる。」
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