第28話 鉄平の御乱心

パチっと目が開いた。


鉄平の意識が戻ってきたのだ。


キョロキョロと、病室を見渡す鉄平。

視界の端に、関口が着替えを仕舞っている姿を見つけた。


ガバッと、起き上がり叫ぶ鉄平。


「関口!!今日は、何月何日だ!!」


驚きでビクッと身が縮まった関口が、ベットを見ると、必死の形相で半身を起こしている鉄平がいた。


「鉄平様っ!!」


よかった!と、関口が駆け寄る。

鉄平の手を両手で握って、捲し立てる。


「鉄平様、意識が戻られてようございました!!

2日も微動だにされなかったんですよ。本当にっ...本当に....、心配、しました....。」


嗚咽とともに目から涙がこぼれ、ハンカチで目頭を押さえる。


安心して、涙腺がゆるんだようだ。

だが、鉄平はそれどころではない。

関口を労る余裕もなく、今日の日付を確認する。


「2日??僕は2日も寝てたのかっ!

ということは....9月8日かっ!?」


あまりの剣幕に、関口の涙も引っ込む。

慌てて、肯定した。


「は、はいっ!8日でございますっ!!」


頭の中で、依と最後に会った8月16日から何日たったか高速で計算する鉄平。

22日経ってる事実に唖然とする。そして、その間に依が、沢崎とアルゼンチンに何故か居たことにも気づき、蒼白になる。


「まずい!!22日も経ってる!」


「え、何がですか?最初の目覚めからは、まだ20日ですが??」


鉄平が、病室で目を覚ましたのは、タイムラグがあり8月18日であった。

関口は、鉄平の体調管理のために毎日数えていたので、数字に疑問を持った。


「依さんと離れてから22日だっ!!」


「ヨリサン?」


関口は、聞き覚えのない名前と22日という想像できない数字に困惑する。


「依さんは、僕の大事な女性なんだっ!

ここには、居られない!今すぐ退院しないといけない!!

関口!担当医を呼んでくれ!!すぐに退院する!」


「お、落ち着いてください!鉄平様。

常識的に、すぐ退院できるわけないでしょう!?」


「わかるが!

金でもなんでも握らせて、医者をしばらく同行させたらどうにかなるんじゃないかっ!?」


「お医者様を同行させるにも、人選をする時間が必要です。

とにかく、落ち着いてくださいっ!」


「無理!落ち着けない!!

僕の依さんがっ!沢崎くんに盗られるかもしれないんだ!

今すぐ、会わなくちゃ!!」


「とりあえずっ!!

そのヨリサンというかたにご連絡したら良いんじゃないですか!?」


「連絡先、知らないんだっ!!」


「えっ!!知らないんですかっ!?」


関口は、今にも立ち上がりそうな鉄平を押さえつけながら驚愕した。


「え〜っと。鉄平様?ヨリサンという方は、どんな方なんでしょう?」


女性嫌いの独身主義者である主人が、切望するヨリサンとは?

22日会ってないとは?

鉄平は、その時まだ意識が戻らずここに居たはず。

困惑する関口が、恐る恐る鉄平に問いかけた。

妄想上の人物ではないかと。やはり、主人は事故で頭がヤられたのでは? と、懸念しつつ問いかけた。


「依さんはっ、素敵な女性だ!

詳しく話してあげたいが、それどころじゃない!!

まずい!そうだ!樹!!

関口、携帯をくれ。電話する!」


「落ち着いてください。鉄平様。

...まずは、お医者様に診てもらうのが先です。」


関口は、威厳のある有無を言わせない口調で鉄平を諭すと、枕元のボタンを押して、医者を呼んだ。


はい。どうしましたか? と、ナースステーションから応答があり、鉄平が目覚めたことを伝える。


関口が味方になってくれないことを悟った鉄平は、打ちひしがれ、


「退院したいんだぁぁぁ!!依さぁーんっ!」


と、顔を覆いながら叫んだのだった...。


このあと、鉄平の興奮が冷めやらず、医者や看護師にも、関口と一緒に説得され続け、あわや鎮静剤の注射を打たれそうになった。

依が関わると途端残念になるのは、生き返っても同じであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る