第5話 休暇が始まりました。
ガチャリと玄関を開けて、そのままベットにダイブする。
疲れた…。我が家にようやく帰ってこれた…。
今日は、いろんなことがあった。
朝から、課長の麗しいご尊顔をみて、なぜか告白されて襲われそうになって、キスもされ…。
ずいぶん濃い内容に、出勤してからもなんだか身が入らずだった。
課長がそばに来るだけで、肩の力が入っちゃうし仕事どころじゃなくなった。
それに課長も、昨日までの私への態度をどこに置いてきたのか、ぐいぐい攻めてくる。
周りにバレそうでひやひやして、こっちが挙動不審になってしまった。
さすがに職場ということで、あからさまな贔屓や色気を全面にだして誘惑をしてくることはなかったが、ふとした瞬間に甘く接してくるのだ。
書類を提出すれば、去り際に軽く頭に手を置かれたり...。
なでなで、ぽんぽんまではいかないものだから、セクハラっぽくもない。
意識しなければ、ねぎらいみたいなものだけど、課長の気持ちを知っちゃった今、意識せずにはいられない。
話しかけられた時なんて、慈愛の笑みを向けられて、体の距離もいつもより1歩近い...。
去る時なんか、セクシーな甘い笑みが飛んできて、私のデスク反対側に座ってる坂田さんと南さんにまで、色気ムンムン爆弾が飛び火する始末...。
南さんは、あらあらあらあらと面白がりながら顔をほてらせてるし、坂田さんは私と課長を交互にキョロキョロ見比べて、えっ?という顔で固まるし…。
そこは、元パリピの本領を発揮して空気を換えてくださいよ!!と、思わず心の中で唸ってしまった。
午後になったら、課長と坂田さんがサクマの本社に打ち合わせに向かったから、なんとか仕事が出来たけど。
ああ゛ー!!お盆明け、どんな返事をしたらいいのぉぉ!!
考えることは山積みだけど、体も限界だったので、お風呂に入ったら今日は寝ることにした。
休暇1日目
朝は惰眠をむさぼっていた。
今までの疲れがでて、もうすぐ昼になるような時間になってようやく起きた。
慌てて、洗濯機を回す。
その間に、朝ごはん兼昼ご飯を食べる。
冷蔵庫の中身は空っぽなので、乾物を使った料理をちゃっちゃっと作って食べる。
高野豆腐とひじきと大豆の水煮を煮つけて、炊きあがったご飯と共に食す。
栄養もしっかりとれるし、和食は疲れた胃にちょうどいい。満足、満足。
食べ終わったら、ピーっと洗濯機が鳴ったので、中身を取り出し、新たな汚れ物を入れてスイッチオン。
洗濯機を回す、干す、回す、干すを2回繰り返してようやく全部の衣類を外に干し終わった。
独り暮らしの物干し場なんて狭く、大量に干せないものだが、私の家はご自慢の庭があるので問題なし。シーツだって干せちゃう。生け垣にロープを張れば、4日分の洗濯物もきれいに干せるのだ。
時刻は、既に1時だが、夏の日差しは強いので二時間もあれば乾くだろう。
達成感に、むふふと笑みがこぼれる。ひらひらと風にたなびく洗濯物は、見ていて気持ちがいい。
そして、やっぱり干し終わったときは「よしっ!!できた!!」と達成の喜びを誰に聞かせるわけでもないのに声に出して言ってしまった。
お馴染みの独り言だ。
しかし、独り言を言ったことで、一昨日の夜の課長のことを思い出してしまった。
夢かとおもってたけど、あれは課長が寝てる私にしゃべってたんだよね…。
額にキスをされたのも、勘違いじゃないよね。
課長いま何してるかな?まだ、寝てるかな?
私と一緒で、洗濯物いっぱい干してるかな?
あ、でも。課長なら高性能の洗濯乾燥機持ってそう。私みたいに人力で干すことないんだろうな。
きっと、タワマンとかに住んでて、バルコニーには洗濯なんて干さないに違いない。
などと、課長の私生活を勝手に想像する。
いままで一人でいるときに、課長の事を考えたことなんてなかったから、なんだかおかしな気分である。
かぁっと、自然に体温があがるので、パタパタ手で顔を仰ぐ。
一人でもだもだしているのも、いたたまれない。
無駄に体を動かして、なんとか気をそらせようと試みる。
黙っていると、課長の事を考えちゃって、恥ずかしすぎて動けなくなる。
だから、「よし。今度は買い物に出かけよう!」と、意気込み家をでた。
外は、暑くてじりじりする。日光の光が強すぎて、痛いくらいだ。
今日は、家に何もないから大量に買う予定。だから、両手が空くように日傘じゃなくてツバが広い麦わら帽子をかぶった。
ダサいって?大丈夫なんだなぁ、この格好でも。
この辺は、田舎というほどではないが、栄えてもいないので、麦わら帽子でも違和感がない。
なんなら、ジャージでスーパーに行くこともできる。
もともと人目は気にしないが、今の時間だと暑すぎてほとんど歩いてる人がいないので、考えるだけ無駄。
外を歩いている人は、私くらいだ。
まずは、歩いてすぐのドラックストアーに向かう。トイレットペーパーなど日用品をいくつか買う。
冷凍食品なんかは、ここで買っていく。スーパーは遠いので、なるべくここでそろうものは買うのだ。
ふと横を見るといわゆる夜のエチケット用品の棚があった。
今までは、なんとも思わなかったのに、思わずじっと見てしまう。
こんな時にも課長の顔が思い出されて勝手にわたわたしてしまう。
もう、いいんじゃないかな。こういうこと想像できるってことは、恋人になれるんじゃないかな。
お盆明けに、了承しちゃおうかな...。
前向きに交際を考えていると、今度は赤ちゃん用品コーナーが目に入る。
粉ミルク缶が積んであるところで、ぴたりと足を止める。
そうなると、子供もいずれ??結婚して、子供を産んで…。
ん?結婚生活が、なんか想像できない。
家庭的なの?あの顔で?一緒に家事とかしてくれなさそう。休みの日も仕事してそう。
亭主関白っぽくない?うーん、それでも私は合わせられるけど、できれば家事は分担がいいな。
ドラックストアでまさか課長のことをかんがえるとは…。
はははと乾いた笑いが思わずもれる。
でも、わかったことがある。
まったく課長のプライベートを知らないから決断が出来ないことに気づいた。
今までは、学生だったからすべてが互いに素の姿しかみてなかった。そこで合う合わないがわかっているから告白された瞬間にイエスノーが答えられたんだ。
どうしよう、返事。いきなり恋人になるのは、ハードルが高いよぉぉ。恋人になって素の私を知って、課長に嫌われたらどうしよう...。
そんな感じで、休暇一日目はあちこち動き回りながら、途中途中で課長を思い出し、赤面して、勝手に心臓がバクバクして疲れてしまった。
休暇2日目
明日は、お盆入りなので、準備をすることにした。
スーパーでなすときゅうりと、お供えの花とお菓子をそろえる。
ほうずきを買って、ご先祖様の道しるべに。
このオレンジ色が可愛くて、私は好き。
子供の頃は豆電球をいれて、光らせて遊んだ。
お供えの花は、おばあちゃんが可愛いイメージだったから、なるべく色とりどりの可愛い花で揃える。
トルコ桔梗は、ピンクと、黄色のマーブル色でふわふわ可愛い印象に。
キンセンカの鮮やかな橙も加えていく。
色を引き締めるために、大きな白いユリも混ぜていく。
菊は淡い黄色と白のまん丸さん。
納得のいく花束になったので、満足した。
次は、お供えのお菓子。
日持ちがする水ようかんに、おばあちゃんが好きだったポテトチップス。あとは、柿ピー。これはおじいちゃんが好きだったんだって。
今年は、おばあちゃんが現世にくるとき、おじいちゃんを連れてくるかもしれないから、絶対必要。
あとは、おばあちゃんが好きな赤ワインでしょう。
おじいちゃんは焼酎派だったらしいから、ハイボール。おじいちゃんが生きてた時はなかった飲み物だから、びっくりしちゃうかな。
あとは、大事な迎え火セット。
オガラはたっぷり。少量の煙を長い時間空に漂わせるのが、私流。オガラがなくなりかけたら、少しずつ追加していくのだ。
煙がきっとご先祖様を連れてきてくれると思ってる。
あとは、線香花火もいくつか買う。
おばあちゃんのお家で、迎え火をたいてる間、よく花火をしていたから。
独り暮らしを始めてから、懐かしくて線香花火をするようになった。
あとは、いつもの食材を買っておしまいだ。両手に一杯荷物をもって、えっちらおっちら帰っていく。
蝉の鳴き声が、けっこう聞こえる。この辺は、まだ林が残ってるから都内とは違って夏を感じる。
夏休みの子供たちが、庭先でプールを楽しんでいる。うらやましい。
明日は、私もビニールプールをだそう。
キンキンに冷えたビールを、クーラーボックスに入れて昼間から飲んじゃおう。
考えたらすこしだけ、体の熱がましになった。
家に帰るころには、汗だくで、一度シャワーを浴びる。
お風呂から出てすっきりしたら、明日の精霊馬を作ることにした。
なすは、歩みが遅いから帰りの牛♪ゆっくり天国に帰る用。
割りばしで足を4つ刺していく。
顔の部分には、角もつけるのが私流。つまようじで角2本。
きゅうりは、スタイリッシュなお馬さん♪
速いからお迎えに行くのも最適ね。早めに現世にいらっしゃい。
きゅうりにも、足を4つ刺していく。お尻の部分に尻尾を付けるのが私流。セロハンテープで尻尾をぺったん。
完成したら明日まで冷蔵庫でおやすみなさい。
ふふふん♪と歌いながら、夏の風物詩の盆飾りをしていく。
箪笥の上に花とお供えも置いたら、完璧。
明日は、朝からお線香を焚こう。
おばあちゃんの写真に、明日は迷わずきてね、と声をかけてから就寝した。
休暇3日目。
お盆入りである。昨日は、家のことを細々してたから課長のことを思い出さずに済んだ。
でも、寝るときになってやっぱり悶々としちゃって。答えが出ないまま、付き合った時のシュミレーションしたり、逆に断った時の職場での関わり方のシュミレーションをしてみたりしちゃって...。
だから若干、寝不足。
また昼まで寝てようかと思ったけど、おばあちゃんのための精霊馬をいち早く出しとかないと、と思って頑張って起きた。
早めに天国にお馬さんを出さないと、帰ってくるのが遅くなっちゃうもんね。
起きてすぐに冷蔵庫の精霊馬を取り出して、家を向くように縁側に飾った。
野菜の置物の可愛さに、ほっこりする。
さぁ、顔を洗って、プールを出すぞ。
家のクローゼットから、ビニールプールとパラソルを取り出す。
よっこいしょと庭にひとまず置いて、今度は足踏みポンプを持ってきて膨らませていく。
夏の日差しは、パラソルで抑えられているが、それでも湿気と気温で汗がダラダラ出てうんざりする。
だが、今日から16日までお世話になるビニールプールだ。
諦めずに膨らませる。
ようやく形になって、水を貯める。
溜まり終えるまで、ビールやつまみの用意だ。
つまみを作りながら、朝ごはんも食べちゃう。
行儀が悪いけど、立ちながら、ご飯とつまみの切れ端でモグモグごっくん。
サラミと自家製オリーブ、蒸し鶏をレンジで作ってよだれ鶏ソースをあえたもの、トマトとセロリとモッツァレラチーズをイタリアンドレシングに漬けて一晩寝かしたものを、保存容器にそれぞれ入れて、ビールと酎ハイと一緒にクーラーボックスへ。
あとは、平皿とお箸をテーブルに置けば完成。
昨日のうちに読みたい小説をダウンロードしておいた防水のデジタルパッドも置いておく。
そして、念入りに日焼け止めを塗って水着に着替えたら、なんちゃってバカンス〜!!
ザッパーンと、水飛沫を上げて入水!
きっもちぃ〜!!
何も考えずに小説の世界に入っていく。
すいません、課長。今日は、課長のこと考えません。と、心の中で謝っておく。
告白されたばかりの数日は、考えるだけで悶えていたが、時間と共に冷静に考えられるようになった。
やはり考え出すと、ゾクゾクするような転がりたいような羞恥がするけども。
ちょっと中休みさせてください。疲れました...。
ゆっくりとした時間が流れ、気持ちがいい。体が冷えすぎたら、たまに家に入りシャワーを浴びて温める。
温かいものを食べて一息したら、またプールへ。
あとは、日が落ちてきたら迎え火を焚こう。
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