聖夜の奇跡

 今日はクリスマス…。クリスマスだけど僕は一人である場所に向かっていた…。ある人にある報告をする為に…。


「ここら辺は…あんまり変わっていないな」


 何十年かすると町並みが変わっていたりするもんだけど、僕が今居る場所はそんなに変わってない。寧ろ当時と同じ…そんな感じだ…。


「すいません…豊和さんですよね?」


 不意にそんな声が聞こえた。


「え〜と…」


 何て言うべきか…そんな事を考えていると…


「くすくす…?」


 僕を知ってる!?―けど…僕は目の前にいる女性の事を知らない筈…。彼女の見た目は十七歳位…。年の割に喋り方のせいか上品さを感じさせる…。


「今日は私に少しだけ…あなたの時間をもらえませんか?」


 見知らぬ筈の彼女がそう言った。今日はある場所に行く為にこの町に来たんだけど…


「え〜と…少しなら…」


「ありがとうございます」


 何故か彼女の誘いを断れなかった…。それに…何かが心に訴えてくるんだよね…。何だろう…?


「―では…時間もない事ですし…早速…う、腕を組ませていただきますね?」


「えっ!?」


 彼女は少し照れたような仕草を見せながらも強引に僕の腕をとり、そのまま歩き出した。引っ張られる様に僕は彼女に付き従う事に…


「四十過ぎの僕と腕をそんなに組んでいると勘違いされちゃうよ?」


 男性の数も増えた事だしね…


「いいんです…勘違いされても…と、いうよりも…私達の関係は…もっと深いですよ?」


「…深い?」


 彼女とそんな関係になった憶えは全くないのだがっ!?


「あの頃より豊和さんは…大人っぽくなりましたね?」


「いつの事を言って…」


 そんな僕の疑問の言葉を遮り彼女がはしゃぎだし…


「あっ!見てっ、見て下さい!ここでよく駄菓子を買ったんです!懐かしいぃ〜」


「ここです。昔はここに公園があって―」


「ふわぁ〜 いつの間にか住宅地になってますぅ〜」


「ここには以前…私の友達が住んでいたんです…」


「今はこんなのがあるんですね…」


 彼女が語る言葉の一つ一つが何故か気になってしまう…


 ―そんな彼女に連れられ向かった最後の場所は墓地…。今日…僕が向かおうしていた場所…。


 そして…あり得ない…。そんな思いが渦巻く…。でも…そう思ったけど…一度浮かんだその考えを否定出来ない自分がいる…。なにしろ自分自身がそういう経験をしているからだろう…。転生という経験を…


「ふぅ〜 今日は本当に楽しかったです」


「僕も…凄く楽しかったよ?」


 辺りは既に暗くなっている…


「本当ですかっ!? それなら…良かったです…男性の方と…好きな方と…こうしてデートするのは夢でしたから…」


「……」


「最後に…私から…クリスマスのプレゼントです…」


 彼女は少し戸惑いながらも…意を決した様にトットットッ―っと僕に近付いて来て…唇に唇をそっと重ねた…。そして…唇が離れ…


「……やっぱりこういう事するのって…緊張します…」


 彼女は顔を赤く染めながらも満面の笑みで僕に言った。


「…今日は…」


「?」


「あなたに会いに来たんです…ミトさん」


「っ〜〜!? そう…ですか…。あなたは…わたくしに気付いてくれるんですね、豊和さん?」


「勿論ですよ。今日は僕達の息子のトトの結婚の報告に来たんですよ?」


「ふふっ…知ってます…息子の事はいつも見守ってますので」


「神様も粋なはからいをしてくれますね?」


「ええ…本当に…」


「でも…どうして…今なんでしょうね?」


「今だからだと…思いますよ?トトも結婚…あの子の事はこれからは一生のパートナーになる彼女が見てくれるでしょうから…。だから…後の心残りは…あの時既に老いていたわたくしに愛を注いでくれたあなたと…こうして…普通のデートを楽しみたかった事だけですから…」


「ミトさん…」


「もっと欲を言わさしてもらえればこの姿で…あなたに抱かれたかったのですが…」


 ミトさんの体が透けていく…。慌てて駆け寄り…ミトさんを抱き締める…


「どうやら…お時間のようですわね…」


「また…会えるよね?」


「神様次第でしょうか…ふふっ…」


「神様に願っておきます…」


「わたくしもです…最後に…」


「「聖なる夜に願いを込めて…メリークリスマス…」」


 そして…彼女の…ミトさんの姿は闇に溶け合うかの様に消えて…夜空の星がいつもよりも輝いて見えたんだ…。


 

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転生?したら男女逆転世界 美鈴 @toyokun

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