第19話side柚希
もうそろそろかな…。お腹を擦りながらそう思っていた。本当に生命って不思議だよね…。お腹はパンパンに膨らみお腹の中をたまにグリグリ動いてその存在を感じる事が出来るのだから…。
「もう…出てきたいのかな?」
「足かな?ポコポコ蹴ってるね」
豊和君とこの間もそんな事を話しながらのんびりしていた。豊和君はそっと耳をお腹にあてお腹の中の子供の様子を聞いたり話しかけたりしている。男の子か女の子かは聞いてない…。生まれてからの楽しみにした。
ある日の深夜2時。少し痛みを感じる。陣痛だと思った。それは少しずつ痛みが増し段々と間隔が短くなる。常駐してくれている先生に診てもらうとやはり陣痛だった。私達は病院へと向かう事に…。豊和君がずっと付き添い手を握ってくれてるのが凄く嬉しくて勇気が湧く。私頑張るからね…。
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病院に着いた私達は小部屋へと通される。生まれる迄はまだ時間が掛かる為だ。力む段階になると分娩室に行くみたい。これもお母さんに聞いていた事。私は思ってた以上に冷静に今の所対応出来ていると思う。看護婦さんにもそう言われて褒められた。
「うぅっ…」
痛みはどんどん酷くなるけど…。すぐ傍で豊和君は私の額の汗を拭ってくれたり、気遣ってくれるのが本当に頼もしい。人工授精の女性は一人で生むのに対して、私には豊和君が居る。私は本当に恵まれていると心からそう思う。
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分娩室へと入った私はラマーズ法で呼吸。この呼吸法には痛みの緩和も含まれるらしいがかなり痛い。う~…豊和君…私、頑張るからね…。ちなみに豊和君には外で待ってもらう事にした。こういう姿を見せたくないしね。
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豊和君には外で待ってて貰って本当に良かったと思う。痛みは凄いし他に気を回す余裕なんか本当にない。イライラみたいな感じで豊和君に当たっていたかも知れない。
「ふっ…ふっ…はぁっ…ううっ…」
「頭が見えましたよ、天使さん」
「ひっ…ひっ…ふぅーー…うぐっぅぅ」
「もう少し力んで!」
「うぁぁあぁぁー!!!」
「もっと力んで!」
無我夢中だった…。渾身の力を込めて力む。最後の方なんてひたすら叫んで力んでたと思う。そして…
「オギャアァァァァー!!!」
─声…。とても元気な産声…。
「頑張りましたね…天使さん…元気な男の子ですよ…」
「男の子…」
私達の赤ちゃん…。赤ちゃんは男の子だった…。看護婦さんから赤ちゃんを受け取り初めての授乳。生まれて大体30分以内にあげるみたい。しっかり飲んでくれてるし…本当に愛おしい。
しばらくして豊和君が私の元に。
「お疲れ様柚希」
「うん…私頑張ったよ?」
「本当に凄いし、尊敬する…。男性じゃあ耐えられないって言う位だしね…」
「…ありがとう」
「そういえば名前は2人で決めた名前でいいんだよね?」
「うん…男の子だから…
前々から決めていた。男の子なら和希と。
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