第11話 進化の林檎?

『進化の林檎を手に入れた! 誰が受け取りますか?』


 なんじゃこりゃ!?

 アイテムの説明にはこんなことが書いてある。


『モンスターの進化に必要な禁断の実。食べるとびっくりするほど甘い』


「モンスターの進化って?」


 私の言葉に、達くんが反応する。


「スマホのゲーム的には、そのモンスターが強くなるってことかな……」


「へえ、すごい!」


「で、誰が受け取るんだ?」


「んー……」


 凛ちゃんの言葉に少し考えてから、達くんが言った。


「僕はジョブズがいいと思う」


 ふーん、ジョブズに渡すんだあ……って、私!?


「どうして!? 私は何にもしてないよ!? これは2人のものだよ!?」



「ドラゴンが強いからね。今回はいないほうがよかったかな、と思うけど、ああいう面倒な敵でない場合、ドラゴンのわかりやすい強さは効果があると思うんだ」


「むむむ……」


 正論オブ正論。完璧なまでの正論だった。だけど、もらいにくいなあ……。


「凛ちゃんはどう思うの?」


「うん? 達がそう言うのならいいんじゃない? 誰が、というよりは、うちらで強くなったほうがいいと思うからさ」


 うーん……なんか嬉しいことを言ってくれるけど、役に立っていない私がもらうのもなあ……。


「ジョブズ、逆に考えてよ。ドラゴンが大活躍して進化の林檎を手に入れた場合、僕たちには渡さないの?」


「そんなことないよ!? 渡すよ!?」



「だったら、同じだよ。それと同じ気持ちなんだ。2個目、3個目が手に入ったら、そのときは僕たちがもらう。気にしないで」


「うーん……そっか。わかった!」


 次に活躍すればいい! それが恩返しなんだ!

 私は覚悟を決めて受け取ることにした。


「じゃあ、ドラゴンくんを進化させてみようかな……」


「お、見せろよ見せろ」


 凛ちゃんと達くんが私のスマホに顔を寄せてくる。それはもう興味あるよねー。

 一方、私のかわいいドラゴンくんは、こんな激闘があったことなど興味がないようで、ぐーぐーと眠りについていた。


「寝てるけど、食べるのかな?」


「アイテムは関係なく使えるっぽいからやってみたら?」


 達くんに言われて、進化の林檎をドラゴンくんに押し付ける。

 どうだ……!?

 ブッブー!

 そんな物悲しい音がして、

『レベル6の黒暴竜にはまだ使えません』


 と言う悲しいメッセージが表示された。


「あうううう……使えない……」


「メッセージ的には、進化にレベルが必要なのかもね」


「そっか……まだたったレベル6だもんね……」


 頑張ってレベルを上げようか、ドラゴンくん。元気になったらスパルタだぞ! 嘘だけど。


「どうしようか、この林檎? 返す?」


「そうだな……進化できるレベルがモンスターによって違うかもしれないから、僕もタイヤも試しておこうか」


 結局、2人とも私と同じで進化はできなかった。


「……だろうな……たぶん、進化可能になったら何かで通知される気もするしね。じゃあ、ジョブズが林檎を持っておいて」


「私でいいの?」


「使って欲しいのはジョブズだから。でも、使う前に声をかけて」


「わかった!」


 そんな感じで最初の緊急クエストは無事に終わったのだった。だいぶ夕暮れの空も暗くなってきた。私たちは大急ぎで帰宅の道を歩いていく。

 その道中、ずっと達くんは浮かない顔をしていた。


「どうしたの?」


「……うん? うん……なんだかすごく気持ちが悪くて……」


「え、吐いちゃいそうとか?」


「いや、そう意味じゃなくて――腑に落ちないというか……」


 少し考えるように間を置いてから、達くんが続ける。


「ニワトリがいたのはゲームの世界だ。ここの地図を表示したのも……スマホで位置情報を手に入れれば舞台にできなくもない……だけど――」


 そして、達くんはこんなことを言った。


「犬や猫が暴れていたのは現実で、本当の話だ。あのニワトリのスキルでそうなったとしたら……ゲームの世界が現実に影響を及ぼしたってことになるんだけど……そんなはずがないし……あったとしたら……どういうことなんだ……?」


 ええええええ……。

 そんなことあるのかなあ……でも、起こっていることを順に考えるとそうなるよね……? ゲームと現実の世界が混ざってる?

 え、どういうこと?



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 それからも私たちはゲームを続けて、ついに私はレベルが10を超えた。


「やったあああああああ!」


 夜、自分の部屋でそのメッセージを確認して喜びの声をあげる。

 レベルアップは嬉しいよね!?

 それに、新しいスキルまで覚えるともっと嬉しいよね!?

 そう、私のドラゴンくんはついに3つ目のスキル『滅殺の重撃』を覚えたのだ!

 滅殺って……また相変わらずいかつい名前だなあ……。

 公開されたスキルの説明欄を読むとこうだ。


『体内に宿る破壊エネルギーを体の一点に集中させて振り下ろす凶悪な近接攻撃。その威力は厚い岩盤すらも粉々に打ち砕くほど。暴力そのものを体現する竜の怒りを受けよ。とんでもない威力だけど、準備に時間がかかる』


 ああああああ……説明文もまたおっかない……いや、まあ、心の準備はできていたけどさあ……。

 最後の一文が『破滅の爆裂砲』と一緒だ。どんだけ溜めるのが好きなの、ドラゴンくん?

 スキルも覚えたので、凛ちゃんたちに喜びの報告をしておこう。


"やったよー。レベルが上がって新しいスキルを覚えたよ!"


"凛ちゃん:お、いいなあ!"


 うっふっふっふっふ、レベル10は私が一番乗りだからね!


"達くん:キリのいい数字だね。進化の林檎はどう?"


 使ってないね、試してみよう! うん、ダメだった!


"まだ使えないよ"


"達くん:そっか、レベル10なんて全体からすればまだまだだろうから"


 そうだよねー。まだまだ先は長い……。

 それから程なくして凛ちゃんと達くんもレベルが10になった。

"達くん:新しくスキルも覚えたし、久しぶりに対戦でもしてみようか?"


"いいね!"


"凛ちゃん:やろうぜやろうぜ!"


 そんなわけで久しぶりに私の家に集まることになった。


「今日こそはりんごのドラゴンを倒してやるぞおおおお!」


「僕だってそのつもりだ。攻略法は練ってきた」


 うううう……凛ちゃんたちの気合いが入りまくっている。なんか、私のこと、ラスボスだと勘違いしていませんか?

 ならば、ラスボスらしく振る舞いましょう!


「ふっふっふっふ……かかってきなさい! 新しく覚えた『滅殺の重撃』の威力を受けてみよ!」


 まだ使ったことないから、どんな技か知らないけど!


「お、どんな説明文なんだ、見せてくれよ!」


 そう言われると微妙に恥ずかしいなあ……。そんなことを思いつつスマホの画面をみんなの見える場所に置いたときだ。


「ん……? ジョブズ、通知がついているぞ……」


 え?

 言われて見てみると、確かに通知アイコンにびっくりマークがついている。


「いや、ジョブズだけじゃない。僕にも来ているな……」


「私もだよ」


 おお? どうやら3人同時に着信?

 ええと、この流れ、前にもあったような気がするなあ……。

 通知を開けると、メッセージが届いていた。


『緊急クエスト:爆岩亀を助け出せ! を受諾しますか?』


 おお……見覚えのあるものが……。

 今度はどういう内容のものだろう。クエストの詳細を見てみることにした。


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