第10話 闇のモンスターが現れた!(現実)
もう夕方のいい時間。そろそろ家に帰らないと……。
今日のクエスト攻略はここまで限界だろう。
夕暮れ時の神社にやってきた。どこにでもある、それほど大きな佇まいでもない、ありふれた神社だ。私たちはモンスターレンズをあちこちに向けながら歩いていく。
ここに、何かがいるのだろうか……?
予想通り、いた。
神社のちょうど真ん前に、真っ黒い何かがいる。子供のサイズくらいの、大きなニワトリだ。
画面にメッセージが表示された。
『暴暴朝鳥が現れた! こいつが犬や猫たちをおかしくしている犯人に違いない! 戦いますか?』
「もちろん、戦うよね?」
「当然だ!」
「うん、行こう」
はいのボタンを押そうとして――
ええええ!? なんかニワトリが向かってくるんですけど!?
『戦闘が始まった! もう逃げられない!』
そ、そんなああああああ!
スマホの画面が戦闘のものに切り替わった。神社を背景に立つ大きなニワトリの手前に、私たち3人のモンスターが――
って、私のドラゴン君がいない!? 凛ちゃんと達くんのだけ!?
「あ、あれ、あれあれ!?」
スマホには無常にもこんなメッセージが表示されていた。
『黒暴竜は体調不良ステータスの回復から24時間が経過していないので参加できません。お大事に』
な、な、な、なんだってえええええええええええ!?
いやいやいや!? 元気だったよ!? 今朝、むっちゃ元気だったよ!?
そんなふうに私は思うのだけど、アプリの表示は何も変わらなかった。そんな制限があるんだったら、前に教えておいてよおおおおお……。
「ううううう……ごめん……病み上がりだと、ドラゴンくんは出れないみたい……」
「おお、マジか!?」
「まいったな、うちの最大戦力が」
ご、ごめんなさいいいいいいい……。私もやりたかったよおお……なんかすごく楽しそうだし。
「でも、仕方がないよ。必ず勝つからジョブズは応援して!」
「うん!」
戦闘が始まった。
どうやら、最初に動いたのはニワトリだった。
『暴暴朝鳥:凶化の鳴き声を発動した! 精神をざわめかせる音が響き渡る!』
ピギャアアアアア! という声と同時、歪んだ音波が凛ちゃんたちのモンスターを襲う。
『氷跳兎は混乱した! 敵と味方の区別がつかない!』
『眠眠夜鳥は混乱した! 敵と味方の区別がつかない!』
ななな、なんと!? ウサギさんとフクロウくんが同時にステータス異常になった! なんか頭の上に黒いモヤみたいなのが出て、フラフラしている。
「なんだよ、これ!?」
「……なるほど、この技が犬たちを凶暴にさせていたのか……」
『氷跳兎:通常攻撃で暴暴朝鳥に襲いかかった!』
ごすっ! とウサギのパンチがニワトリに命中する。
「ううん……殴るんだ。私はフィギュアスケートを使ったつもりだったんだけど……」
「たぶん、混乱しているから、命令もキャンセルされたんじゃないか?」
「そういうこと……まあ、ニワトリを殴ったからいいけどさ」
『眠眠夜鳥:通常攻撃で氷跳兎に襲いかかった!』
「あ、どうして私に殴ってくるんだよ、達!?」
「……うーん、厄介な相手だな……」
フクロウのタックルを受けて、ウサギがよろける。きっちりダメージも入っている! うわああ……うん?
『氷跳兎:混乱から回復した!』
おお、どうやらダメージを受けると回復するらしい。頭の上のモヤが消えて、ウサギが正気を確認するかのように頭を振っている。
2ターン目が始まると、達くんが口を開いた。
「タイヤ、僕のフクロウを殴ってくれ」
「え、どうして!?」
「混乱から回復したいんだ」
「わかった!」
しかし、2人の行動の前にニワトリが動く。
『暴暴朝鳥:朝霧を発動した! 暴暴朝鳥の体が霧に包まれて見えにくくなった!』
ニワトリがバタバタと羽を羽ばたかせると、霧が立ち込めてニワトリの姿が少し見えにくくなった。
その後、凛ちゃんのウサギがフクロウを殴って混乱から回復させる。
「仕切り直しかあ……げげ!?」
凛ちゃんが驚くのも無理はない。
ターンエンドの瞬間、
『暴暴朝鳥:朝霧の癒しによって、HPが回復する!』
それほどではないけれど、減っていたHPゲージが少しだけ回復した。
達くんが顔をしかめる。
「この霧、命中率ダウンもありそうなんだよね……で、HPまで回復する。これで粘りながら、混乱をばら撒いてこっちを削ってくる感じか」
「めんどくせえ!」
「……うう、ごめん! 私のドラゴンくんがいれば――!」
「いや、ジョブズ、むしろ、いないほうがよかったよ」
「ええ!? ななな、なんで!?」
「だって、ドラゴンが混乱して暴れたら、僕たちは一瞬で終わっちゃうからね」
あ、そうか……。
これが怪我の功名ってやつ……? うーん、でも複雑な気分だ……。
3ターン目。
『暴暴朝鳥:凶化の鳴き声を発動した! 精神をざわめかせる音が響き渡る!』
今度は凛ちゃんのウサギだけが混乱する。
混乱したウサギの攻撃で達くんのフクロウがダメージを受ける。
『眠眠夜鳥:眠りの風を発動した! 眠りの風が暴暴朝鳥を襲う!』
その一撃で、暴暴朝鳥は眠ってしまった。
風が吹いたんだから霧くらい晴れてよ! と思ったけど、そう都合よくはいかないみたい!
「ふぅ……でも、タイヤの混乱アタックがニワトリに行くと目を覚ますのが困ったな」
4ターン目、達くんの心配は外れた。
凛ちゃんのウサギは達くんのフクロウを攻撃したからだ。
「ううう、すまん! 達!」
「お互い様だよ。でも、殴られて嬉しいよ」
は達くんのフクロウが凛ちゃんのうさぎをお返しとばかりに殴る。凛ちゃんのウサギの混乱が解けた。
「やれやれ……状況は――」
達くんのフクロウ:HPが3割減っている
凛ちゃんのウサギ:HPが満タン
暴暴朝鳥:HPが95%くらい残っている。睡眠状態。
「悪くないな、あっちは睡眠だから。殴らないようにして……状況を整えよう」
5ターン目、6ターン目。
達くんが防御で何もしない間、凛ちゃんがフィギュアスケート、忍び足のスキルを連続発動してうさぎを強化する。
5ターン目に朝霧が勝手に晴れて、6ターン目にフクロウが勝手に目を覚ます。
「ふぅん……朝霧はターンが経つと消えるのか……2ターン目で使っていたから、効果は3ターン……?」
そんなことを達くんがつぶやいている。
7ターン目が始まる。
「へへへーん! クリティカル率アップだ! 殴ってやるから覚悟しやがれ!」
興奮する凛ちゃんに達くんが声をかける。
「タイヤ、作戦を決めた」
「お、なんだ!?」
「とりあえず、防御して欲しい」
「ななな、なんでだよおおおおおおお! あいつを殴ってスカッとしたいんだ!」
「いいから、頼むよ」
「わかったよお……」
うん、達くんが言うならそれでいい。私と凛ちゃんもそれなりにゲームをするけど、腕もそれなりだ。でも、達くんはすごく上手で、よく『ここをクリアしたければこうすればいいよ』と教えてくれる。だから、こういうときは素直に従えばいい。
『暴暴朝鳥:凶化の鳴き声を発動した! 精神をざわめかせる音が響き渡る!』
防御のおかげだろうか、ウサギがひらりとかわす。ついでに、フクロウも回避した。
やった! 混乱をしのいだ!
『眠眠夜鳥:眠りの風を発動した! 眠りの風が暴暴朝鳥を襲う!』
こっちは直撃して暴暴朝鳥が眠りにつく。
「よし、タイヤ、今度は殴っていいよ!」
「あいよ!」
8ターン目。
『氷跳兎:通常攻撃で襲いかかった!』
『眠眠夜鳥:風の矢を発動した! 風の衝撃波が暴暴朝鳥を襲う!』
ごすっ! ごすっ!
と強烈な一撃が連続して入り、暴暴朝鳥の体力を6割近くまで減らす。
「やった! やったよ!?」
「よっしゃあああ!」
私と凛ちゃんの声が境内に響く。
『暴暴朝鳥:眠りから目を覚ました!』
9ターン目が始まる。
「タイヤ、防御で」
「達は防御しないのか?」
「眠りの風を打つよ。眠りが通ると、かなり有利だからね。それと、タイヤに防御させている理由は僕のフクロウより行動順が早いからだよ」
「ふん?」
「タイヤが混乱していなくて、僕が混乱した場合――先に動くタイヤが僕の混乱を解除できる。だけど、逆にタイヤが混乱して、僕が混乱していない場合は?」
「……私が先に混乱アタックして、達が私の混乱を治す……になる……ああ、そういうことか!」
余計な混乱アタックが多い!
「うん、そういうこと。つまり、タイヤが混乱を回避できたほうが得なんだよ」
へええええええ! すごおおおおおおおおい!
こんな短時間でそこまで考えているなんて。達くんは頭がいいなあ……。
そこからは淡々とゲームが進んだ。
フィギュアスケートで回避力が増している凛ちゃんのウサギは防御でさくさくと鳴き声による混乱を回避していく。達くんのフクロウは混乱したり、眠りの風が当たったり、外れたりだけど、結果に合わせて凛ちゃんのウサギが上手くフォローして動いている。
『氷跳兎:通常攻撃で襲いかかった! クリティカル!』
『眠眠夜鳥:風の矢を発動した! 風の衝撃波が暴暴朝鳥を襲う!』
ニワトリのHPがだんだん減っていく!
いける、いけるよ!
「終わりだ、こんにゃろおおおお!」
凛ちゃんのウサギが暴暴朝鳥に飛び蹴りをうつ。
『氷跳兎:通常攻撃で襲いかかった! クリティカル!』
凛ちゃんの怒りの飛び蹴りがクリティカル! 大きなダメージを受けて、ついにニワトリのHPゲージがゼロになった。
『暴暴朝鳥を倒した!』
暴暴朝鳥の姿が消えて……あれ、なんか石っぽいのがあるけど……?
『進化の林檎を手に入れた! 誰が受け取りますか?』
なんじゃこりゃ!?
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