第12話 下見
『依頼者:正義感に燃える警察官
悪いやつにモンスター爆岩亀が攫われてしまった。爆発する亀で、その威力はとんでもない! 悪いやつは爆岩亀をテロリストに渡そうとしている! 大きな被害を出さないためにも食い止めて欲しい! 本当は警察が動きたいんだが、今の時点だとまだ動けない。君たちが頼みだ!』
凛ちゃんがボソリとつぶやく。
「なんだか、深刻な内容だなあ……」
確かに。前のときは犬がの様子がおかしいから調べて欲しい、だったけど、今回はテロリストとかいうすごい言葉が。映画の世界みたい。おまけに、なんか大きな被害が、とか書いてある。
「……まあ、ゲームの話なんだから、こういうのは受けるしか――」
凛ちゃんが親指を動かして『受諾』ボタンを押そうとすると、
「待つんだ、タイヤ」
達くんが止めた。
「気になる部分があるんだ。画面の下を見てみなよ」
ん? なんか、前のときにはなかったメッセージが追加されている。
「『今回はモンスターモードでのクエスト遂行だぞ!』……モンスターモード? なにこれ?」
「このゲーム、ヘルプがないからわかんないんだよな……」
なんて不親切設計!
「それと、場所も気になるんだ」
今回も前と同じで詳細に地図がついてきている。その地図を開くと、これまた見覚えのある地形が広がる。そして、今回はピンだけが突き刺さっていた。
そこは『ローレライス・ビルディング』という建物だった。
ローレライス? なんか聞き覚えがあるような……。
「ローレライスは海外から家具を輸入販売している会社だね」
あ、そうだ! おしゃれな家具が多いらしくて、お母さんが欲しいなあ、って言っていた! でも値段もすごいから、お父さんが渋い顔をしていたけど。
ローレライス・ビルディングを指でタップすると、画面は建物の構造図に切り替わった。赤い輝きのある25階の部分をタップすると、さらに25階の構造図に切り替わり、区切られた部屋の一角に赤い輝きが移動していた。
「この赤い輝きが目標だとして――本当かどうかわからないけど、これって建物内の地図だよね? どうして、こんなものまで出てくる?」
ううん、すごく変だ……。なんか、それってゲームでできることなの、みたいな。
「……それに、このビルは本当にある。そこの25階に向かう……これって勝手に入るってことだろ?」
犯罪だ!
「犯罪じゃねえか!?」
「さすがにね……ゲームでやっていいレベルを超えていると思うんだ」
「うーん……だったら、拒否する?」
「そのほうが僕はいいと思うけど」
「……まあ、待てよ。そんなに遠い場所でもないし、今からそのなんちゃらビルディングまで下見に行ってみるってのはどうだ?」
悪くないアイディアに思えた。
だって、なんだかモヤモヤしているからね。色々なこと……そう、達くんが話していたこととか、ゲームのクエストを拒否することの後ろめたさとか……。
なんだか、実際にどんな感じかをみてみることは大切なことのように思えた。
私たちは対戦祭りをする予定を変更して、家を出た。
ローレライス・ビルディングは繁華街のほうにある。てくてく歩いていくと、人通りが増えて、大きな建物が増えていく。
「あれだ」
ただのビルというよりは、玄関前から大きなスペースをとっていて、大理石なのかな? なんか綺麗な石で舗装してある。ライオンの彫像もあるよ!
大きな出入り口を、スーツ姿の男性や仕事のできそうなビシッとしたお姉さんが行き来していた。
「学生が入っていいのかな?」
むっちゃ学生服なので言い訳の余地もない。ていうか、中学一年生なので、私服でも大人じゃないね。
場違い!
「大丈夫だって! ダメだったら摘み出されるだけだから!」
それって大丈夫じゃなくない!? そんなことを言いながら、凛ちゃんが気にしない足取りでビルへと入っていく。
「うわあ……」
ビルの1階も、なんだかすごくて圧倒されちゃう。エントランスホールはとても大きな空間で、端っこにピアノとか置いてあるけど余裕なくらい。吹き抜けで、3階くらいまではすぽーんと天井が抜けている。
床とか壁とかピカピカで、うわあ、お金がかかっているんだなあ……という感じ。
壁にかけられた豪華な感じの案内板にはビルを使っている会社の名前が書いてあって、株式会社ローレライスは24階と25階に書かれていた。
「少し歩いてみよう」
スマホを眺めながら、達くんがずんずん歩いていく。子供3人というのはさすがに浮くようで、視線を投げかけてくる大人もいたけど、声はかけてこられなかった。
……親に呼ばれてやってくる子供とかもいるかもしれないからね……。
1階をぐるりと見て回った後、私たちはビルの外に出た。
少し離れてから、達くんが口を開く。
「……全部、一緒だな……」
私はスマホを手に取った。
依頼の説明にあった地図を開き、ローレライス・ビルディングに立てられたピンをタップする。全25階の構造図が出てきたので、今度は1階をタップ――
そこで出てきた1階の地図は、さっき私たちが歩いてきた1階の構造と全く一緒だった。
「……うん……」
こんなことってあるの?
なんだか、現実とゲームがクロスしすぎていて――
「怖いな……」
凛ちゃんがぼそりとつぶやいた。
ゲームなんだろうけど、もうゲームじゃないよ。本当にあるビルに忍び込むの? そんなことしていいの? とてもじゃないけど、私たちのできることを超えているよ……。
私たち3人は無言のまま視線を交わし合う。
そこにある意志を、達くんが口にした。
「やめよう」
私も凛ちゃんも頷く。これはダメだ、やっちゃいけない。
私たちはアプリを開いて、3人同時に緊急クエストを『拒否』した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
……うん?
私はいつか見たことのある、真っ白な世界にぷかぷかと浮いていた。
ええと、確か……ビルの下見が終わって凛ちゃんと別れて――それからは普通の生活をしたんだよね……あ、ドラゴンくんのお世話をしてなかった……いや、ちょっと、その……怖さがあって……。
で、寝て。
あ、そうか、思い出した。
ここは『最強のモンスターを育てよう!』をもらった場所だ。てことは――
「おーい、りんご!」
振り返ると、部屋着姿の凛ちゃんと達くんが浮かんでいた。
「凛ちゃん! 達くん!」
「ここって、あれだよな? アプリをもらったところだよな?」
「うん、そう」
「てことは、じゃあ、神様が出てくるのか?」
「じゃないかなー……」
だって、ここ、神様空間なわけだし。
――はい、私がお呼びしました。
そんな聞き覚えのある声がして、ぴかーっと光が溢れる。消えた後に現れたのは、いつぞやの神様だった。
「お久しぶりですね」
私は元気に挨拶を返す。
「お久しぶりです!」
「どうですか、私が送ったゲームは楽しんでいただけましたか?」
「ええ、そうですね……すごく楽しいんですけど……でも、その……なんかちょっと怖くってきて……」
「怖い、と言いますと……?」
「ええと……その、なんだかゲームだけど、ゲームを超えてきているというか」
「……今日、お断りされた緊急クエストのことですね?」
「は、はい、そうです!」
「実はそれについてお話があります」
お話――!?
私たちは思わず身を固くする。神様から、直々のお話。それはどんなものだろう。ごくりと唾を飲み込んでしまう。
今までの能面顔ではなく、本当に困った! という顔で両手を口元に当てて神様が言った。
「お願い! あのクエストを受けて、困っちゃうの!」
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