第19話「犯人を探した件」
次の日、俺とヘスタは街の方へ向かうことにした。
時すでに遅しだろうが、ヘスタはともかく、俺は龍玉よりも犯人の特定が重要だった。
昨日の今日であれば何か情報が掴めるだろう。
城を出ようというところで、声をかけられた。
「コーヤ」
「ウィネット……さん?」
メイドさんの姿がそこにはあった。
「ウィネットで良いって言ったでしょ? これから街の方へ行くのよね? 私も付き合うよ」
「そうだけど……良いのか?」
今回は個人的な用事だから、二人だけで行こうと思っていた。
もちろん、ウィネットに案内してもらえるならありがたい。
「当たり前でしょ? 私は、コーヤのメイドでもあるんだから」
「そ、そうなのか……」
ニーナ専属メイドじゃなかったのか?
まあ、細かいことは置いておこう。
「ただならぬ関係、なの?」
「変なこと言うな」
「……別に否定しなくてもいいのに」
ヘスタが良からぬ想像をしていそうなのでデコピンしておいた。
昼ドラみたいな様相を呈してきたが、ただの友達なんだよなあ。
後ろから刺される展開みたいなのはゴメンだ。
そんな珍しい三人で、俺たちは街の中心へ向かった。
◆ ◆ ◆
街のバザールへ出た。商人と買い物客で賑わう通りだ。
「龍玉がすでに取引されていると考えて行動したほうがいいでしょうね。宝石商を中心に聴き込んでいけば情報が得られるかと」
ウィネットのアドバイス通りに金を持ってそうな商人に当たっていくことにした。
一方で、昨日ローレリアから聞いた話も加味すると、表向きにやっている商売人よりも裏でひっそりしている連中も視野に入れたほうが良さそうだ。
「ヘスタ、お前一人で……ってあれ?」
気がついたらヘスタはいなくなってた。
「さっき一人で人混みの中を突っ切っていったね」
「まあいいか……俺たちはちょっと裏の方へ行こうか」
すると、ウィネットはぽかんとした様子で、
「う、裏って……そんな、人気のないところで何を……?」
「ウィネットまで変なこと言うな! 犯人の取引相手が表の人間だけじゃないってことだよ」
本当にただならぬ関係になっちゃうだろ……
こっちは龍玉もなくなって、城にまで居づらくなったらどうするんだ。
「表だけじゃない? まあ確かに闇市に出てる可能性はあると思うけど……むしろコーヤはそっちが本命だと思ってる?」
「そうだな。普通に金を稼ぐためにしては、わざわざ王城に忍び込んで俺たちの部屋までのこのこやってくるとは思えない」
「それはそうかも……コーヤって頭良いんだね」
「これくらいは普通じゃないのか?」
「私、頭の良い人って、ちょっと好みかも」
「っ、冗談言ってないで、行くぞ」
露骨にニヤけそうになったので、踵を返した。
ほんと、この人はすぐからかってくるから困る……
「冗談じゃないのに……」
背後でウィネットが何か呟いたが、よく聞こえなかった。
◆ ◆ ◆
俺たちは路地裏に入り怪しげな商売をしている人はいないか探し回ったが、冷静に考えるとそんな商人を探すのは難しかった。
前世で闇市なんて聞かなかったしな。
「そういうのはだいたい会員制だったりするしね。合言葉を言ったり」
「だよなあ」
普通に探すのは難しいとわかった。
「とりあえず……」
人気の少ない路地裏でモニターを出してみる。そこには無数のターゲットが並んでいる。やはり店が密集している分、物の数も多いか。
「これは……? コーヤの能力?」
「うん、昨日パワーアップしたみたいなんだ」
「スキルレベルが上がったんだ……その前から強かったのに、また強くなったんだ」
「強くなったっていうか、便利になったって感じだな」
キーボードを叩いて龍玉を検索する。
「あ! あった!」
一件、ヒットしている。そこには龍玉の文字がある。
「ほんとだ、場所は?」
「あ……これって場所特定できたっけかな」
検索できて、ステータスも書き換えられるけど場所まではわからなかったのでは?
「……これって、物を探すには不向きだな」
「範囲を狭めたりできないの? そうすれば、ここからどれくらいの位置にあるかはわかりそう」
確かに、ダウジング的な感じで探すことならできそうだ。
そのアイデアがすぐ出てくるあたり、ウィネットのITリテラシーは高そうだな。表計算とかバリバリできそう。
「範囲は絞れたはず……ここから半径300mってところか?」
「そこそこ広いけど、とにかくこの近辺にあることはわかったね。地道に探していこう」
ウィネットとうなずき合って、探索に戻った。
はてさて、一体誰が持ち去ったんですかね。
◆ ◆ ◆
ひたすら歩いて龍玉の範囲を絞り込んでいく。
範囲検索で見つからなくなればその反対方向にあることはわかるので、それで徐々に範囲を絞る。
幸いにも、龍玉が移動しているということはなさそうだった。つまり、今龍玉はどこかに保管されているということだ。
正確な位置がわからない以上、誰かに持ち出されると消息が掴めなくなる。
俺たちは気持ち早足で絞り込みを行った。
「ん? ヘスタじゃないか」
「あ、コーヤなの」
バザールへ飛び込んでいったはずのヘスタとばったり出会った。俺たちを探していたのだろうか?
「龍玉の匂いを辿っていたらここにたどり着いたの」
「そ、そうか……」
犬みたいなことを言っているが、それもスキルの一つなのだろうか。
どっちにしろ、俺たちの苦労を亡き者にしてくれたな。
こっちのダウジングの結果的にもこのあたりで間違いはないはずだ。
おそらく近くの建物の中だろう。
「この家が怪しいと見たの」
「信じてみる?」
まあ、ものは試しだな。
窓もない無骨な建物、その扉を叩く。
「は、入れ!」
特に不審がられることもなく、俺たちは建物に入る。
中に入ると、どうやらこじんまりとした雑貨屋ということがわかった。
雑貨といってもインテリアや小物というわけではなく、身につけると何かしら能力が上がりそうなアクセサリーなどを扱っている。
確かに、こういう店にあると言われるとうなずける。
「お、お前ら、何をしに来た。冷やかしなら帰りな」
店主は無精髭の目立つ大柄な男だった。俺たちが入るなり、随分なご挨拶だ。
「思ったより怪しいなの……」
「ヘスタの勘はあたったみたいだな」
こんなに露骨だとは思わなかったけど。
「この店は盗品を扱ってますか?」
「盗品……扱っているが? というか、この店の売り物はほとんどが盗品だ」
「昨日か今日、この店に物を売りに来た男がいませんでした? 金髪で、多分ローブを着ていたと思うんですが」
「え……?」
隣にいたウィネットが困惑した様子でこちらを見ている。
「し、知らない。俺は……何も知らない!」
「じゃあ、別の質問をしましょう。店長さんは龍玉について何か知ってます?」
「だから、龍玉を売りに来た男なんて、俺は知らない!」
「俺は龍玉について聞いただけで、誰が売りに来たなんて聞いてないんですけど?」
「そ、それは……」
「龍玉について何か知ってますよ? そのことについて、男に聞かれたんじゃないですか?」
「お、俺は!」
男の視線が斜め下を見た。そこに何かあるのか?
「危ない!」
次の瞬間、パチっという音と共に眼の前が白く光った。
ドゴおおおおおお
「……なんだ?」
一瞬気を失っていた。
気がつくと瓦礫の中に倒れていた。
身体が重く、煙か何かで眼の前がはっきりしない。
何が起こったか理解しようとする前に、俺に覆いかぶさるように誰かが倒れている。
「ウィネット!」
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