第18話「進化した件2」

 スクリーンが見えるようになったと同時に、凸凹の板……つまり、キーボードのようなものも見えるようになった。

 スクリーンにはこの場所にある物の情報が一覧で表示されている。


「これ、ソートもできるのか……」


 画面に書いてある情報やキーボードっぽいものの操作はよくわからないながらも、感覚で何とかなりそうだ。

 これがスキルの力か。


「えっと……状態が『配架待ち』の本だけ表示して……この画面で状態も変えられるのか?」


 できるらしい。一括で『貸出可』にすると、本が一斉に浮かび上がり本棚に突っ込んでいく。


「わわわ! ぶつかったら死んじゃうよ!」


 言いながら向かってくる本を必死でよけるローレリア。だが、顔はちょっと嬉しそうだった。

 本の虫は本棚に潰されて死ぬのが本望とはよく言うが、彼女は本当に笑って死にそうだ。


 かくして、大量の本をハッキングすることで俺のスキルは進化したのだった。


「いやあ本当に助かったよ。コーヤがいなかったら僕は100年後も片付かない本と格闘してたかもしれないよ」


 パソコンみたいな画面が出るようになると一瞬で作業は終わった。

 すっかりきれいになった図書館を眺めてローレリアは恍惚としている。


「お礼にもならないと思うけど、この図書館はコーヤがいつでも自由に使っていいよ」

「良いよお礼なんて」

「あ、それともコーヤは図書館じゃなくて僕の身も心も自由に使いたい感じ、なのかな……でも、他ならぬコーヤのためなら僕は人肌脱ぐけれど?」

「脱がんでいいよ」


 すでに身も心も捧げてきたやつがいるからな。

 これ以上捧げ物が増えても困る。


「いい仕事したところで、俺は龍玉探しに戻ろうかな」

「そういえば、大事なことを言うのを忘れてたけど……どの口で言ってるんだって話だけど、龍玉はなるべく早く見つけた方がいいよ」

「言われなくても、そうするつもりだけど。それは見つけた人がすぐ売ってしまうから、みたいな話じゃなくて?」

「話が早いね。何かの本で読んだことがあるんだけど、龍玉はほとんどの人が価値の高い宝玉だと思っている。それはそれで事実なんだけど、実はあれには魔力が封じられているんだよ」


 俺はドラゴン・ボアのことを思い出した。

 あれの中から龍玉が出てきたってことは、何らかの魔力が閉じ込められていても不思議じゃない。


「そもそも、君が討伐したドラゴン・ボアも普通のボアが龍玉を飲み込んであんな姿になってしまったんだ」

「あれって突然変異とかそういうのじゃないってこと?」

「違う違う。ドラゴンの力はドラゴン族だけのものだからね。でも、それをドラゴン以外の生物が扱えるようにするものが龍玉なんだよ」

「……つまり、龍玉を人間が飲み込んだりしたら」

「ドラゴン・ヒューマンってところかな。さすがにそういう例はないし、飲み込んだ結果どうなるかわかったものじゃないからやろうと思う人なんていないと思うけど。念のため、放置するのはよくないってことだけ伝えておくよ」


 これはいよいよ急がないといけないかもな。


「僕も何か情報があればすぐに教えるよ」

「ありがとう、助かるよ」


 俺とアドレーヌは図書館を後にした。

 さて、ヘスタの首尾はどうだろうか……


◆ ◆ ◆


「収穫なしなの」

「ふむ」


 あちこち探し回ったらしいが、龍玉は見つからなかったらしい。

 俺も自分のスキルで周りを探索してみたが、龍玉は見つからなかった。

 どうやらこの城にはもうないらしい。


 城の廊下で落ち合い、二人してため息をつく。

 こうなったら城の外に範囲を広げた方がいいかもしれないな。


 そんなことを考えていると、アドレーヌがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。隣には衛兵が一人付いている。


「コーヤ様、それからヘスタ様も、昨日城で怪しい人物を見たという衛兵がおりました」

「なんだって!」


 まさか目撃情報があったとは。

 どうやら、その衛兵が彼女の隣に立つ人か。


「ルーパートと言います。あなたが、ドラゴン・ボアを討伐した……」


 というお決まりの挨拶から始まった。

 ルーパートは長身の白髪で、前世の俺と同じくらいの年齢らしかった。


「それで! 怪しいやつってどんなやつだったの?」


 ヘスタが急かす。


「見たと言っても、はっきりと見たわけではなく、人影を見たというレベルなのですが……昨日の夜、皆が寝静まった頃にちょうどコーヤ様たちの部屋の前の廊下で誰かが歩いているのが見えました。体格からして男性らしかったのですが、ローブに身を包んでいてはっきりとはわかりません」


 見たとは言えやっぱり有力な手がかりって感じではないか。


「私はその男を追ったのですが、部屋の前に来た頃には姿が見えませんでした」

「でも、この城で迷わずに逃げることができたというのはそれだけでヒントになりますわ」

「この城の中に犯人がいる……?」


 まるで推理小説みたいな展開だ。こんなに話が大きくなるとは思わなかった。


「とはいえ、メイドや騎士団や衛兵が盗んだとは考えづらいかと」

「そうだな……もし、城の中の人間が盗んでいたら、俺のスキルですでに見つかっているだろうし、隠しててもすぐ見つかりそうだ」

「隠し通すのは難しいですわ。だから、城の中の人間が、城の外の人間の力を借りた……もしくはその逆かもしれないと、さっきルーパートと話していました」


 なるほど、確かにそういうことも考えられる。


「まあ、一つ確かそうなことは、もうすでに龍玉は城の外に出て行ってしまって、もう見つけることは難しそうってことだな……」

「そう、なりますわね……申し訳ありません、お力になれなくて」

「いや、アドレーヌやルーパートが謝ることじゃないって」

「城の者の犯行であれば、同胞の犯行ということになります。衛兵も使って城の外も探そうと思っております」


 大事にはしたくなかったが、ローレリアの言っていたこともあるし、人手は増やした方が良いか。


「明日、俺たちも街の中を探そうか」

「絶対に取り返すの……!」


 ヘスタはいつにも増して目を燃やしていた。

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