第17話「進化した件」
「あ~~誰かがこの本の山を片付けてくれたらなあ」
「そういえば、アドレーヌはどうして図書館に?」
「騎士団長……元騎士団長が借りていた本についてローレリア様に聞かれていたんですわ」
「あ~~~僕みたいなか弱い女の子じゃたいへんだなあ~」
「クライアスが借りていた本?」
「聞くところによると龍族について書かれている本だそうですが……数ヶ月延滞した後に追放されてしまったので、紛失してしまったんですわ」
「あ~~~~お似合いのカップルが一緒に片付けてくれたらなあ!!」
「もう、ローレリア様は仕方ないですわね!」
見るからに面倒くさそうな話だったので、無視して帰ろうと思ったのだが、アドレーヌが反応してしまった。
仲が良いのか、アドレーヌの人が良いのか。
俺だけ帰るわけにもいかないので、話を聞くことにする。
「さすが騎士団員と冒険者様だよ~。えっとね、まずはこの本の山を見てほしい」
受付から司書室にまで、目に入るものは本以外にないくらい本の海だ。
「チェルダムは商業都市だからねえ。欲しくなくても本が大量に入ってきちゃうから整理しないといけないんだけど、配架が追いつかなくてね。ほんと、ビーストの手も借りたいって感じ」
「でもこんなにたくさんの本、素人の私たちが多少片付けたところで……」
アドレーヌの言う通り、素人が数人集まった所で焼け石に水だな。
図書館を見上げる。筒のように中央が開けて円上の壁に本棚が敷き詰められている。それが何段にも重なっているところを見ると、途方に暮れそうになる。
小さな書店ならともかく、本を仕分け、配架場所を探して、配架するという一連の作業を行うとなると……
「やらないよりはましかと思いますが……」
「ちなみに、本の分類法とかってあるのか?」
「もちろんだよ。僕のスキルはそのためにあるんだから」
彼女は本を一冊手に取った。
「本を見たらその本がどの分類なのか色で見分けられるし、本の名前や関連するキーワードが分かればそれがどの位置に配架されているかもすぐわかる……まあ、これはスキルがなくても分かる人には分かるんだけどね?」
まさに司書って感じのスキルだな。司書っていうより、本屋さんって感じもするけど。
「分類はできるけど、配架は身体でやるしかないからね。大して効率は上がらない。要するに、問題は人手不足なんだよね」
肩をすくめてお手上げといった様子。
「はあ……もっとこう、魔法で本が自動で配架されるようなスキルなら苦労はしないんだけどね?」
前世のファンタジー小説には似たような魔法が登場してきたような気がする。だが現実は非情。そんなに便利な魔法はないのである。
魔法がある時点で現実もへったくれもないわけだが。
「うーん……」
何とかしてやりたい気持ちはあるが、実際身体を動かすくらいしかできないのも釈然としない。
そういえば、俺のスキルって『情報処理』とかいうのもあったよな。
何か役に立てればいいが……
俺も本を一冊手にとって見る。『ハッキング』のスキルで情報を見てみることにする。
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タイトル :楽しい魔法教室(初級・炎属性編)
出版年:XXXX.YY.ZZ
筆者:ジャレイフ(ルーシティ魔法学校)
分類:魔法教育
場所:チェルダム王城図書館 第二書架
配架位置:549.81.1
件名:魔法 教育 炎属性
状態:配架待ち
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「うわっ」
「どうしましたの?」
「ああ、いや、何でもない」
前世で図書館の予約サービスの作った時にこんなのを見たな……
前世の記憶に触れて思わず声が出てしまった。
「そういえば、コーヤは奇妙なスキルを使うと聞いたけど」
「ああ、うん。簡単に言えば対象のステータスを見たり、ステータスを操作できたりするんだけど……」
「へえ! それは興味深いね。だったら、僕のスキルレベルを最大にして本を自由自在に扱えるようにしてもらえないのかな?」
「さすがにそこまで万能じゃない……」
何か適当な職業に変えられたりはできない。あくまでこの世界のルールに沿うかたちじゃないといけないらしい。
「ん?」
話しながら、少し気になることができた。
「図書館の本って、状態としては『配架待ち』の他には何がある? 『貸出可』とっか『貸出中』?」
「そうだね。詳しく言えば他にも色々あるけど、大きく分けたらそういう分類になると思う」
「なら、例えば……」
俺は『楽しい魔法教室(初級・炎属性編)』の本の状態を『貸出可』に変更した。
すると……
「え、本が勝手に……」
ふわふわと本に羽でも生えたかのようにそれは書架の方へと向かっていく。
「なになに? どういうこと?」
飛んでいった本を見送っていると、やがて本棚にすっぽり収まった。
「あれは魔法教育の棚ってことは、もしかして君のスキルで本が配架できたってこと!?」
「そういうこと、かな」
まさかとは思ったが、本当に自動で本棚に置けるとは……
本の状態を『貸出可』にするということは、それは本が本棚にあるということ。だから、状態を変えてやることで本棚に移動するんじゃないかと思って、その通りになった。
「これは……これは奇跡だよ! 魔法って本当にあったんだね! 凄いよコーヤ!」
ローレリアは俺に抱きついて飛び跳ねて喜んでいる。とにかく喜んでもらえたようでよかった。
「あ、あの……ローレリア様? ちょっと距離が、その……近くないですか?」
「ああ、ごめんごめん、嬉しくってつい。でも、コーヤが協力してくれたら僕の仕事もはるかに早く片付くよ、これでやっと本が読める!」
彼女は仕事を早く終わらせて、本が読みたかっただけらしい。
俺は仕事が早く終わった日は速攻で帰ってゲームしてたなあ。そんな時期が一年目くらいまではあった気がする。あれ、あったっけ?
「あ、でも喜んでいるところ悪いんだけど、俺のスキルは実は対象一つしか選べないし、一定時間経つと元に戻っちゃうんだ。だから、すぐにこっちに帰ってくるんじゃないかな」
「え~! そうなのか……残念だ……」
俺は試しにもう一冊本を手に取って、状態を変えた。その本も本棚へ向かって飛んでいく。
……あれ?
さっきの本は本棚から帰ってこない?
「そうか! 別に場所自体は変わらないから、本はそのまま。しかも、本の位置は本棚の中にあるから、そのまま『貸出可』になるのか!」
「お、おお? よくわからないけど、いけるってこと?」
「そうだよローレリア。これでこの本の山を片付けられる!」
なんかテンションが上がってきたので、俺は片っ端から本をハッキングした。
次々と本は本棚に収納されていく。
「アドレーヌは本を持ってきてくれないか? ローレリアはその本が正しい配架場所に行っているか確認してくれ。俺は本を本棚に入れていくから」
「了解!」
それぞれ分担し、役割をこなしていく。
途中アドレーヌが疲れたので交代しながら作業を行う。
数十冊と本をハッキングしていると、やがて自分の中の変化に気がついた。
あれ? 1度に2回ハッキングしてないか?
連続でハッキングしているうちに、気がついたら1度に2冊の情報を書き換えていた。
まさか、スキルのレベルが上がったのか?
「うおおおおおおおお!」
効率が2倍になり、今度はアドレーヌたちが本を持ってくるスピードを追い越した。
「もういい! 俺が置いてある本全部配架してやる!!」
こうなったら俺が直接ハッキングしに行くほうが早い。
「……っ! なんだこれ?」
やがて、俺のスキルはさらなる進化を迎えることになった。
「スクリーンが見える……」
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