第16話「盗まれた件2」
俺とヘスタは分かれて城を探索することにした。
ヘスタが変なことをしないか不安ではあるが、二人して城内をうろついても仕方がないだろう。
「そういえば、俺ってこの城に何があるかって知らないな」
ここに来て随分経った気がするけれど、実際まだ4日しか経ってないんだよなあ。
城をまわる時間もなかったし、この機会に色々見てみるか。
「あら? コーヤ様じゃないですか」
「お、ウィネットさん」
廊下をふらふらしているとウィネットさんとばったり出会った。
いつもニーナと一緒にいるイメージがあるから、こうして一対一で会うのは初めてかもしれない。
「お散歩ですか?」
「目的は違うんですが、散歩も兼ねてます」
変な言い方をしたので首を傾げられた。
「実は……」
単刀直入に龍玉が盗まれた話をウィネットさんにした。
メイドさんは遅い時間も何やらしているらしいので、もしかしたらと思ったが。
「残念ながら、怪しい者がいたという話は聞かないですね……」
「そうですよねー」
「衛兵だったら何か知っているかもしれません。アドレーヌ様とはお会いしましたか?」
そういえばアドレーヌとまだ会っていなかった。確かに、アドレーヌに聞けば何か情報を持っているかも。
「ありがとうございます、ウィネットさん」
「私は何も。アドレーヌ様ならさっき図書館の方で見かけましたよ」
「図書館?」
城に図書館があるのか。ウィネットさんに図書館の場所を聞いたので向かうことにした。
「そういえば、昨日は大活躍だったそうじゃないですか」
「あ、あはは……ありがとうございます」
彼女の耳にも入ったということは、ニーナから何か聞いたのだろうか。
「ふーん……」
ウィネットさんは
「ねえ、私ともお友達になってくれない?」
「え……え?」
急にいつもの慇懃な雰囲気とは違い、艶っぽい、扇情的な声音が耳をくすぐった。
「ニーナ様と同じように、私のことも普通に呼んでいいし、馴れ馴れしく接してくれていいから」
「友達になるのは、むしろこっちからお願いしたいくらいですけど……ウィネットさんって普段はこんな感じなんですか?」
すっと距離を詰めて上目遣いでそんなことを言われたら断れるわけがない。
これが素の彼女なのだろうか。
「さあ……もう随分メイド以外の顔はしていないから、忘れた。コーヤくんはこういうタイプの女性は嫌い?」
「そ、そんなことないですよ。メイドのウィネットさんもこっちのウィネットさんも素敵だと思います、よ……?」
むしろ精神年齢的にはどストライクです!
「ふふ、嬉しい。ああ、でもニーナ様の前ではいつも通り接するから、安心して」
何を安心する必要があるのかわからないが、とりあえず承知した。
「それじゃ、今日はこの辺でね。よかったらオフの日にお茶でもしましょう」
お茶まで誘われてしまった……もしかしてこれって脈アリってやつですか!?
まあ、さすがにそれはないか。こっちは記憶喪失(設定)の家なし金なしなんだから。
それも龍玉さえ取り戻せばまるっと解決できる。
俺は足早に図書館へ向かった。
◆ ◆ ◆
図書館にはウィネットさんの言った通り、アドレーヌがいた。
彼女は別の女性と何やら会話していた。
「ローレリア様も大変ですわね」
「前線に立っている兵士の皆に比べたら全然……おや?」
部屋に入ってきた俺に気がついたらしい。
「こ、コーヤ様!? お、おはようございます!」
「おはよう、アドレーヌ……どうかした?」
「い、いえ! えっと、今日はこんなところにどうして? もしかして、わ、私に会いに……」
「ああ、そうなんだけど……」
ちらっともう一人の女性に目配せすると、アドレーヌが気を利かせてくれた。
「ああ、そうですわね、お二人は初対面ですわよね? こちらはローレリア様。この図書館の司書をされてますわ」
ローレリアさんはアドレーヌよりも少し背が低く、青みがかったボブカットの少女だった。メイドさんや兵士の人たちと違って、制服のようなものではなく私服っぽいロングスカートを履いている。
落ち着いた印象なので、小柄でもヘスタよりは随分大人びて見える。
「改めて、僕はローレリア。君があのコーヤか……」
「はい、コーヤって言います」
ローレリアさんは少し僕を眺めた後、
「あなたがアドレーヌが自慢気に語ってた冒険者さんか」
「こ、こら、ローレリア様! そんなことは言わなくていいのですわ!」
どうやら昨日のことを広めているのはこの人らしい。
「あんまりハードルを上げるから一体どんな人かと思ったけど、優しそうな人でよかったよ。あ、僕は城の人間じゃなくて、外部の人間だからフランクに接してくれていいよ」
「わかった」
ローレリアさんはそう言ってふふっと笑った。花のような人だ。
「それで……私に用というのは……」
その横でもじもじしているアドレーヌ。そういえば、アドレーヌに会いに来たんだった。
「えっと……」
アドレーヌとローレリアさんにもことの敬意を説明した。三度目になるのでスムーズに話せた。
「そんなことが? もし盗人がいたとしたら許せないですわ」
「アドレーヌの方で衛兵とかから何か聞いてないか?」
「まだそういった話は来ていませんが、これから伺いますわ。昨日のことで兵士はバタバタしておりますので……」
そうか、騎士団長が追放されたからそりゃまだまとまってないよな。
「聞いてよコーヤ、アドレーヌって昨日の件で騎士団入りできそうなんだって。大昇進だよ。これもコーヤのおかげだね」
「ああもう! すぐ全部話してしまうんですから!」
「あ、もしかして自分から伝えたかった?」
怒られてへらへらと笑うローレリア。仲良さそうだなこの二人。
どうやら騎士団に入れることは誉れあることらしい。
「へえ、よかったじゃないか。おめでとう」
素直にお祝いすると、アドレーヌは顔を真っ赤にして、
「あ、ありがとうございます、わ」
としおらしく言った。
「しかし、盗まれた龍玉か……」
ローレリアが呟いた。
「昨日の今日で龍玉の件を知っている人は……アドレーヌが言って回ったから多少容疑者は増えたと思うけど、そんなに多くないとは思う」
「き、昨日の時点では誰にも言ってないですわよ!」
「なるほど~昨日はアドレーヌ一人で悶々と……ああ、わかったわかった、からかいすぎたからっ」
アドレーヌの形相を見て、さすがにローレリアは自制した。まあ、ちょっとからかいたくなる気持ちがわかるくらい、アドレーヌのリアクションは可愛らしかった。
「そうすると、容疑者はかなり絞られそうだけどね。昨日の一件に噛んでいる人。騎士団の連中をしらみつぶしに当たれば何か掴めそうじゃない?」
「そうですわね。外部からの侵入者がいれば、きっと衛兵が知っているはずでしょうし、内部の人の犯行であればローレリア様の言っている通りですわ」
アドレーヌも俺もうんうんと頷いた。この話を軸に調べていけば良さそうだ。大して時間もかからなさそうだ。
「もしかして、推理スキルみたいなのがローレリアにはあったり?」
話に関心して聞いてみたが、ローレリアは首を横に振った。
「司書にそんなスキルないよ。ただ、そういう本を読むのが好きなだけだよ」
推理小説が好みらしい。だったら、この程度の事件は朝飯前かもしれない。
「ありがとう、ローレリア。アドレーヌも聞き込みよろしくな」
「はい、おまかせください」
「はあ、僕もこの山積みの仕事がなければお手伝いできるんだけどなあ」
ローレリアは積み上がった本の山を眺めながらため息をついた。
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