第14話「今後の件」

「衛兵よ、伝達せよ、今後クライアスにはこの王城、そして私やコーヤ殿、そしてリトニーナに近づくことは許さない。また、クライアスの冒険者としての資格を剥奪する」


 当然の罰だろう。むしろ、国家反逆罪とかで指名手配にならなかっただけましだろう。


 王様は先程の話を受け、衛兵に言付けを頼んだ。


「それからコーヤ殿、今回は非常によくやってくれた。貴殿はまだ冒険者として手続きをしていなかったそうだな?」

「あ、そういえば……」


 確か、冒険者協会で手続きして、いくつか依頼をこなさないとダメなんだっけ?


「ていうことは、今回の件は……」


 取越苦労ってコト!?


「いや、私が協会に言って今回の成果も冒険者ランクに反映させてもらおうと思っておる。もちろん、クライアスの代わりにSランク、とまではいかないが、低ランクのお使いのような任務はある程度スキップさせてもらえるだろうな」

「そういうのも、冒険者の使命だったのでは?」

「はっはっは、さすがコーヤ殿は心得ておられる。なおさら安心だな」


 気を抜けない王様だ。

 個人的には下のランクからコツコツやっていきたかったところだが、大は小を兼ねるというし、ランクが高い分には良いか。


「クライアスもコーヤ殿のように殊勝な人間であればリトニーナをやれたというのに」

「あはは……」

「…………」


 愛想笑いする俺の横でアドレーヌがジトッとこちらを見ている。

 いや、調子乗ってるわけではないです。


「今日は疲れたであろう。ゆっくり休むといい」

「はい、では俺はこれで」


 一件を終えて、俺たちは部屋に戻った。


◆ ◆ ◆


「今日はお手柄だったな、ヘスタ」

「ふふん、ヘスタをお嫁にもらう気持ちになったの?」

「それはなってないけど……」


 嫁にもらう件は一生置いとくとして、ヘスタがいなければちょっと怪しかったところだ。

 あの傷の問答では完璧にあの男が認めるとは思えない。

 認めさせるには確固たる証拠がないといけなかった。

 それで都合よくヘスタが龍玉を取っていたというのが功を奏した。


「頭を撫でるといいなの」

「はいはい」


 頭のついでに顎までさすってやるとゴロゴロと鳴き出した。猫かな。


「そういえば、あの龍玉ってどうしたの?」

「あれはヘスタが持ってるなの」

 

 王様がお礼にとくれたらしい。


「それってどれくらいの価値があるものなんだ?」

「100万ゴルくらいなの。」

「……100万?」


 それって多いの? 少ないの? とは聞くまでもなさそうな金額だが……


「これ一つで街に家が建てられるくらいなの」

「王様はその価値を知ってるのか?」

「~♪」


 鼻歌でごまかすなよ。

 さすがに知った上で持たせてくれていると思うけども。


「てことはこの生活からもおさらばか……」

「爆速だったなの」


 まさかこんなに早く自立できるようになるとは思わなんだ。スキル様々だ。前世の俺、プログラミングやっててよかった。


「ガタッ」


 不意に部屋の外からそんな音なのか声なのかがした。


「ん、誰かいます?」

「あ、あの~私なんですけど……」


 どうやらニーナっぽかった。


「入っていいよ」


 本日初めてのニーナを拝んだ。


「今日はお疲れ様です。聞きました。すごい活躍だったんですね!」

「耳が早いなあ」

「それは、友達のことなんですから当然です!」


 俺みたいなやつのことで得意気になってくれるんだからやっぱり良い人だよこの人。


「それで……その件でお礼が言いたくて」

「お礼?」

「その、クライアスの件で……」


 なんでクライアスが出てくるんだろう?

 俺がよくわからないという顔をすると、ニーナは続けた。


「私、あのままクライアスがSランクの冒険者になったら、本当に結婚しないといけなかったかもしれなかったので」

「え、あれってマジな話だったの?」


 なんだかんだニーナの意志が尊重されるものだと思っていたのだが、そうでもなかったのか。


「順当に行けばクライアスは次期王様候補でしたから。王女である私が結婚するのが一番丸く収まったのです」


 クライアスは実力だけ見れば国を背負うほどの人間だったのか。それだけに今回の不祥事は残念だが、あの性格じゃいつか破綻していただろう。


「あの人は私のことを物のように扱います。私のことを見ているようで、話を聞いているようで、実は何も見ていないのです」

「呆れるくらいの成金精神だな……」


 せめて関係者の前くらい取り繕えよって感じだ。今日のだって、素直に話していれば何も失わずに済んでいたものを。


「だから、お礼なんです。私、またコーヤさんに助けられてしまいました」

「恩返しできてよかったよ」


 こんな笑顔が見れるなら猪でも狼でもなんでも何体でも狩ってやるよ。


「そういえば、王様にクライアスがコーヤみたいな人ならなって話してたの」


 いい雰囲気だったのに、へスタがなんか言い出した。


「そ、そんなお似合いとか言われても私もまだ全然将来のことはわからないというか……」

「また暴走してるって」


 そして別にお似合いとかは言ってなかった気がするな。


「えへへ……でも、コーヤさんだったら素敵な王様になれると思いますよ?」

「……っ!」


 ニコッと笑ってそんなことまで言ってみせる。

 不意打ちすぎるだろこんなの……


「ときにコーヤさん、もしかしてもうこの城を出るおつもりですか?」


 そういえば、さっきそんな話をしていたっけ。


「うーん、実は今日の件で大金が手に入りそうで」


 龍玉のおかげで自立できそうなことを話した。


「そう……なんですね……」

「ヘスタもいるし、あんまり長居するのも申し訳ないしな」

「そんな気にすることなんてないのに……」


 とは言われるが、この城で俺ができることなんて何一つないだろうし。

 かと言って家賃を納めるとかいうのもおかしな話だ。


「すぐってわけにもいかないと思うから、もう少しお世話になるけど、それまではよろしく頼むよ」

「そうですよね……まだ時間はありますから……」


 そりゃ友達が出ていくってなったら悲しくなるか……心苦しいが、これもお互いのためだ。


「いっそ、この城でみんな一緒に暮していけばいいの」

「!」

「なわけいくか」


 うるさいヘスタにデコピンを食らわせてベッドに帰す。


「そ、それじゃあ、私はこの辺でお邪魔しました。ゆっくり休んでください」

「うん、ニーナもお休み」


 ニーナを見送って俺は部屋の戸を閉めた。

 うーん……確かに、ここでニーナと暮らせたら幸せかもなあ。

 なんて、庶民の夢を見ながら、眠りについた。

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