第13話「ざまあな件」

 城へ戻るとすぐに王様に会いに行った。


「王様、ただいま戻りました」

「おお、コーヤ殿、それからへスタリア殿、戻られたか。アドレーヌも案内ご苦労。首尾はどうだった?」

「大方鎮静できたかと……それから、凶暴化の原因であったドラゴン・ボアもコーヤ様が討伐しました……!」

「な、なんと!? ドラゴン・ボアをコーヤ殿が?」

「え、ええ……まあ」


 我ながら身分不相応なことをしたと思った。初めてのお使いでS級のモンスター倒してしまったのだから。


「ホレス様! 騎士団長クライアス、ただいま戻りました!」


 豆鉄砲くらいったような顔で驚いていてる王様のところへ、クライアスが勢いよくドアを開けて入ってきた。


「クライアスか……」

「王よ、私は此度、ついにあの凶悪な魔物、ドラゴン・ボアの討伐に成功しました!」


 ……え?


「な、何!?」

「ふはは! 驚くのも無理はありません! 名高き冒険者があの魔物に無惨にも屠られてきたことを考えれば。しかし、これが私の実力なのです。誇り高き王城騎士団のSランク冒険者クライアスの!」


 やってんなあこいつ……

 あのドラゴン・ボアの亡骸を見つけて自分の手柄にしたのか?


「む、なんだ部外者、貴様生きていたのか。しぶとさだけは一流だな」


 虫でも見るような目を向けてくる。

 何が誇り高き王城騎士団だ。フラワー・ボアの群れから全力で逃げてたじゃねえか。


「アドレーヌも無事だったか、まったく、こんなどこの馬の骨かもわからないやつに付いていくからあんなことになるのだぞ?」

「こほん……クライアス、お前がドラゴン・ボアを倒したというのは真か?」

「もちろんです、亡骸は今運搬係のものに搬送させております。それが証拠になり得るでしょう」

「……今しがた、コーヤ殿たち一行がドラゴン・ボアを討伐したと報告を受けたのだが……どういうことかな?」


 当然の疑問だ。ドラゴン・ボアが2体いるとかじゃないと筋が通らない。


「何? この部外者がドラゴン・ボアを? 笑わせるなよ、お前のような剣も魔法もろくに扱えない一般人が奇跡を起こしても倒せるわけがないのだ」


 奇跡も魔法も使わずに勝ってしまったので気まずい。


「クライアス……では聞こうではないでしょうか。そのドラゴン・ボアが討伐された決定的な攻撃は? どのような傷があるかは討伐したあなたならわかりますわよね?」

「それはもちろん、私のこの騎士団のみが使用を認められているロングソードによる傷だ。斬られた跡を見れば私の剣であることがわかるだろう」

「傷の部位は?」

「顔だ。あの偉そうな顔に私が傷をつけてやったのだよ。少しはましになったぞ?」


 多分、動かないドラゴン・ボアの顔に傷をつけたのだろう。そんなことで倒せるなら苦労はしない。


「……クライアス、訂正するなら今のうちですよ?」

「なんだアドレーヌ? そちらこそ、見え見嘘は反逆罪となるぞ。その覚悟はできているのか?」

「どちらが……」

「アドレーヌよ、クライアスに問うたが、それは合っているのか?」

「いいえ、モンスターの傷を見ればわかると思いますが、致命傷は矢によるものです。腹部から縦に向かって矢が貫通しているはずですわ」


 それを聞いた途端、クライアスは吹き出した。


「矢!? 何を言い出すかと思えば……アドレーヌ! 今なら撤回しても不問にしてやるぞ。そこの男に何か入れ知恵をされたというならな」

「入れ知恵……?」

「嘘をつくにしてももう少しまともな嘘を考えろよ部外者。矢が腹から貫通している? まさか、ドラゴン・ボアの股下に潜り込んでから弓を引いて矢を放ったとでもいうのか? 王様、こんな戯言なぞ信じるに値しませんよ」


 弓は引いてないから少し違うけど、だいたいそんな感じだ。


「こんな馬鹿を庇う必要はないぞアドレーヌ。何を言われた? 秘密でも握られたか?」

「クライアス……私を侮辱することは許しますが、コーヤ様を愚弄することは許しませんわよ」

「はあ、王城の騎士もここまで腐敗したか……まあいい、私がSランク冒険者となりそしてゆくゆくはこの国の……お前は見てくれはいいからな。兵士を首になっても俺が面倒を見てやろう」


 本性出てるぞクライアス。最初から気に食わないやつだと思っていたが、こんなに歪んでいたとはな。


「しかし、アドレーヌ、コーヤ殿、クライアスの言う通りではある。今のところではお前たちの言うことは確かに信じられん」

「王様」


 ここで声を上げたのはへスタだった。


「これ、なの」


 最初からこれを出せばよかったんですけどね。

 まあアドレーヌのおかげで本性を炙り出せたってところか。


「これは?」

「ドラゴン・ボアの龍玉ですわ。クライアス、これを見てもまだ、あなたが本当にドラゴン・ボアを討伐したと言いますか?」

「な、何……? そんなもの偽物に決まっているだろ!」

「じゃあ、本物の龍玉は、あなたが持っているとでも言うの?」

「くっ……亡骸を解体すれば、出てくるはずだ……」

「苦しいですわね。私の方こそ、王城の騎士団の団長ともある方がここまで歪んでいたなんてショックですわ」

「クライアス、再度問うが、ドラゴン・ボアを討伐したのはお前か?」

「わ、私は……」

「慎重に答えよ、事と次第によってはお前をこの国から永久追放することだってできるのだぞ?」

「ぐっ……」


 クライアスは突然出口に向かって駆け出した。


「流石に、あそこまで言っておいて「嘘でした」とは言えないか」

「申し訳ありません、王様。クライアスや王様を試すような真似をしましたわ」

「いやいい。あいつは一度ああせねば分からなかった。それがこのタイミングだっただけだ。コーヤ殿も、身内が醜い真似をした。すまなかった」

「大丈夫です。疑いは潔白は証明されたと思うので」


 良いもん見れたからとはさすがに言えなかった。

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