第10話「騎士団長がムカつく件」

 謁見の間には王様と数名の兵士っぽい人たちがすでに何か喋っていた。

 俺は部屋の前でウィネットさんとニーナと合流してから入った。


「では、ドラゴン・ボアの討伐は我々王城の騎士団にお任せください」


 そう言ったのは金髪サラ毛でどこか鼻につく喋り方の男。

 もう話し方で人として合わなさそうな気がする。


「では頼んだぞ。この依頼を無事終わらせたあかつきには、貴殿をSランク冒険者に打診してやろう」

「ようやくですか! 一体どれほどこの時を待っていたことでしょう……おや?」


 俺たちの気配に気がついたのか、金髪がこちらを向いた。


「これはリトニーナ様! 公爵家からお戻りになられていたのですね!」

「はい、お久しぶりですクライアス団長」

「して、そこの平凡な方は?」


 誰が平凡やねん。


「コーヤです。昨日からニーナにこの城でお世話になっています」


 その瞬間、クライアスが剣を抜いて俺の首元で止めた。


「貴様、リトニーナ様を呼び捨てで……」

「ち、違うのです! コーヤは友達だから許していて」

「友達……? 貴様のようなよそ者が?」


 あー……これもしかしたらめんどくさい系の男かな。


「ふん、まあいい。今日のところは王様と王女様の御前だ。不問にしてやろう。ただし、あまり邪なことは考えるなよ」


 お前に言われたくねえと思いながら、愛想笑いで乗り切った。


「リトニーナ様、この度私は騎士団としてドラゴン・ボアの討伐を依頼され、この任務を終えればSランク冒険者になります」

「え、ええ……」

「その時には、私はあなたにお伝えしたいことがございます。もう、お分かりですよね?」


 やっぱりめんどくさい系のやつじゃないか。

 ニーナは困った様子で苦笑している。


「えっと……私は……」

「ここでは、何も言わないでください。まだその時ではございません」


 会う度にこんな話をこんな言い方で伝えられてるのかな。ニーナもたいへんだ。


「では私はこれで……」


 恭しく礼をして、もちろん俺には一瞥もくれずその場を去っていった。


「ニーナは大変ですね」


 俺はウィネットさんにだけ聞こえるように言った。


「あれでも騎士団長様ですから……無下にもできないのです」


 この様子だとメイドさんからも厄介に思われているようだ。


「おお、コーヤ殿。戻られたか」

「はい、王様……あの、お話というのは?」

「うむ、その件だが、少し頼まれてほしいことがあっての」

「王様からお頼み事ですか?」

「何、難しいことではない。最近この街周辺の街道に凶暴化した魔物が増えてな。お前たちが襲われた時のような被害も相次いどる」

「それは由々しき事態ですね……原因は何か特定できているんです?」

「おそらくドラゴン・ボアだ」

「ドラゴン・ボア……さっき言っていた?」

「ああ、やつを討伐すれば根源は抑えられるのだが、すでに凶暴化している個体はどうにもならんからな。……それを本来はクライアスに頼みたかったのだが……」

「だが?」

「断られてしまってな。あいつは最近ランクの高い依頼しか受けなくなってしまった。出世欲にとらわれている節があってなあ」


 なるほど、低ランクの依頼は下々にやらせておけばいいってタイプか。

 俺も会社員やってたから、そういう気持ちはわからないでもないが、仕事を選り好みするやつなんてだいたいろくでもないからな。


「ランクなどに糸目をつけず、人々のためになることを率先して行うのが冒険者だというのに、あやつは本質を見誤っておる。Sランクになればそれ以上はないから、あやつはもう上のランクに上げてやる方が良いのやもしれん」


 出世欲がなくなれば依頼を選り好みする必要はなくなるだろうな。そうすると、今度は簡単な依頼しか受けないようになるかもしれんが。プライドは高そうだし、そういうことはなさそうか?


「聞けば、コーヤ殿はすでに魔物の沈静化を行ってくれていたとな。それと同じ要領で沈静化を行ってもらえると助かるのだが……もちろん、危険がないわけではない。だから装備一式と誰か兵士を一人付き添わせよう」


 冒険者として最初の依頼ってことか。

 引き受ければ装備一式が手に入るわけだし、普通に考えたらお得なチュートリアルって感じだな。

 それに……


「王様からの依頼なら断れませんね」

「はっは、すまんな。職権乱用だったかな?」

「冗談です。もとより、こっちがお世話になっているところなので、これくらいの雑用はこなしてみせます」

「頼もしい、さすが娘の連れてきた男だ」


 ニーナが得意そうな顔をしているのをよそに俺たちは謁見の間を出た。

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