第8話「商人に求婚された件」

「あ、ありがとうなの! 私、へスタリアって言うの。ヘスタって呼ぶと良いの……」


 へスタリアと名乗る少女は腰を90度に曲げてお礼を言った。

 よく見るとまだ幼く、前の世界で言う中学生くらいの年齢だろうか。

 白いバンダナを巻いていて、その下から薄茶色の髪が伸びている。

 優しそうというか、気弱そうな雰囲気……こんな子供を狙うなんて、さっきの盗賊は余程食うに困っていたのか性根が腐っていたのか。


「お礼なんて良いよ。ここでは人助けは当たり前なんだろ?」


 持ちつ持たれつ、というより、さっきのはニーナを助けたって感じだけど。


「ニーナも無茶するよ」

「ご、ごめんなさいっ! 私何もできないのにあんなこと……」


 さすがに丸腰で挑むのは無茶すぎたよな。


「まあ、結果良ければ全て良しってやつだ」

「ニーナ様、コーヤ様が良くても私はよくありませんからね?」


 ウィネットが見たこともない形相でニーナに言った。

 ウィネットは怒ると怖そうだ。


「私もまたコーヤに助けられてしまいました……ダメですね」

「いや、ニーナは悪くないっていうか、むしろあそこで声を上げなかったら大変なことになってただろうし」


 王女としてニーナは何も間違ったことはしていない。悪いのは全部あのゴロツキだ。


「あ、でも……ヘスタ、何もお返しできるものがないの……」


 リュックをひっくり返しながらへスタリアは絶望したように言った。


「本当にお礼なんて良いって。それに、ここで物なんて渡したら君が損するばっかりだろ?」


 元々、商売道具を奪われないために戦ったんだ。だから、ここでまた何かもらってしまったらどっちがゴロツキかわからなくなる。


「でも……でも……」

「そんなに言うなら、また返せる時に返してくれよ。別に今すぐじゃなくていい」

「………………」


 あれ、慰めたつもりなんだけど、何故かこっちを見つめて黙ってしまった。


「え、どうしたの?」

「もらってください……」

「?」

「も、もらってくださいなの!!」

「な、何を?」

「ヘスタをお嫁にもらってくださいなの!!」

「は、はいぃ!?」

「!?」


 おい、なんかぶっ飛んだこと言ってきたぞ!


「え、ちょ、もら、って、ええ!?」

「ニーナ様、動揺し過ぎです」


 相変わらず何故かニーナが一番動揺していた。


「お嫁にって……君まだ」

「今は亡きお父さんが言ってたの! 一生かけても払えないものがある時は嫁ぐしかないって! 今がその時なの! この恩は一生かけても返せないの!」

「は、話聞いて!?」

「一人で旅してるから生活力はあるの! まだ若いし、スタイルも14歳にしてはそれなりに良いと思うの!」

「そういう話はしてなくて!」


 えっと、肉体が18歳なら14歳とお付き合いしてもセーフなんでしたっけ!?

 いや、危ない発想になってきた。平静を取り戻せ。


「やっぱりヘスタが貧乏商人だから……」

「そういうわけじゃなくて、ほら、年齢が」

「ヘスタくらいの歳の人はだいたいもう婚約者がいるの!」


 これが中世時代のモラルか……


「そんなに年齢を気にするなら、私が適齢期になるまで奴隷でも妹にでもすればいいの!」

「いやいやいやいや」


 奴隷って……まじでファンタジーの倫理観ぶっ壊れてるな。

 いや、この子の倫理観がぶっ壊れてるだけか。


「あ、あの!」


 ここでニーナが口を開いた。


「この方は今私のお城に住んでいて……」

「そ、そうなんだよ。俺家も金もなくてさ、ははは、こんな甲斐性のない男となんて絶対やめといたほうがいいよ」


 言ってて悲しくなった。


「ヘスタが働くの!」


 これが男女逆ならキュンときたかもしれんが、より悲しくなるだけだった。


「どうしてもダメ……なの?」


 上目遣いで眼をうるうるさせないでくれ~

 ここまで言われると、俺も男を見せねばという気持ちになる。家なし金なしだが。


「なあ、この子ってニーナのところで働かせるわけにはいかないのかな?」

「商人をですか?」


 何とかならないかと思って言ってみただけなんだけど……なんか漫画とかで商人が王様に売り込みに来てるシーンとか見たことあるし。


「ここは元々商人の街ですからね。商人には事欠かないですから」

「ヘ、ヘスタの……存在……価値……」


 あかん、存在の意味を考え始めてしまった。


「そもそも商人って何ができるんだ?」


 とりあえずハッキングしてみる。


「大したことはないの……アイテムの価値を測ることができたり、あとは荷物を無制限に持てるとか……」

「え、そんなことできるの?」

「?」


 これってすごい便利なスキルなのでは?

 特に今後冒険者とかになる上では必須そうだな。


「うーん……採用?」

「ふぇ?」


 俺が言うと、逆にへスタリアはぽかんとした。

 こうして、俺に初めての仲間ができた。

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