第6話「プログラマーが転生した件」

 翌日、俺たちは鑑定師様とやらに会いに行くことにした。


「鑑定師様ってどんな人なんだ?」

「そうですね……私も1度しかお会いしたことがないので、ちゃんとしたことはわかりませんが、接しやすい優しい方ですよ」


 だいたいそういう職業の人って水晶玉持ってる系のおばあちゃんなイメージがあるんだけど、どうなんだろう。

 会ってみればわかることか。


「そういえば、ニーナとウィネットさんもスキルを持ってるのか?」

「私は一応『神官』なのでちょっとした魔法は使えますが、ほとんど使う機会はありません」

「神官か……なんかすごそうだな」

「私の場合はそうでもありません。冒険者として活躍している神官の方々はもっとすごいですけど」


 スキルも使わなければ成長しない感じか。

 俺としてはちょっとした魔法が使えるだけでかなり凄い気がするけども。


「ウィネットは調理師ですね」

「はい、なのでお城の食事は主に私が担当しています。お二人のように魔法のようなものは使えませんが」

「あれウィネットさんが作ってたんですね! めちゃくちゃ美味しかったですよ! もはや魔法です!」


 思わず興奮気味に語ってしまったが、城の食事は本当に美味しかった。

 まさかウィネットさんが作っていたとは。


「ありがとう、ございます……」


 何故か少し動揺しているように見えた。興奮しすぎて引かれてしまったかな。


「鑑定師様ならきっとコーヤのスキルのことも何かわかると思います」


 そうして、俺たちは鑑定師の館と呼ばれる場所へ来た。

 中へ入ると、一人の若い女性が椅子に座っていた。


「これはこれは、王女様ではないですか」


 鑑定師は俺たちよりも少し年上の大人の女性だった。

 声が少し低く、眼鏡をかけてるのもあって真面目そうな印象だ。


「お久しぶりです鑑定師様、私のとき以来ですね」

「ええ、あの時はまだ私も駆け出しのときで……王女様も随分立派になられまして……」

「今日はこちらのコーヤのスキルを鑑定してほしいのです」


 紹介されて、俺は会釈した。


「ようこそ、鑑定師の館へ。とはいっても、私の家でしかないんだが……私はエルミリーと言います」

「エルミリーさん、俺はコーヤって言います」

「ふぅん……」


 早速鑑定されているのか、エルミリーさんは俺を舐め回すように見たあと、ちらっとニーナを伺った。


「コーヤ、ねえ」

「ど、どうかしましたか?」

「いやあのリトニーナ様が男を、しかもただならぬ関係ではないですか?」


 なんか、思ったのと違う鑑定をされている気がする。


「た、ただならぬ関係だなんて! ただのお友達です!」

「なるほどなるほど。では私が誘惑しても問題ないと?」

「ゆ、ゆう!?」


 ニーナは今にも卒倒しそうな感じだ。


「そ、それでどうしてコーヤは平然としているんですか!? こういうの慣れっこなんですか!?」

「そういうわけじゃないけど……」

「ははは! コーヤくんの方が余程豪胆だ! 私は気に入ったよ」


 気に入られたっぽい。なんか嬉しい。この気持ち……これが恋?


「冗談はさておき、今日はコーヤくんを鑑定すればいいんですね? お安い御用だ」

「冗談……冗談って……」

「コーヤ様のスキルについてですが……」


 おちょくられて不貞腐れているニーナに変わってウィネットが昨日のことを説明した。


「テイム? だったら鑑定するまでもなくテイマーな気がしますが」

「でも、テイマーではないのです」

「テイマーではないのにテイム。ほう、それは面白い」


 エルミリーさんは手のひらで何かをなぞるような動作をした。すると、彼女の眼の前にメニュー画面のようなものが表示された。


「コーヤくん、職業は?」

「プログラマーです」


 職質みたいな感じだ。


「プログラマー……? 聞いたことないね、そんな職業」


 そりゃそうだろうな。

 そもそも、プログラミングするようなものがこの世界にはないだろうし。パソコンどころか電話機もないだろう。


「とにかく鑑定してみよう。私のスキルなら君のスキルが何であれどういう効果があるのかはわかるからね」


 彼女は手のひらをこちらに向けて「鑑定」と言った。


「プログラマー……スキル、プログラミング? それから、ハッキング? あとは情報処理、情報操作、暗号解読……」


 俺にとっては聞き馴染みのある単語が並んでいるが、他の人間から聞いたらそれ自体が呪文みたいなものだろう。


「とにかく、情報に強い職業みたいだな」


 めっちゃ情報に弱そうな発言だったが、つまるところはそういうことか。


「そのプログラミングとかハッキング? というのはどういうスキルなんでしょう?」

「この2つのスキルは2つで1つって感じですね。効果は……『対象のステータスを改変できる』……!?」

「改変って……?」


 さっきまで飄々としていたエルミリーさんは今は深刻そうな顔をしている。


「これは、とんでもないスキルだな……」

「あの、そんなヤバいやつなんですか……?」

「効果がどれほど持続するかはわからないが、仮にこれが永遠に改変できるなら、人一人を完全に無力化することだってできる……」

「そんなっ」


 たとえば、俺がニーナの『神官』の職業を『料理人』に変えることもできるってこと?

 確かに、それがたやすくできると考えたら相手から見ると恐ろしいかもしれない。


「こんなスキル、悪用し放題じゃないか……」

「い、いや、俺悪用なんてしませんよ!」

「そうです! コーヤさんはそんな人じゃありません!」


 まあ、ハッキングは前の世界でも悪用厳禁だったからな。それはこの世界でも同じらしい。


「幸いにも大人数相手だと難しいスキルみたいだし……それもスキルの成長度合いによるが……とにかく、使い方によっては恐ろしいスキルだ」

「……なるほど、だからあの時、コーヤ様はフォレスト・ウルフをテイムできたんですね?」

「魔物には凶暴化状態と協調化状態がある。それをコントロールすることだって、このスキルならできるでしょう」


 よくわからないが、テイマーの上位互換みたいな感じなのかな。

 戦々恐々としているエルミリーさんだが、一方でニーナの表情は明るい。


「でも、それってコーヤさんが凄い人ってことですよね?」

「凄い人……まあ、それは間違いないかと」

「確かに悪用されたら怖いかもしれませんが、でもコーヤさんはそんなことしません! だから、これは恐れるべきことではなく、むしろ安心できることですよ!」


 彼女は俺のスキルをポジティブに受け取ってくれた様子だ。


「リトニーナ様の言う通り、これは悪用されるとまずいけど、味方ならこれほど安心できるものはありません。『ハッキング』のスキルは鑑定師のスキルも一部使えるみたいだし、サポート役としてはこれほど有用なスキルもないでしょう」

「やっぱり! 私を助けてくださった恩人はとても凄い人なんです!」


 先程まで怪しかった空気が、ニーナの言葉で一気に流れが変わった。


「すごいですよコーヤさん! これは最強のスキルです!」

「あ、ありがとう……」


 プログラマーであることを褒められたみたいで少し嬉しかった。前の世界だとこんな喜ばれ方はされないだろう。

 とにかく、ニーナが喜んでくれるならよかった。


「とりあえず、役に立てるスキルでよかった」

「鑑定師としては、このスキルを世のために使ってくれることを祈っているよ」


 エルミリーさんの面目のためにも、悪用なんてできないな。

 何より、助けてくれたニーナやウィネットさんを裏切るような真似はできない。


「今度は俺がニーナに恩返しできるように頑張るよ」


 持ちつ持たれつ。助けられた分はちゃんとお礼しないと。

 俺の当面の目標が決まった。

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