第5話「友達ができた件」

「こちらの部屋をお使いください」


 リトニーナ様に案内されて王城にある城の一室に通された。


「おお……」


 使われていないとはいえ、王城の一角。元の世界の俺の家の3倍はあるだろうか。使われていない間もしっかり手入れがされていたらしく、ホコリは一つも落ちていない。

 ベッドと机とクローゼットしかないが、それだけで十分だ。


「正直めちゃくちゃ嬉しいんだけど、本当にこんなにしてよかったんですか?」

「もちろんですよ! もし何か足りないものがあれば、遠慮なくウィネットや他の従者に言ってください」


 前の世界では何かしても大してお礼なんてされないから、こんなにもてなされるとそれはそれで気を遣う。


 にしても過剰な気がするな……それもやっぱり王女としての威厳なのだろうか?


「ちょっとやりすぎなんじゃないかって思っていませんか?」


 心を読まれたと思って驚いたが、俺は素直に頷いた。


「うふふ、でも、お気になさらず。これは私たち王家の家訓のようなものなのです」

「家訓?」


「この国は私のご先祖様が建国しました。ご先祖様はまだ無名だった頃、自分の身を粉にして人のために生きました。生きている間に救った人は数知れず。やがて、彼に救われた人は恩返しにやってきました。そうして集まった物資と資金で作られ始まったのがこの国だったのです」


「すごい、立派なご先祖様だったんですね……」

「昔の話なので脚色はあるかもしれませんけどね。……それ以後、誰かを助けることを厭わず、誰かに助けられた時には惜しまずを家訓として教えられてきました」

「それで、こんな手厚くしてくれるわけですね」


 なるほど、持ちつ持たれつの関係か。

 それで国が建つんだからすごい話だ。


「なので! コーヤさんはお気になさらずもてなされてください!」

「ありがとうございます。それじゃあ、お言葉に甘えます」


 そう言って笑いあった。


「ああ、でもここにずっと居座るわけにはいかないし、どうしたものか……」


 最初の問題はクリアできたけど、次の問題がある。

 ここにずっと居座るのも申し訳がないし、だいたいこういうところに一般人がいると面倒事に巻き込まれるのがセオリーだ。


「そういえば……」


 今まで黙って話を聞いていたウィネットが口を挟んだ。


「コーヤ様はご自身のスキルがわからないとおっしゃっていましたよね?」

「そう、ですね……」


 正直言うとスキルというものについてもあまり理解していない。


「それじゃあ、鑑定師様の家に行ってみてはいかがでしょう?」

「それは名案ね! 鑑定師様ならきっとコーヤさんのスキルについても何かご存知かもしれません」


 鑑定師か。なんかスキルとか適正とか見てくれるんだっけ? 就活みたいだな。


「そうですね……まずはそこから始めてみます」


 本当に社会復帰する人みたいになってきたな。現実は甘くない。


「では、明日また街を案内しますね! 今日はゆっくり休まれてください」


 天使のような笑顔を見せてリトニーナ様とウィネットさんは部屋を後にした。


「あ……コーヤ様?」


 リトニーナ様が戻ってきた。


「ん、どうしました?」

「あの……もしよかったらえっと……お友達、になっていただけませんか?」

「と、友達?」


 俺28歳ですよ? いや、今は18歳なのか


「ああ、嫌だったらいいのです! ……私、恥ずかしがらなウィネット以外に同年代の友達がいなくてですね……いつも城の中にいるので交友関係も狭いですし」


 さっきまで王女様として振る舞っていた彼女は、今は一人の少女だった。

 王女様の悩みか……まあ俺も前の世界会社から一歩も出なかった時もあったし、おかげで交友関係は途絶えたし、似たもの同士か。


「あはは」

「な、何かおかしかったでしょうか!」

「いや、違うんですよ。なんか、変なところで親近感が湧いて……」


 本当に変な話だが、どんな人でも悩みはあるってことか。


「もちろん、王女様とお友達になれるなんて願ってもない」

「王女だなんて、やめてください……私のことはニーナとお呼びください。ウィネットと同じように」

「ニーナ様?」

「ニーナです」

「……ニー、ナ?」


 おい、こんなイベント俺の学生時代になかったぞ!

 変な汗が出てきてしまう。


「じゃあ、俺のこともコーヤで良いですよ」

「コココココ、コーヤ、様!」


 俺以上に焦ってる上に何も変わってない。

 その様子に思わず笑うと、ニーナも笑った。


「話し方もお友達と話すような感じで、普通にしてください」

「それじゃあ、お言葉に甘えて……」


 お姫様相手に少し馴れ馴れしい気もするが、頑張ってみよう。


「じゃあ、また明日から、よろしくお願いします」

「うん、おやすみなさい」


 そうして、俺はとんでもない人と友達になってしまった。


 二人が出て行ってからベッドに寝転がって脱力した。


「はーーなんだこの世界は」


 なんかいきなり狼に襲われ、気がついたら王城に招待され。

 スキルもよくわからないし。


「テイムがテイマーしかできないって言ってたよな……職業によって使えるスキルが違うってことか。それで、俺は確かプログラマーだったよな……」


 プログラマーにしか使えないスキル? それってつまりプログラミングだよな。

 ということは、俺は何かをプログラムした結果、あのフォレスト・ウルフを手なづけたってことか?

 それってどんなスキルなんだよ……


「まあなんとかなるだろ」


 考えてもどうしようもないことは時間が解決してくれるはずだ!

 そんなことを考えていたら、その日は一撃で寝れた。

 久しぶりに寝た気がした。

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