第4話「王城に招待された件」

 俺はリトニーナ様とウィネットさんに王都チェルダムを案内してもらった。


「商業都市とは聞いてましたけど、すごい活気ですね」

「チェルダムには世界中から商人が集まりますから、物が人を呼び、人が物を呼ぶ、そうして、繁栄していったのがここチェルダムなのです」


 街としてはかなり安定しているみたいだ。スラムみたいなところだったら本当に行き倒れていただろうから、正直安心だ。

 とはいえ、前世の価値に照らし合わせると、こういうところは家賃とかも高そうだし、しばらくは火の車を見そうだ。


「あ、あれがリトニーナ様のお城ですか?」

「はい、その通りです」


 街の中ならどこにいてもわかりそうな高く大きな城。

 それを見て改めてファンタジー世界に入り込んでしまったと実感した。


「すげえな……」

「この城を見に来るためにこの街を訪れる観光客もいますからね」

「ここの通りを抜けたらすぐですよ。さあさあ、急ぎましょう!」


 リトニーナ様はウキウキで少し小走り気味に道を進む。

 俺たちもそれを追うように城を目指した。


◆ ◆ ◆


 城に到着すると、俺たちは国王の待つ謁見の間にやってきた。

 広々とした空間にどでかい玉座があり、そこに一人の男性が座っている。


「ただいま戻りました、お父様」

「おお、無事に帰ったかリトニーナよ。ウィネットもご苦労だった」

「はい、お父様。務めも恙無つつがなく」

「それは大義だった。しばらくは城の中でゆっくり過ごしなさい……して、そこのお方は?」


 王様は俺を見て聞いた。

 こういうときってなんか、傅いたりした方がいいのかな。さすがに日本の将軍じゃないから土下座とかする雰囲気じゃないけど。

 俺はつったまま話を聞いていた。


「まさか……お前、旅の途中でこ、こ、こ、恋人を……!?」


 つったってる場合じゃないかもしれない。


「ち、違うのお父様!? そ、そういうわけではなく……」

「お前を使いにやる上で一番心配だったのはそこだったのだが……まあ連れてきてしまったものはしょうがない」

「お、お父様……」

「言うなリトニーナ! ワシは娘が連れてきた男にとやかく言うようなめんどくさい親にはならぬと決めておったのだ。お前が連れてきた男を信じるのみ。さあ、そうと決まれば今日は宴じゃ! ウィネット、早速準備にかかれ」


 なんでここまで来てツッコミ不在なの!?

 それとも、俺が何とかしないといけないのか? 国王相手に。


「……王様。残念ながら、このお方はニーナ様の許嫁ではありません」

「…………?」


 なんであんたが困惑してるんだ、王様。


「誤解にございます。こちらのコーヤ様は、道中で私達を助けってくださったのです」

「そ、そうですお父様! コーヤ様があったからこそ、私とウィネットはここまで無事に帰還することができました。まさに命の恩人なのです!」

「命の恩人……」


 なるほど、この父親あってこの娘なのか。

 リトニーナ様の勘違いで止まらなくなるのは父親に似たからか。


「そ、それは助けてもらった時はちょっとかっこよかったというか、初めての経験でしたので多少ドキドキはしたことはないと言えば嘘になりますが、私だってチェルダムの王女ですので、節操というものはございます故、そういったことはちゃんと関係を築き上げてですね……」

「ニーナ様、ボロがすごいですよ」


 娘の方がひどいみたいだ。

 ウィネットさんがいなければ今頃本当に結婚させられていたかもしれないな。後でちゃんとお礼を言っておかないと。


「え、えっと……申し遅れました。リトニーナ様からご紹介に預かりましたコーヤと申します……」


 自己紹介し始めたところで、ようやっと王様の整理がついたらしい。


「なるほど! それを早く言わんかリトニーナ。危うく隠居しかけたわい」

「い、隠居って……」

「ニーナ様は唯一の子息ですので……」


 後ろからウィネットさんが補足してくれた。

 なるほど、結婚していたら俺が次期国王になってたというわけだ。

 ……普通に国1つ棒に振りかけてたということでよろしいか?


「この国大丈夫なんですか?」

「…………」


 ウィネットさん、そこは虚勢でもいいので頷いてもらわないと。


「コーヤ殿と言ったか。うちのリトニーナとウィネットが大変お世話になった。貴殿は冒険者か?」

「いえ、その……申し上げにくいのですが、リトニーナ様たちと出会う前の記憶がなくてですね……」

「記憶がない? 記憶喪失ということか?」

「率直に申しますと、はい……」


 記憶喪失って気まずすぎない? 診断書とかもないしな。記憶喪失で診断書が出るとか知らないけど。


「それで、この城の空いている部屋にしばらくの間泊まってもらおうかなと思っています」

「え、いいんですか?」


 願ってもない話だった。住む場所もこの世界でお金を稼ぐ術もない俺にはありがたすぎる話だ。


「もちろん、コーヤ様が良ければ、ですが……」

「ふむ……」


 彼は少し思案した。

 まあ、娘が急に記憶喪失の男を家に泊めようとしているのだ。王様としては考えるところもあるだろう。 

 だが、ことは思ったよりあっさりだった。


「うむ、さっきも言ったが、リトニーナの連れてきたお方だ。恩人ともなれば、丁重におもてなししなさい」

「あ、ありがとうございます、お父様!」


 俺もリトニーナ様に続いてお礼を言った。

 振り向いたリトニーナの顔は晴れやかだった。


「よかったです、コーヤ様!」


 守りたいこの笑顔。

 俺はこうして、しばらくこの城でお世話になることになった。

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