第2話「異世界に来た件」
気がついたら、俺は車の中にいた。
車……いや、そんなハイテクなものじゃない。
荷馬車、か?
ガシャガシャと、時々強く揺れながらどこかへ運ばれている感じがする。
窓の外を見るとどうやら森の中みたいだ。木漏れ日が眩しい。
中には俺以外にも数人、RPGのキャラクターみたいな服装の人が同乗している。
俺の隣にはおっちゃんが一人、向かい側には女性が二人座っている。
(まるでゲームみたいだ……)
そう思いながら、俺の服装も彼らと似たようなものになっていた。少なくともユニ◯ロのシャツではない。
「あんた、よく寝てたのう」
隣のおっちゃんから話しかけられた。無精髭の俺よりも二周りは上の初老の男だ。
「えっと、俺寝てました?」
「いやあ、いびきはかいとらんかったよ。まるで死んでるみたいに静かに寝とった」
寝てた、のか?
「あの、すみません、ここは?」
「なんじゃい、寝ぼけとんのか? これはチェルダム行きの馬車。まあ、もう小一時間で着くじゃろ。安心せえ、着いたら起こしちゃる」
チェルダム……? どこ? さすがに二度寝している場合じゃないか。
夢って感じでもない、俺は今すごい生きているし、尻に馬車の振動も感じている。
「あの、チェルダムって?」
「はあ? 知らずに乗っ取ったんか? 相当寝ぼけてるようじゃの」
「あはは、だいぶ寝ぼけちゃったみたいで……」
だいぶ苦しい言い訳だが、とにかく情報を集めねば。
「王都チェルダムは大陸一の商業都市、グラスター大陸で最も金の集まる場所じゃ。お前さんも冒険者としてチェルダムに出稼ぎに行くんじゃないんか?」
なるほど。ますますRPGゲームの中、というか異世界モノのラノベみたいだ。
これで「ステータスオープン!」とか言ってステータスが出てきたらまさにって感じだが……
(す、ステータス、オープン?)
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コーヤ 18歳
レベル:5
職業:プログラマー
HP:50
攻撃力:10
防御力:10
魔力:20
敏捷性:10
所持ゴールド:180G
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頭の中だけで唱えると、本当に眼の前にステータスが出てきたぞ……
年齢18歳? なぜか10歳若返ってる?
レベル、職業、HP……「職業:プログラマー」以外はよくわからんな。レベル5って強いのかな?
「お前さん、職業はなんじゃ?」
「職業、プログラマー……らしいです」
「ぷおぐらまー? 聞いたことないのう」
馬車で移動しているような時代にプログラマーなんて言ってもわからねえか。
あまりにも情報が足りてない。とはいえ、この馬車の中でできる情報収集はこのくらいか……
と、その時、馬車が急停車した。向かいに座っていた女性が小さく悲鳴を上げた。
「なんじゃなんじゃ? 馬の機嫌でも悪いんか?」
「お、お客さん! 大変です!」
御者が慌てた様子で俺たちに呼びかけた。
「し、進路にフォレスト・ウルフが現れまして!」
「フォレスト・ウルフじゃと!? すぐに後退せえ!」
「ここで慌てて動けば馬が襲われてしまいます!」
「じゃあどうするんじゃ!? まさかワシらに戦えとでも?」
言い争う御者とおっちゃん。
どうにかできないかと御者は乗客を見回した。
(これ、完全に俺がどうにかしないといけないパターンじゃね?)
乗客は俺とおっちゃんと女性2人……武器らしい武器も持っていない。
彼女たちは俺に「なんとかして」の眼差しを送っている。こっちがなんとかしてほしいくらいなんだけども。
「お兄さん! 助けてください!」
「え、ええ……」
いやウルフとか言われても……俺ひのきの棒ですら持ってないんですけど?
とはいえ、もう俺がなんとかしないと、全員ウルフさんの餌になっちまうのか。
「と、とりあえず、やれるだけのことはやるか……」
俺は荷馬車から降りた。
荷馬車の前にはフォレスト・ウルフ……蔦の生えた狼が3匹、紅い目をギラつかせて馬を威嚇している。
馬は完全に縮み上がっていて一歩も動けそうにない。
本当にファンタジー世界のモンスターじゃねえか……
「た、たのみましたよ!」
無責任すぎる応援をいただいたところで、俺は必死に脳をフル回転する。
でも、これがRPGなら、多分何かしらのスキルで……俺スキルってなんか持ってんのか?
「えっと……スキル~『
念じるというよりかは祈るように手をつきだすと、光のようなものがウルフに向かって飛んでいった。
「ぎゃふ?」
だが、ウルフたちは顔を見合わせて何事もなかったようにキョロキョロしている。
「いや、そりゃ俺魔法なんて使えねえもん!」
「ダメだ~~!!」
御者が諦めの声を上げると、それを合図にウルフたちがこちらに向かって飛びかかってきた。
「クソっ! なんでこんなことに!」
自分の運命を嘆きながら、飛びかかるウルフを避けようとして、俺は尻もちをついた。
死を覚悟して目を瞑る。
ああ、結局俺は死ぬのか……
「……あれ?」
しばらく目をつむるが何も起きない。
うっすら目を開けると、なんと3匹いたウルフの1匹が他のウルフを攻撃していた。
「な、仲間割れか?」
「よ、よくわかりませんが、助かりました! お兄さん、早く馬車に乗り込んで!」
「は、はい!」
俺は飛び乗るようにして馬車に転がり込み、それと同時に馬車は走りだした。
「な、なんとか助かった。ようやった兄ちゃん!」
腰が抜けて跪く俺におっちゃんがねぎらいの言葉をかけてくれた。
「あの……冒険者さん、ありがとうございました!」
同乗していた女性にもお礼を言われた。
まあ俺は何もしてないし、冒険者でもないんだけど……しがないサラリーマンです……
ひとまず危機は脱し、馬車はチェルダムの街へ向かって再び走り出した。
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