第35話 異変

リファルが、意味ありげな目線を送って来たのを、エルタカーゼは、笑みで返していた。二人の目線のやり取りに、桂華は、違和感を感じた。

「ねぇ・・・そんな事より」

希空を返して。約束でしょう?そう言いたかった。が、口を開きかけた瞬間、大きな地響きが、その場にいた全員を襲った。縦に大きく揺れ、血の底から響き渡る低音の叫び声が、辺りを襲った。

「陸鳳!」

陸羽は、目の前の光景に言葉を失った。尊敬していた山神の陸鳳が、両耳を抑え、蹲っているのだ。勇敢で、誇り高い王の姿に、陸羽は、愕然とした。

「何があった?」

あの胸から背中にかけた赤い痕と言い、血の底からの咆哮にひれ伏するような兄でない事は、知っている。この醜態は、何があった?

「音が・・・頭が痛い」

苦しそうに両耳を抑える陸鳳。陸羽は、どうしたらいいのか、わからない。

「ダメだ・・・行っては行けない」

幻覚が見えるのか、走り出す陸鳳。

「待て、陸羽」

陸羽は、追いかけ、後ろから、羽交い締めするが、恐ろしい力に負けそうになる。

「いったい、何が」

揺れと咆哮は、しばらく続き、リファルもエルタカーゼも立っているのがようやくだった。建物が、崩れるといけないと思った、桂華は、扉を蹴って、外へと飛び出し、陸羽と一緒に、陸鳳を押さえ込もうとした。

「いけない。危険だ。離れろ」

「ダメよ。こんなに苦しんでいる。何かが、あるのだわ」

「音か?」

桂華は、陸鳳の耳元に唇を寄せた。

「大丈夫。大丈夫」

「そんなんで、落ち着くわけがない」

地の底からの咆哮が怖くて、苦しんでいるのではない。何かが、関連づけられているのだ。自分でも、どうして、こんな事をしているのか、わからなかったが、暴れる陸鳳を抱えて、大丈夫と何度も呟いていた。

「見て・・・リファル様」

その様子を、エルタカーゼが見ていた。暴れる山神を抱き抱え、耳元で、宥めるように呟く桂華の姿。

「えぇ・・・見ています」

リファルは頷く。

「やはり、彼女にする事にします」

「そうですね」

二人は、頷き、合わせたかの様に、咆哮は、鳴りやんでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る