第34話 山燃える夢は、幻か、、現実か。
西側の山が燃えていた。もうすぐ、陽が沈む。夕日に照らされた山々が、オレンジ色に染まるのだが、陽葵は、何故か、背中の毛が逆立つのだ。山が燃えているような悲鳴を上げているのだ。遠くから聞こえる悲鳴は、山に住む生き物達の悲鳴。陽葵の目には、燃え盛る炎を前に、逃げ惑う生き物達の姿が見えていた。
「嘘でしょう?」
炎竜だ。何匹もの、炎竜が、山の奥から現れ、追い立てる。逃げ惑う小動物達。大きな鹿が、炎龍に追われ、力尽きる。
「これは、夢なのか」
炎竜葉、もう、遠い日に絶滅したはず。怒れる山の化身とも言われ、もう、山々は、静まり、そんな力は、残っていない筈だった。夢なのなら、何故、こうも、リアリティなのか。
「止めてよ・・・今は、駄目だよ」
今は、陸鳳はいない。何を察したのか、急に、飛び出して行き、戻ってこない。陽葵の小動物ならではの勘が危険を知らせていた。
「夕陽ではない。でも、現実でもない。これは知らせだ」
見上げる山が、地底からの不気味な音を響かせていた。
西の山の不穏さは、時量師の創宇の耳にも届いていた。山から降りてきた風は、真っ直ぐに創宇のいる寺に届く。伊織の耳にも、聞こえている筈だが、伊織は、朝から、どこかに出かけているのか、顔を見せる事はなかった。
「伊織?」
最近、伊織がおかしな行動をとる事が増えていた。長い年月の間に、把握できない行動をする者の中には、創宇に二心を持つ者が多かった。陣を守護し、力を得る事に慣れると、自分の力で、陣を守っていると錯覚し、怠惰になる。創宇の力を見下し、自分が権力の座に就こうとする。その座の下に、創宇の庇護の元、眠り続ける始祖の神がいるとも知らず。伊織もその手なのか。自分を信頼し、支えてきた伊織も裏切るのか。
「おい、伊織?」
何度か、声を上げた所で、ようやく、伊織が顔を出した。
「何があった?」
「いえ・・・」
何かを言おうとして、伊織は口篭った。
「何か、隠しているな」
「それが・・・」
「いいから言え」
裏切っているなら、このまま、消してしまおう。そう思った時に、伊織は、ようやく口を開いた。
「実は、あの・・・捕まえていた栗鼠なんですが・・」
「あぁ・・あの栗鼠か」
「どうも・・・この国の生き物では、なかったようで」
「この国の?」
「異国の者です。冥府に関係あるかと」
冥府と聞いて、創宇の眉尻がピクッと動いた。
「冥府とは」
冥府には、咲夜姫の魂がある。咲夜姫が、小さな栗鼠の姿に変えて呼び込んだのか。ただ、それは、もう、逃げ出し、ここにはいない。
「探すのだ。何としても」
炎竜の声が、創宇の頭の中に、響き渡っている。が、彼には、咲夜姫と同じ冥府から来た栗鼠が気になっていた。
「栗鼠が、本当の姿とは、思えない。他の獣神達に伝えるように」
咲夜姫の行方を知りたい。創宇は、炎竜の事を後回しにしてしまった。
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