第33話 春の夢を見る姫は、目覚めるのか

観光客が多く訪れる古城には、古い伝説があった。遠い戦国時代の武将が寺社を建て、陣を造ったと。地に住む者の中には、異をを唱える者が多くいた。武将が陣を作ったのではなく、古来からあった。その所々に、墓碑があり、妖魔がよく出ていた。それらを鎮める為に寺社を建てたのだと。だとすると、それらの墓碑は、誰の物だったのだろうか。創宇は、香炉を準備すると、咲夜姫が好きだった、香を引き出しから出すと、火を付けた。

「咲夜姫・・」

炎の中に、はっきりと咲夜姫の姿が浮かび上がる。

「お前から、時間の流れを奪う事を許してほしい。これから先、お前は、長らく生き続け、この物語の終わりを見る事になるだろう・・」

咲夜姫は、長い眠りに着く時、彼にそう言った。

「どうしても、行かなくては、いけませんか?」

「人の情が戻る前に、行くことを許してほしい。このままでは、私は、一人の女子になってしまう」

「それでも、私は、かまいません」

創宇は、引き留めたかった。どうして、目の前の大事な女性が、一人、行かなくてはならないのか。納得がいかなかった。陣の下には、大陸のプレートが幾つも、重なり、ちょうど、この地が、地上の中心になっていると聞いた。地球を三角形のピラミッドに例えるなら、この地が頂点だとも聞いた。

「幾つもの世界から、妖魔が入り込む」

陣を作り封じ込めなくては、プレートが裂け、多くの妖魔と共に、マグマが吹き出し、この世を終わらせる。

「その時が来るまで・・・」

咲夜姫だけが、抑える事ができる。その日まで、創宇が陣を守る。そういう約束だった。香炉の中で、炎が揺れている。記憶の中の咲夜姫の姿も、すっかり、色褪せてきた。

「今がその時なのか?」

不可解な事が起きている。陣が、狂い始めている。プレートがずれているのか、最近、震度は、低いが地震が増えているのも事実だ。ゆっくりと、ピラミッドの頂点が、口を開け、妖魔を吐き出そうとしている。

「何が、起きているのか」

獣神達が、抑えている祠から、紫の煙が上がっているのを、何人もの守人達が見ている。陣の効力が落ち、海の向こうからも、異神が、現れている。

「伊織!伊織は、どこにいる?」

急に何かを思い出し、創宇は、叫んでいた。


伊織は、永年、創宇に服従してきた。だが、最近、彼の耳元で、囁く者が現れていた。

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